第749話 いざ、ジニー探しのたび!Ⅲ

「あの、いいのですか?貴族の方ですよね?」

「えぇ、領主の夫人とその子でしょうね」

「そんな人をこの場で働かせるだなんて……」

「いいのよ。領主が死んだんだもの。何か体を動かしているほうが、気持ちも晴れるでしょう」

「領主様が?」

「えぇ、そうなの。夜盗に狙われた見たいね。金目のものや若い女性は根こそぎなくなっていたわ」

「それは……」

「手を貸してあげたいけど……どうしようもないわ。とにかく、この病の終息を先に迎えないと、何も手をつけられないの。公都から近衛を連れてくるわけにはいかないの。病に罹患したことがない人がくれば、さらに混乱を招くからね……」



 ヨハンの助手と話をしていると、キースが部屋に入ってきた。

 他の貴族にも影響がないのか確認をしに行ってくれていた。



「おかえり」

「ただいま戻りました」

「どうだった?」

「他の貴族も似たり寄ったり……5日ほど前に襲撃されたそうです。罹患していない若い娘は、さらわれたという話もあります」

「そっか……助けに行きたいわね。行きたいけど……根城にしている場所は、わかる?」

「わかりますが……100人近い盗賊だそうです。さらわれた者たちは、もう……」

「……私たちの見立てが悪かったのかしら?」



 机をバンッと叩いた。



「違いますよ。ここは、着任したときから、酷い有様でした。その上、貴族たちの横暴があり薬も医師も……」

「どこもかしこも、貴族はバカばかりなのかしら?自分たちが助かりたいから、薬も医師も取り上げたのでしょうけど……結局、回りまわって自身の命や娘たちがツケを払わされるはめになっているじゃない!協力さえしてくれていれば、これ程、死人も出ていないのに!」


 怒りをあらわにすれば、助手もキースも悔しそうにしている。


「公へ手紙を書くわ。現状把握ができていないのでしょうからね。あぁ、もぅ、誰よ!首謀者は!」

「首謀者はわかりませんが、ジニーを早々に捕まえましょう。被害がこれ以上大きくなる前に」

「十分、大きくなっているとは思いますが……」

「紋章をつけて手紙を書きます。3つの方法で送ることにするわ。あと、私、狙われるかもしれないから、早々にこの場を発つわね!」

「何か、あるのですか?」

「つけられてた気がするの。まぁ、100人位の夜盗ならなんとかなるでしょうけど……さすがに、捕まえて見張ってくれる人もいないと戦っても消耗戦になるし、今のこの領地では、それだけの余力もないのよね……あの母娘は守ってあげて」



 わかりましたという助手に薬を渡し、出発する。指笛を吹けば、レナンテがやってきた。それにつられるように、キースが乗っていた馬も。



「賢いですよね……その馬」



 感心するキースに当たり前よと微笑み、レナンテに跨る。



「わざと盗賊の鼻先をかすめていくわね!少しでも引き連れていけばいいでしょ?殺すわけにもいかないからなぁ……どうしたものか」



 私が広場の真ん中で唸っていると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。そういえば、まだ、領地に帰ってきていなかったなと思いだし、そちらを見やる。



「アンナじゃないか!」

「ノクト!」

「何してるんだ?」

「それは、こっちのセリフなんだけど……」

「アデルがいなくなったから、かわりの薬を配達できるヤツがいなくなったんだ。それで……」

「元公爵も大変ね……これから、どこに向かうの?」

「南に向かってから、西へ向かうが……なんだ?アンナは、どこへ向かうんだ?」

「今から西に向かうの。この病の原因……かな?がわかったから」

「西に?」

「そうよ?原因ってなんだ?」

「生物兵器といえばいいのかしらね……ヨハンの妹、ジニーっていう子を探しているのよ!」

「ジニー?ヨハンの妹?どういうことだ?」

「説明いる?」

「当たり前だ!」



 はぁ……とため息をつき、レナンテから下りる。抗議の目で見られたが、仕方がないだろう。



「部屋、借りてもいいかしら?」



 助手に聞けば、頷いてくれる。ありがとうと言いながら、私はニコリとノクトに笑いかけた。



「あぁ、あれな。片付けておくから、薬を持っていってくれ……」



 ノクトは、何事もないかのように見張りへと近づいていく。見張りも気付かれているとかいないとかではなく、まさか、真正面から来るとは思っていなかったららしく、面食らっていた。



「一人、逃げましたよ!」

「大丈夫。ノクトに任せておけば。さて、出発の時間がおくれるじゃない!追いかけっこの途中なのに……!」



 ため息をつき、診療所へ入って行った。部屋を整え終わった頃、三人を引きずって部屋に入ってくるノクト。



「お疲れ様!」

「疲れたうちに入らん!」

「まぁ、そうでしょうね?」

「……疲れたうちに入らない……」



 引きずってきた三人を見て、キースが呟いた。



「あぁ、そうだ。紹介してないね。こちら、近衛のキース。この旅の同行者で、私の護衛。で、こちらが、私の配下でノクト!インゼロ帝国の元公爵で常勝の将軍ね!」

「えっ?常勝の……」



 キースの思考が停まったようだ。だいたい、紹介すると、みなそんな反応をするので、私もノクトも慣れたものだが、初めて聞くほうとしては、身構えるのだろう。

 剣の柄に手をかけるキースを止める。



「私の配下だって言っているでしょ?だいたい、インゼロでは死んだことになっているのだし」

「話が、よく見えません!」

「でしょうね?私もよくわからないうちに、配下になったのだから……軍師ともに」



 ぽかんとするキースをよそに、ノクトは説明を要求してきたので、ことの顛末を話した。

 すると、目を……輝かせているノクト。これは、しばらく足止めすることになりそうだと、ため息がでたのである。

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