第684話 アンジェラたちのお兄様たち

 ユービスの屋敷で泊まることになり、ウィルと一緒にユービスの執務室へと入る。昼間言っていた、飾り箱を見せてもらうことになったのだ。



「今年の、優秀者の作品です。これは、買い取りさせてもらったものですが……」

「すごいわ!とても素敵ね!」



 飾りのしたのところにガラスが入っており、蝋燭の火で煌めく。

 わぁ!と感嘆の声を上げていると、まるで子どもたちを見るかのような眼差しをウィルとユービスが向けてきた。



「……子ども扱いしてない?」

「してない、してない」

「アンジェラを見るようだったけど?」

「気のせいでしょう、アンナリーゼ様」



 二人の微笑みから読み取るに、完全に子ども扱いされているのはわかるが、私がアンジェラと然程変わらない自覚はあるので、無視することにした。



「明日は、テクトの纏めている町か?」

「そう!そこに、この飾り箱を作った職人がいるらしいの!ユービスの町でも、職人はたくさんいるのに、素通りしていくのは……しのびないね?」

「そうでも、ないですよ!アンナリーゼ様の姿を見ただけで、職人は色めきだちますから、通るだけでも、是非に。あと、街道整備の……」

「すごいわね!町の中は、こんなにも進んでいただなんて!」

「えぇ、おかげさまで!町の中は、手の空いているものも手伝いをしております」

「だから、早いのね!」

「アンナリーゼ様、やはり、領民それぞれが思うところがあるのです。領主に見捨てられた領地と言われていた時期がありましたが、必要以上に、領主を目にできる領地はアンバー領だけでしょう。大なり小なり、みなが、アンナリーゼ様に感謝していて、返せることをしているのですよ!」



 ユービスにそう言われると、嬉しい。迷った日もあったが、私の領地運営の仕方は、これしかなかったのだから、正解だったのだろうと安堵する。



「そういえば、私、この飾り箱の職人の工房を知らなかったわ!」

「姫さん、頼むよ……」

「それなら、明日、テクトさんが迎えに来てくださりますよ!連絡しておきました!」

「そうなの?ありがとう!」

「姫さんさ、どうやって、その職人のところへ行くつもりだったの?」

「製材所へ行けば、わかるかなって」

「「それはないです」よ?」



 ウィルとユービスに指摘され、明らかに行き当たりばったりな私は、叱られる。こういうところを直さないといけないと、その夜は、ウィルにコンコンと言い募られた。



 ユービスのところから、テクトのところまでは、あまり距離がない。昨夜、ユービスに言われた通り、テクトの屋敷へと向かう。

 実は、初めてテクトの屋敷に向かったのだが、すごく立派な屋敷であった。



「アンナリーゼ様、お待ちしておりました」

「久しぶりね!」

「そうですね……ハニーアンバー店が各地に広がっているおかげで、私もニコライ同様、少し外への営業に回らせていただいておりましたので」

「トワイスの方へ行ってくれていたのよね?」

「えぇ、あちらも、公都の店と変わらず、繁盛しております。やはり、砂糖とドレスが売れ筋ですね!王太子妃自らが、宣伝に加わって下さっているとフレイゼン侯爵から聞いております」

「お兄様も積極的に宣伝をしてくれているのね!」

「たしか、こちらでも有名になった黒の貴族と一緒にいらした方が、トワイス国でもハニーアンバー店の宣伝をされたそうです」

「……お兄様、まさか女装好きになったのかしら?」



 ウィルに話しかけると首を振る。わからないというふうだ。



「たしかに、サシャ様はとても楽しそうにされていましたが……まさか、自国でも?」

「えっ?サシャ様が女装されていたのですか?あの、女性は」

「うん、ローズディアでは、そうなの!もしかしたら、フレイゼンお抱えの小鳥の可能性もあるけどね!さすがに、エリザベスの前で、女装するとは思いにくいし」

「確かに。エリザベス様に嫌われないよう、わりと必死ですよね、サシャ様って」

「お兄様が捨てられるはずが、ないのだけどね!」

「それは?」

「エリザベスからくる手紙の内容が、8割お兄様のことしか書いてなくて……」

「残りの2割は?」

「2割のうち1割が子どもたちのことね。最近、城に呼ばれて、ジルアート様の遊び相手になっているそうよ!」

「えーっと、確か……クリスとフランだったか?サシャ様の子どもは」

「そう。クリストファーとフランベール!」



 なるほどと、頷くウィルにテクトが兄の子どもたちの話を始める。



「クリス様と呼ばれていた子は、見た目がサシャ様とよく似てらっしゃいましたよ!なかなかのやんちゃ坊主……これは、失礼」

「いいのよ!私と同じ性格だって、知ってるから!」

「そうでしたか。弟のフラン様と呼ばれている子は、静かにエリザベス様の手を握ってらっしゃいました」

「そう、私、フランのことは、あまり知らないのよね……」

「クリスは、知っているのに?」

「えぇ、そうね!クリスは、どういうわけか、私そっくりらしいから……」



 あぁと残念そうな声を出しているが、そのクリスやフランの活躍で、トワイスは守られるんだよ?と喉まで出て、言わないでおく。ウィルは何かを感じてくれたようだった。



「クリスとフラン?」



 ここにも興味をもったお転婆さんが、不思議そうに見上げてきた。



「アンジェラたちのお兄様だよ!」

「お兄様!」



 ちょっと、憧れていたのか、とても喜んだアンジェラ。一度、会わせておいた方がいいなと思いながら、ぼんやり、トワイスへ帰るときを考えていた。

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