第781話 アンジェラとジョージとネイト

「アンジェラは、上手にお辞儀できるようになったね?えらいね?」



 頭を撫でてやると目を細める。もっと撫でてという顔をしているので、抱き上げる。

 ジョージアに抱きかかえられることが多いアンジェラは自然と首に腕を回してぴったりと抱きついてきた。



「アン、えらい?上手?」



 ニシシと笑うので、まるで自分が子どものときのことを思い出した。


 厳しいお母様に褒められると、嬉しかったな。



 私もアンジェラと一緒に笑うと、ジョージアがそっくりだね?と微笑んでいた。



「母娘ですからね!ソックリですよ!そういえば、ジョージとミアはどこに?」

「ジョージは、セバスのところにいるよ。ミアはナタリーのところだったかな?」

「えぇ、ナタリー様に淑女教育をしていただいています。あの、本当にうちの子までよかったのでしょうか?」



 心配そうにリアンがこちらを見てくるが、伯爵の養子であるミアには必要なものなので、そういうものは惜しみなく習わせるべきだと思っている。

 心配いらないわというと、少し安心したという顔をしていた。



「必要な教育は受けさせるべきよ、リアン。血筋は男爵であっても、今はサーラー伯爵の子息令嬢なのよ。それ相応の教育を受けていないと恥をかくのは二人だけでなく、ウィルもだわ!養子だからと教育を受けさせていなかったとだけは、言わせないでちょうだい。それが、養父になったウィルへのお返しだと思ってあげて。一代限りの伯爵だったとしても、ウィルを継ぐ子は、もうこんなに育っているのですもの!ウィル自身もとても楽しみにしているのだし。未来のレオは、ジョージア様と肩を並べるくらいかっこいいのだけど、うちのジョージア様は貴族作法に関して、とても綺麗だから、レオも見習うといいよ!近衛とは多少違うけど、身のこなしはこの世で張り合える人がいるなら一人しかいないわ!」



 ニッコリ笑うと、レオが頷いていた。ダンスのお手本をみせたときのことを思い出しているのだろう。



「ちなみに、俺に張り合えるっていうのは、誰かな?アンナ」

「……言わないと、ダメですか?」

「聞かなくても、わかっているけど……聞いておきたいな。それによって、レオへの教育へも身が入るだろ?たしか、あっちの公爵家の子どもは息子だったはずだし。同世代であるレオの教育は必要だよね?」



 無駄に対抗心を燃やしているジョージア。それなら、誰かわかっているのだろう……言わなくてもいいのじゃないの?と見つめると、促されてしまった。



「赤薔薇の君でしょうがね?アンナの口から聞きたいものだ。アンナの目に適う人物の名は知っておかないと」

「僕も知りたいです!」

「ほら、レオも言っているじゃないか?」

「……意地悪ですね?私の王子様以外いないじゃないですか……」

「アンナリーゼ様の王子様ですか?そのような方がいらっしゃったのですか?ジョージア様以外に」



 アンジェラが、真紅の赤薔薇のチェーンピアスを揺らす。私は苦笑いして、いたよと呟いた。



「遠い昔に、私をお姫様と呼んでいてくれた金髪の王子様が」

「ウィル様?」

「父様?」

「違うよ!ウィルは、確かに金髪だけど……もっと、鮮やかな金髪なの。光を浴びるとキラキラと光る」



 懐かしさが胸に広がる。いつも私を見て、仕方なさそうに笑う私の王子様。



「ハリーは私の幼馴染で、デビュタントのパートナー。だから、私の王子様なのよ!」

「そして、その赤薔薇の君だよね?」

「今日は、ジョージア様、とっても意地悪ですね?私は、ジョージア様を愛しているのに、他の人に目を向けるようなことばかり……もしかして、私以外にもいい人ができたのですか?」

「いい人?」



 アンジェラがコテンと首を傾げ、ジョージアと同じトロっとした蜂蜜色の瞳を向けると、言葉につまってしまった。

 ジョージアもアンジェラには弱いので、可愛らしい娘の曇りなき瞳で見られれば、逃げ場はないだろう。



「いい人か……いい人はここにいるよ?アンジー」



 はぐらかすかのように抱きかかえていたアンジェラを自分の方へと引き取るジョージア。そんな様子をクスクスとレオとリアン親子が見て笑った。



「アンナリーゼ様、いい人なんてできるわけがありませんよ。アンじゃら様よりアンナリーゼ様のお帰りを待っていたのは、きっと、ジョージア様ですから」



 リアンにばらされてしまい、恥ずかしいのか、ジョージアはそのままアンジェラを抱えたまま屋敷へと入ってしまう。

 仕方がないので、レオと手を繋いで、私も追いかける。



「ジョージア様、私がいなくて寂しかった?」

「……」

「ねぇ、ジョージア様?」

「……」

「照れなくてもいいと思わない?レオ」

「……照れてなんていない。今晩、覚えておいて!」



 思わずクスっと笑ってしまう。アンジェラは珍しい父の顔をまじまじと見てたし、レオも何かを感じていたようだ。



「今晩は、アンジェラとジョージとネイトと一緒ですから!ジョージア様は一人で寝てくださいね!」

「まて、子どもたちとだけで寝るのか?」

「当たり前です!私が、どれほど子どもたちと一緒に過ごす時間を楽しみに帰ってきたかおわかりですか?」

「いや、今晩くらいは……」

「今晩くらいは、家族で眠りましょう!」



 リアンはたまらず、噴き出してしまったようだ。申し訳ないと言いつつも我慢できずにクスクスと笑いが漏れてくる。

 アンジェラとレオは、私たちが笑いあっていることが嬉しいというふうに笑う。

 廊下をあるく中で困り顔なのは、ジョージアだけであった。

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