第663話 イチアの試み

 主要な人物が集まったところで、報告会を始める。

 イチアに全てをまかせっきりにしていたので、報告書を読んではいたが、きちんと情報整理したものをみなで聞くことにした。


 といっても、私とウィルとセバスだけなのだが……それでも、アンバー領の主要な人物に変わりない。



「それで、領地の方は今、どんな感じなわけ?どこもかしこも、伝染病でわたわたしているみたいだけど……今のところ、アンバー領では、特に感染者は出ていないんだろ?」

「えぇ、おかげ様で。アンナリーゼ様にいただいた情報が早かったので、対処ができました。あとは、私のいる領地では、年に1回は必ず起こっている伝染病ですので、対処法も薬も入手しやすかったことも領地内で広がっていない要因です」

「なるほど……イチアさんが、領地に残ってくれて、本当によかった。僕なら、対処できませんでした」

「そんなこと、ありませんよ!セバスチャンの初動は、とても評価されるべきものです。国の宰相であれば、回りくどいこともせず、通達を出すことができるでしょうが……今回のは致し方ありません」

「そうなのかなぁ?公には、はっきり言わなかったけど……人災のような気がする」

「まぁ、確かに……セバスの火急の報告書が読まれていなかったんだわ……」

「なんてことですか!そんなことが、まかり通るのですか?はぁ……ローズディアは、どこまで甘いのか」

「すみません、公にはコンコンと説教をしてきましたが……すぐに直せるものではないですし、何より公の後ろにいるもう一人の公爵が……なんとも」

「よくある話ではありますがね……権力者を意のままに動かしたいという邪な考えをする輩は」

「インゼロはどうなの?」

「今は、たぶん恐怖政治のもといろいろと進んでいるのでしょうが、ノクト様がいらっしゃったときは、きちんと、そういうところにも目端を利かせていました。身分が皇弟で将軍でしたから、下手に動けなかった……と言う本音もあるでしょう」

「確かに、ノクトなんかに睨まれてたら、やりにくいわね……」



 私たちは、人生経験もまだまだ浅い者ばかりが集まって、領地運営をしている。ノクトは、生まれたときから、いろいろなものと戦っていたのではないだろうか。皇弟となれば……苦労も絶えない。

 今は、甥による恐怖政治のもと、インゼロが成り立っているのだが、それを歯痒くみていたりしないのだろうか?



「なにはともあれ、同盟であったり、これから手を携えて頑張ろうっていうところには、セバスが声をかけてくれているから、そこの感染者の広がりはないの。かなりの功績よね!」

「ありがとうございます!パルマの功績により陰りは出るでしょうが……」

「何か、ぶんどっておくべきね!公から。その交渉は、また、日を改めてしましょう!」

「姫さん、公を責めるの、好きだよね?」

「そんなことは……ないと、思うわ!」



 私はニッコリ笑いかけると、ウィルは確信犯だ!と笑い飛ばした。



「伝染病については、今後も警戒は必要ですが、領地に入る前、必ず1日は待機してもらうようにしていますし、検温消毒など、ありとあらゆることには、ご協力願っています」

「そういえば、俺らはいいわけ?」

「領地に入る前に1泊したでしょ?」

「した気がする……」

「そこが、指定した宿泊所なのよ」

「すごい賑わっているなって思っていたけど、説明されれば、なるほどだな。確かに、外にはでるなと言われたし……防犯上なのかと思っていたけど、そうじゃなかったのか」

「ウィルにしては、そこに行きつかなかったのね?」

「まぁ、最近姫さんたちと離れていたからねぇ……情報収集しながらと言っても、姫さんの情報網にはかなわないからさぁ……」



 のんきなウィルはおいといて、ここの感染者に対する対応は、よくできていたので、そのままイチアに任せることにした。

 私は新しく取り入れたものの話が聞きたくて、若干、ソワソワしていた。

 明日には、現物を見に行こうかと思っているくらいだったので、イチアがわかりましたと小さくコホンと咳をする。



「アンナリーゼ様からいただきました設計書を元に、例の水車なるものをリリー協力と共に大工を集め作ってみました」

「どう?感触は!」

「かなりいいですね!川の流れは雨さえ降らなければ一定ですから、粉も荒いものが断然減りました」

「荒いものが減るとどうかしら?食べ物への影響はある?」

「それは、口にしてもらったら、わかるかと思います」



 少々お待ちをと廊下へ出て、リアンさん!と呼んでいた。返事があったのか、イチアは戻ってきて、説明を再会する。



「そろそろ、お茶が必要かと……」

「そうね……長い間話をしていたからね」



 リアンがメイドともの部屋に入ってきた。お茶だけでなく、私の好きな生クリームたっぷり載せたケーキやクッキーなどを運んでくれる。



「これは、姫さんのだな」

「どうして?」

「誰もこんな大量に生クリームなんて食べられない!」



 おいしいのに!といいつつケーキにフォークを刺す。すると、ふわっとした。



「ん?いつもよりふわっとしてる気がするんだけど?」

「気付かれましたか?」

「えぇ、感覚で話したんだけど……そうよね?なんていうか、柔らかい!」

「これが、水車でひいた小麦で作ったものです!」

「えぇーすごいじゃない!」

「食べてみて下さい!きっと驚きますから!」



 そう言われ口にケーキを含む。私だけでなく、ウィルとセバスも。

 口触りが違うことが、二人にもわかったようで、驚いていた。


 ふわふわのケーキに舌鼓する。


 はぁ……幸せ。


 頬に手を当て思わず微笑んでしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る