第675話 泣きべそアンジェラ
今日は、視察にも出ていたので、お開きになった。
小瓶をガチャガチャしながら、部屋に戻ると、リアンが寝るための準備をしてくれている。
ありがとうと声をかけると、お風呂へ向かうよう言われる。もちろん、土埃をもろにかぶっているのだ。
そのまま眠れば、リアンに迷惑もかける。
お風呂から出て、リアンに下がるようにいい、私はソファでロイドが作った香水の香りを確認していた。
寝る前でも、全然鼻につかない優しい香りなので、いいな……とほっと息をはいていた。
すると、部屋の前で何だか揉めているような声が、微かに聞こえてくる。その中で、子どもが泣くようなえぐえぐというものも聞こえてきた。
「……ゼ様は、もうお休みですから……」
「アンジェラ様が、怖い夢をみたみたいで、ずっと……」
「どうかしたの?リアン?」
「アンナリーゼ様!」
「あら、アンジェラ?うちのお姫様は、どうしたのかな?」
「……ママァ……」
握っていたエマの手を離し、私のところまでトテトテと走ってくる。しゃがんで抱きとめると顔を埋めて泣き始めた。
「アンナリーゼ様、お疲れですよね?」
「ん?全然大丈夫よ!アンジェラは、このまま部屋で休ませるから、エマも今日はゆっくり休んでくれる?」
「かしこまりました。アンジェラ様をよろしくお願いします」
「こちらこそ、ありがとう。それと、リアン、申し訳ないんだけど、温かい牛乳に砂糖を少し入れたものを持ってきてくれる?」
「はい、それはもちろんです」
私はアンジェラを抱きかかえ部屋に入り、リアンはホットミルクを、エマは休んでもらう。当のアンジェラは、しっかりしがみついて泣いているので、優しく背中をとんとんとしてあげる。
エマがいうに、怖い夢を見たと言っていたが、どんな夢なんだろう?
私も『予知夢』を見始めたころのことを思い出し、懐かしいなと笑う。
「アンナリーゼ様、持ってきました」
「ありがとう。リアンももう休んで!」
「大丈夫ですか?」
「えぇ、これでも、私もアンジェラの母ですからね!大丈夫よ!リアンほど、うまくお母様は出来ないけど、私なりに頑張ってみるわ!」
「わかりました。何かありましたら、呼んでください」
「ありがとう、おやすみなさい!」
えぐえぐと、まだ泣いているアンジェラは、少しずつ落ち着いてきたようだ。
少しだけ体を離すと、酷い顔をしていた。
「アンジェラ、お顔を拭きましょうか?」
リアンがホットミルクと一緒にそっと置いて行ってくれたタオルで優しく頬に流れる涙を拭っていく。顔を私に押し付けていたので、可愛い顔も台無しである。
ひっく……ひっく……と泣き方も変わってきたので、もう少し落ち着かせるためにホットミルクをゆっくり飲ませることにした。
「いい子ね、少し飲む?」
カップを渡すと手に取るので、支えると、コクコクと飲んだ。飲みやすいように砂糖を入れてあるのでほっとしている。
私の方を見上げ、難しい顔をしていた。
「どうしたの?」
「ママ、死なない?」
いきなりの質問に分けもわからず、微笑みながら、死なないわと答えた。
「本当に死なない?」
「どうしたの?怖い夢の話?」
コクンと頷くアンジェラに、お話出来そうならしてくれる?と促すと恐る恐るという感じで話始めた。要領の得ない話ではあったが、私が見たことがある『予知夢』と同じよう話をしている。
「蜂蜜色のこんな輪っかをしている人?から?……ママ死んじゃった……」
「そう。怖かったね、アンジェラ。ママは、死なないから大丈夫だよ!」
「本当に?」
「えぇ、ママは……アンジェラが成人するまで死なないわ!だから、大丈夫!」
「せいじん?」
「そう、ママたちと同じように貴族の一員と認められる日がくるのよ!」
「アンも?」
「もちろん!アンジェラは、アンバー公爵の娘ですもの!その日は、綺麗なドレスを来て、みんなにお祝いをしてもらうの!」
「綺麗なドレス?そうよ!アンジェラは、どんなドレスがいいかしら?その日が近くなったら、ママとナタリーがとびっきりのものを用意するわね!」
泣いていたアンジェラは、話をしたことで、少しだけ落ち着いたようだった。さっきまで強張っていた顔も柔らかくなり、ドレスの話をすれば、頬を緩ませていた。小さくても女の子だ。綺麗なドレスは、やはり好きなようで、嬉しいのだろう。
「ママみたいな、ドレス着たい!」
「青紫の薔薇?」
コクンと頷くので、いいわね!それと微笑んだ。青紫の薔薇は、私のためのものだ。娘が着るには特に問題もないだろう。
ただ、私には、1つだけ夢があった。『予知夢』で見た青薔薇のドレスを着たアンジェラとジョージアがデビュタントに向かう夢が。私の願望なのだろうが、アンジェラに贈るドレスは、青薔薇のドレスと決めていた。
「その日が来たら、アンジェラによく似合うドレスを贈るわ!宝飾品は、ジョージア様におねだりしましょうか?」
ふるふると首を振るアンジェラ。どうしたの?と首を傾げると、これが欲しいとねだられる。私の耳にある真紅の赤薔薇のチェーンピアスとジョージアからもらった青薔薇のピアスだった。
「ママのこれがいい!」
「これ?いいけど……デビュタントのお祝いなのだから、もっといいものをねだってもいいんだよ?」
「これ……」
じっと見つめるので、わかったと頷く。ハリーからもらった結婚祝いのピアスは、私ではなく、そのときがくれば、アンジェラを守ってくれるお守りになるだろう。
ジョージアからの青薔薇のピアスは、青薔薇たちの一部だ。全て譲ってしまおうと思っていた。
「さぁ、いい子はもう寝られるかな?」
ぎょっとした顔をしたので、私は微笑んだ。
「ママと一緒なら、怖くないでしょ?アンジェラを守ってあげるから!」
そういうと、ママ!と抱きついてくる。私は、そのままアンジェラを抱きかかえ、ベッドへと向かう。
眠いのを我慢していたのか、そのままスヤスヤと眠ってしまう。
おやすみ、アンジェラと囁いたころには、楽しい夢の中へと向かったようだった。
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