第662話 実家に帰ってきたみたい……

 謁見があったあと、長居は無用とディルとデリアに公都の屋敷を任せ、私は数日のうちのアンバー領へと向かった。

 今回の旅には、デリアは同行しない。私の元で過ごすと、どうしても慌ただしくなるので、公都で出産、子育てをすることになった。しばしの別れに寂しさを覚えても、アンバー領で私を待っているイチアを思えば、領地に帰らずにはいられなかった。



「デリアがいないと、寂しいわね?」

「そうですね……アンナリーゼ様の側にずっといらしたので……」

「おめでたいことではあっても……私が大人しくしてれば、付いてこれたでしょうけど……」

「姫さんが大人しいとか、みんな病気を疑うぞ?」

「ウィル!」



 領地の屋敷に着くころであった。今回の護衛はウィル。

 同じ馬車には、子どもたちとレオとミアの兄妹、リアンとエマが乗っている。後ろの馬車にはセバスとニコライが乗っていた。

 子どもたちは、はしゃぎ疲れて、私とリアンの膝枕で眠っている。リアンも子どもたちとの時間が公都では取れなかったので、こんな優しい時間を享受しているようだ。



「子どもは大きくなるが早いね……」

「えぇ、そうですね?この前、アンナリーゼ様に謁見へ連れて行ってもらったとレオが話していましたが……難しい言葉とか、アンナリーゼ様の話していたことをしっかり教えてくれましたよ!」

「そう、レオの成長は本当にすごいのよ?ウィルも舌を巻いているのでなくて?」

「あぁ、そうだな。驚くくらい、飲み込みも早いし要領もいいから、1回教えたことや注意したことは、たいていなおしてしまう。あぁ、どっかのお姫様にも、そんな能力が備わっていたら……いいのにな!」



 そのお姫様が誰なのか、言われなくてもわかるので、綺麗に無視をする。



 領地の屋敷につき、眠っている子どもたちを揺り起こす。



「……ママ?」

「おうちについたよ?」



 もそもそっと起きるアンジェラとジョージ。反対側でもレオとミアが同じように起こされている。

 まだ、眠いらしい。レオは自分で歩けそうだが、ミアは無理そうなのでリアンが、私はアンジェラを抱き、ジョージをウィルが抱いてくれる。エマは、ネイトが入ったかごをもち、それぞれ、子どもたちの寝室へ運ぶことになった。



 寝かしつけてから、執務室へ向かう。すでに、セバスとイチアが話をしている。



「イチア、遅くなってごめんね!イロイロと立て込んでたから……」

「えぇ、わかっています。それより、ご無事のご帰還、何よりです!ノクト様は、あと1ヶ月ほど、帰らないのですよね?」

「そう。もうすぐアデルが帰ってくるはずだけど……近衛の泊まれる場所はあるかしら?」

「もちろんです!あと、お手紙が届いていました。転送しようかと思いましたが、しばらく預からせていただいていました」

「誰からかしら?」



 手紙を受取ると、義母からの手紙である。確か、春になったら一度アンバー領へ戻るという話をジョージアから聞いていることを思い出した。



「中身を確認するから、少し待って!」



 私は、中の手紙を確認する。なるほど、ジョージアが言っていたことが書かれている。子どもたちに用意したいプレゼントは何がいいかとか、滞在場所はどこになるのとか……ちょっと、相談してから決めた方がよさそうだ。



「なんて、書かれていたのですか?」

「うん、来春、こちらに1度戻られるようなの。そのあれこれかな?」

「では、そちらの手配もいりますね」

「そうね……少し考えましょう!お義父様にもお義母様にも会うのは久しぶりだし、子どもたちは、会ったことがないのよね……アンジェラはいいとして、人見知りのジョージとネイトは、どうかしら?」

「慣れますよ!おじいちゃんおばあちゃんですからね。ジョージア様と雰囲気は似てらっしゃるのですよね?」

「そうね!とても!」



 心配いりませんというイチアにそうねと言葉を返す。心配ばかりしていても、結局、当日になってみないとわからないのだから……それなら、この問題は、しばらく置いておいてもいいだろう。



「はぁ……やっぱり、いいわね……アンバー領の椅子は。実家に帰ってきたみたいな、懐かしさがあるわ!」

「1年の殆どが、こちらだからね。僕も城の執務椅子には、どうも慣れなくて、お尻がむずむずしていたよ!」

「あら、セバスも?」



 ふふっと笑いあっていると、ウィルが入ってきた。



「ふぅ……」

「どうしたの?」

「ミアが、寝ぼけて離してくれなくてさ……レオとリアンに引き離してもらうのに時間がかかった」

「そっか。まぁ、仕方ないよね?ミアは、ウィルのことが大好きだし!しばらく、一緒にいる時間が多かったから……ミアは公都の方が好きかもしえないわね?」

「そんなことないだろ?こっちにいる方が、のびのびしていたぞ?こっちでは、お嬢に対してお姉さんぶれるからな……向こうでは、みんな年上だから、なんていうの?」

「なんとなくわかる……」

「だよな?女の子は、ミアだけだったから……みんなが異常に構いたがるからさ……姫さんとこの屋敷に行くと喜んでたんだ」



 ミアにはミアの、思うところがあったようだ。

 こっちに来たら、存分にアンジェラたちのお姉さんになってもらおう。

 その様子を思い浮かべて、クスクスと笑った。

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