第676話 繋がる『予知夢』?
朝起きたときは、ご機嫌だった。昨日の夜泣いていたのが嘘のようだった。迎えに来てくれたエマの手を取り、何事か話しかけている。
「エマ、今晩もこっちに来ていいわ!」
「畏まりました。今晩もお連れします」
「最近、夜はどんな様子?」
「うなされているような感じがします。揺すると、泣き始めたりと、少々……」
「ぐずるんだね……昨日、少しだけ話を聞いたんだけど……身に覚えがあるから、側にいるわ!」
「よかったですね!アンジェラ様。アンナ様と一緒にお休みできますよ!」
「ママ、本当?」
「うん、今晩も一緒に休みましょう!」
ご機嫌なアンジェラ。そこに合流したジョージが私と一緒にいるアンジェラを不思議そうに見つめていた。
「アン!」
「ジョー!おはようございます」
ぺこりと礼儀正しく頭を下げるアンジェラにジョージもペコリと頭を下げた。
「ママと一緒?」
「そう、ママと一緒!」
ふふっと嬉しそうにしているアンジェラから視線を私に向けてくる。
「僕も一緒?」
「ジョージ様は、いけませんよ!」
ジョージの侍女が、ダメだというが、私は視線を合わせる。
「ジョージも一緒に休む?」
「奥さま!」
「ん?」
侍女の方を見ると、なんだかまずそうな顔をしているが、血は繋がっていなくても、ジョージは私の子どもに変わりないのだから、いいだろう。
とめられる謂れもない。
「リアン、今日はネイトも含めて四人で休むから、準備をしておいてくれる?」
「畏まりました!」
「奥さま!いけません!」
「いけませんと言われても、私が、私の子どもたちと一緒に休むことの何がダメなの?あと、私のことは奥さまとは呼ばないでほしいのだけど……?」
「いえ、奥さまに変わりないですから……」
「そう、じゃあ、クビね?どこから、まぎれてきた刺客?」
私の一言でぎょっとするリアン。エマは平然とナイフを隠し持っていた。もう少し、できる刺客を送ってほしいものだが……ここまではうまくまぎれたなぁ……と見つめた。
「どうしますか?」
「ディルに任せるから、連絡しておいてくれる?面倒ごとは、押し付けてやりましょう!ディルの監督不行き届きだし」
さてとと向き合う。リアンを引っ張って子どもたちの前に立たせた。その前にエマが立ってナイフを構えている。
清々しい朝に、なんてことをしてくれるのだとぼやきたくなる。見た感じ、手練れではなさそうだ。裏の事情も伝染病やらなんやらで、人が減っていてという話もある。
私は何も持たずにツカツカと近寄って行く。刺客は隠し持っていたナイフを構えた。それを見たリアンが叫びそうになり、エマに止められている。
丸腰の私は、さぞ、簡単に倒せると思ったのだろう。直線的でなんの面白みもないその刺客を壁へとぶん投げた。背中を打ち、肺の中の空気を全部出してしまったのだろう。苦しそうだ。
「エマ、ナイフ!」
手渡されたナイフを投げて、首のすぐ横に刺した。これだけで、動けなくなるって……刺客っていえるのかしら?なんて思って見つめていた。
「すごい音がしたんだけど?」
「そんなに?」
「あぁ、お客さんね!それは、俺が預かろうか?」
「エマに渡してディルにお願いしようと思っていたんだけど……」
「俺が預かるよ!聞きたいこともあるし!」
「そう?じゃあ、お願いするわ!エマ、もう大丈夫だから、朝ごはんへ向かいましょ!あぁ、それと……あとで、話があるから来て!」
ウィルに執務室へ来るようにいうとはいはいと返事をして、刺客の侍女を引きずって行く。
「やっぱり、力があるっていいわね……」
ぼんやり見つめ、朝食を取りに向かう。
「ママ、大丈夫?痛い痛いない?」
「うん、どこもないから大丈夫よ!朝ごはん食べたら、レオたちと一緒にいてくれるかしら?」
頷くアンジェラたちに微笑み、朝食を早々食べ食堂を後にする。後ろについてきたリアンにアンジェラたちの側にいてくれるようお願いすると、了承してくれる。
「さてと……」
執務室に溜まった仕事を始めようとしたところで、ウィルが戻ってきた。
「さっきのは?」
「うん、ちゃんと見張らせてるから大丈夫!」
「そう。なら、いいわね!」
「それで、話があるんだろ?」
「そう。昨日ね、アンジェラと一緒に寝たんだけどね?」
「それは……何の話になるの?」
「娘自慢?」
「……それで?」
「うん、アンジェラって、ウィルたちには話したと思うんだけど……」
「ハニーローズだよね?未来の女王様」
「そう。ハニーローズは特殊な能力を持っているんじゃないかって話もしたことあるよね?」
「聞いたね?それが、何かあるの?嬢ちゃんに何かあらわれた?」
「……まだ、はっきりしないんだけどね?」
「あぁ、なんだ?」
「『予知夢』が見れるんじゃないかしら?」
「えっ?姫さんが見れるってやつ?」
私は頷いた。本来、ハニーローズは、『過去』をみることができるらしい。女王が言っていたことを思い出した。
ただ、私には、『予知夢』を見ることができた。もしかしたら、過去も未来も視れる……そんな気がした。
「何か、感じたものがあるのか?」
「昨日、アンジェラが泣いていたの。それは、まぁ、子どもだから、怖い夢をみればよくあることだと思うんだけど……私に、死なないかと聞くのよ」
「姫さんの未来か……それは、なんだか、感じるものがあるな」
「そう。あと、私、『予知夢』をみる力が弱まっているの」
「この前のは、はっきり見えたんだろ?」
「コーコナのはね。久しぶりに本当にはっきり見えたんだけどね……基本的にぼんやりしか見えなくなっている。もしかしたら……力が引き継がれていっているのかもしれないと思って」
「なるほど、おもしろい考察だな。これから、観察するのか?」
「えぇ、私の経験上、これから成長するにかけて、さらに力が強くなって行くはずだから」
「姫さんはさ、そんなとき、どうしてたんだ?」
「笑わない?」
「……あぁ、まぁ、笑わない」
「笑いそうね?」
「笑わない!」
「……大きなくまのぬいぐるみを抱きしめて、お兄様の眠るベッドへ潜り込んでいたのよ!」
「可愛らしい令嬢っぽさもあったわけか!」
そういうと、ウィルはケラケラ笑い始めた。『予知夢』は毎日なにかしらの形では見ている。覚えているものもあれば、忘れてしまうものもある。たいてい、怖い夢を見たとき、側にはいつも兄がいてくれた。
アンジェラは、私より早く発現したその能力を持て余していることは明確である。ジョージアへ手紙を書くと同時に、ウィルにもアンジェラのことを気にかけてもらうよう話す。
セバスやナタリーにも共有してくれるだろうと頷く。
秘密の共有ができている人が、側にいることはとても心強いと感じたのである。
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