第741話 さて、次なるは……Ⅱ
「そう言うことなら、レイス。悪いが最南端の領地まで強行軍でいく。ついてきてくれるか?」
「はい。どこまでも!」
「じゃあ、これで、行きも帰りも護衛ができたから、よかったわよね!」
「あぁ、それは、いいんだけど?どうなっているのか、説明を求めても?」
レイスがこの領地へ来ていたことに訝しむウィルだが、私が呼んだわけでもないのだから、誤解しないで欲しい。
「そんなに、睨まなくても……私が呼んだわけじゃないって言ったでしょ?」
「じゃあ、誰が?」
「トライド殿から連絡が来たのですよ。アンナリーゼ様とサーラー中隊長が近くに行くと」
「セバスが?」
「えぇ、トライド殿とは、顔見知り程度ではありますが、あの有名な戦場での武勇は同じ隊にいたものなら誰でも知っています。それに、同じくアンバー領へ向かったことも聞きおよんでいたので、もし、サーラー中隊長が近くに来られるさいは、ご一報頂くようお願いしていたのですよ」
「なんだか、妬けるわね?いい部下を持ったみたいで。近くに来たから、会いに来ました!みたいな人、私にはいないわよ?」
「……姫さんの場合、みながこぞって列をなしてついてくるだろ?俺みたいに」
羨ましいと言えば、苦笑いをするウィル。
「部下に好かれるのは、お二人ともでいいじゃないですか?」
ヨハンが仕方なさそうに纏める。今後の話をしないといけないのだ。無駄な話は、あとでと言いたいのだろう。
「それにしたって……正確だな」
「義姉がカラマス子爵と縁がありまして……」
「ナタリーからか……姫さんのお友達は、こぞってお友達のお友達をローズディアに作っているぞ?」
「それ、素敵ね!もっと、作って欲しいわ!なんたって……アンバー領は国の端っこだから、情報収集も大変なのよ!」
「それなら、公都にいらしたらよろしいのではないですか?」
さも当たり前にレイスが言った。それを聞くや否や、ウィルとヨハンが腹を抱えて笑いだす。
「レイス……そりゃ、無理だ」
「どうしてです?」
「どうしてって……麦わら帽子かぶって麦畑に麦の種を蒔いたり、葡萄の収穫に合わせて葡萄酒作りに参加したり、その他、ありとあらゆる領地の行事に片っ端から参加してるから、公都なんかで大人しくしていることが……無理」
「アンナリーゼ様は、公爵ですよね?」
「そう、それも筆頭公爵。この国で公の次に権力ある人物だ!」
「この前、豚を追いかけていたって話を聞いたのは、本当ですか?」
聞きたかったんだと、ヨハンがウィルに真偽を聞いてくるが……本当のことなので、これ以上、私の領地での過ごし方をレイスに言わないでほしい。一応、外向きの私というものがあって、さすがに恥ずかしい。
「あぁ……本当だよね?姫さん。ベーコンを作るんだって意気込んでたから!」
「あれは、ウィルが……」
「確かに。養豚を始めたいって話を受けて、見に行ったときの話」
ヨハンは、嬉しそうにニヤッと笑っているが、レイスのほうは口をあんぐり開けたままである。開いた口が締まらないだろう。
「……訓練場の様子は知っていましたから、剣の使い方ひとつとっても、武術も学ばれている珍しいご婦人だとは思っていましたが……豚を追いかけて……」
「もぅ!ウィルのせいで、社交界に出られないじゃない!どうしてくれるの!」
「社交界より、麦畑で飛び跳ねてるほうがいいくせに!」
「それとこれとは、話が別なの!社交界は社交界で……面倒だけど、情報収集のために出ないといけないんだから!」
私とウィルが口喧嘩をしていると、レイスがじっと見つめてきた。
「どうかしたか?」
「いえ、サーラー中隊長はアンナリーゼ様と気安く話すなと、以前から思っていましたが、アンバー領へ詰めてらっしゃるからか、さらに境目がわからなくなってきました」
「あぁ、俺ら同級生だし……」
「それにしても、爵位はうんと上ですよね?」
「確かに……元侯爵令嬢と子爵家三男……今のほうがずっと、爵位差は出来たな……筆頭公爵と伯爵だし」
「爵位が必要な場所では、それなりにウィルのことは伯爵位として扱うわよ!今ここで、私が公爵でウィルが伯爵だって知っているのは、貴族だけよ。貴族の中には、ウィルが爵位持ちだってこと、知らないものもいるくらいでしょうし」
確かにと笑いながら、ウィルは、そろそろ作戦会議でもしようかというので、私は任せたわと言って部屋を出た。
廊下でずっと待っていてくれたのか、キースがこちらを見る。
「ずいぶん、楽しそうでしたね?」
「混ざりたかった?」
「いえ、入ってはいけないような気がしたので……」
「そんなこと、ないのに。キースにも話があるわ!私と二人で旅にでることになりそうよ?護衛、頼めるかしら?」
「二人でですか?」
「ウィルが、最南の領地へヨハンを連れて向かうの。私たちも1つ南へ向かったあとは、西へ向かうわ!異論があるなら、今、言って。罹患していないあなたを連れて、これ以上、南に向かうことは、厳しいと思っていたから、ちょうどいい機会かな?って私は思っているんだけど」
「そうですか。最後まで、お供します」
キース言葉に微笑みを返した。護衛の了承が得られたのだ。
「了承、ありがとう。では、まず、向かう場所があります。一緒についてきて!場合よっちゃ、粗仕事も待っているかもしれないから!」
「ヨハン教授の妹を探すのですよね?」
「そう。娼婦として、今は、転々としているみたいなのよね。ルチル坊ちゃんより事情を知っていそうなナルド子爵の屋敷へ向かいましょう!剣は忘れずに」
私は部屋に戻り、愛剣を携える。しっかりした重みを感じながら、目的地へキースと共に向かった。
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