第589話 商売につき……
ニコライと出かけた後、子どもたちへのお土産は概ね盛況であった。ネイトの分は、もちろん、ちゃんと買ってある。
「ネイトの分は、小さいんだね?」
「可愛いでしょ?」
同じうさぎのぬいぐるみではあるのだが、アンジェラとジョージのものに比べて、小ぶりのものを買ってきた。
最近、ぬいぐるみに抱きついたりしているのを見かけるのだが、大き過ぎると埋もれてしまうので、気を付けている。
「同じ大きさじゃないのは……」
「私なりの配慮ですよ!大きいと抱きついたときに、顔を埋もれさせてしまう
ので……」
「あぁ、この前、窒息してない?って騒いでたの……」
「……はい、私の不注意で」
危ないところだったのだ。リアンに注意され、ぬいぐるみをあげるなら、少々小さめのものにするように言われていたので、アンジェラたちに比べて、ネイトの分は小さい。
「アンナリーゼ様も、そういうところあるんですね?」
「あるわよ……子どもの命、もっと気を付けないとって反省……猛省しています。
なので、最近は、ずっと、リアンかエマが付きっ切りでいてくれたのよ!」
「執務も多いですし……」
「アンジェラ様は、全然手のかからない子でしたからね……」
「姉弟でも全然違うのねっということが、わかったわ!」
ネイトの頭をそっと撫でると、うさぎのぬいぐるみを気に入ったのか、ぎゅっと抱きしめていた。
「暑くないかしら?」
見ておりますのでとデリアが請け負ってくれ、私はニコライとの話し合いにつく。
最近、視察に行っては、ニコライからの知識を入れ、そのうえで、今後のことを考えたりとメモを取る紙がぎっしりになってきた。
今のところ、目玉は、水車だけど……あれは、私たちだけではなんとも出来ないことなので、領地に帰ってからの話し合いとなるだろう。
「今日のお店の感じ……」
「どうでしたか?一応、アンナリーゼ様が思い描くような取引を持ちかけてはいる
つもりなのですが、父たちと話して少しだけ、私たちがやりやすいように改良して
おります」
「ビルにも聞いてはいたんだけど、今日見せてもらったおかげで、どんなふうに
なっているかがよくわかったわ!やり方は……間違ってはいないと思うわ!
それぞれのお店に適した提案だったし!」
「ありがとうございます!元々の店を生かした強みを持って、販売に当たるよう
お願いしているのです」
私は、ニコライの説明に頷き、今日回ったお店を考えた。確かに、雑貨屋には、ガラスや小麦砂糖などが置かれ、服屋には、ドレスは普段着が置かれと適材適所で、ハニーアンバー店の小さなお店が出来上がっていた。
「あの看板は、いいわね!あれは、私の考えではなかった気がするけど……」
「あれは、私たちで考えました。アンナリーゼ様が、公室、王室御用達看板をもぎ
取ってきてくれたおかげで思いついたのです。店の中に入ってからしか、ハニー
アンバー店の一部がその店にあるかがわからないので、求めてくださるお客様
が、なかなか、辿り着けないですし、噂話だけで上手く広がるとは思えません
でしたから……特に、公都からの距離もあるようなところへは、出向くことも
状況把握や確認することも難しいので……」
「ニコライは、土地土地を回ってくれているのでしょ?」
「えぇ、私だけでなく、他にも何人か。手練れを回らせています。他の領地に顔が
きく父たちもたまに出向いたりしているので、今のところ、上手く回っていると
言ってもいいでしょう」
私は頷くと、ジョージアが話に入ってくる。私たちが進めている話をあまり知らないので、今、お勉強中のジョージアは、隣に座ってメモをとっていた。
「聞いてもいいかな?」
「えぇ、どうぞ」
「今、二人が話しているのは、どういう話なの?」
「ハニーアンバー店の支店をあちこちに出そうってところから始まった話ですよ!
各領地でお店を出店するには、膨大な資金が必要ですけど、今あるお店の一角を
間借りするという方法で、支店を作っているのです。その輪を広げて、ローズ
ディアだけでなくトワイスやエルドアなどにも、出店先を伸ばしています」
「なるほど……それで、それで?」
「公都で売るよりかは、運賃が必要になるので、少しだけ割高にはなるのですけど、
領地に根付いているお店に仕入れをしてもらって、売上のうちのいくらかを間借り
料として支払っているのです」
「へぇーそんなことしているんだ。利益は、出ているの?」
「おかげ様で、当初見込んでいたときより、多いかと」
「やっぱり、砂糖の需要が大きいかな?」
「ここでも、やっぱり砂糖なの?」
私はジョージアにニコリと笑う。
「砂糖については、以前話したと思いますが、ノクトの領地の特産品でもあります。
今までは、ローズディアに砂糖を作ることは出来なかったので、インゼロ帝国
から何か国かを経由して仕入れていたのです」
「そうだったよね。それが、アンバーで作れるようになったから……」
「そうです。ノクトの領地から来る砂糖が100としたとき、アンバーから仕入れる
砂糖は、運賃を入れても60から70くらいで買えてしまうのです。公都では、最安
値になると、50くらいで買えたりしますからね……」
「砂糖って、領地にとってかなりの収入源なんじゃ……」
「そうですよ!お酒もアンバー領では大きな収入のひとつですが、貴族向けな
イメージです。砂糖は、貴族領民関係なく、使うようになってきていますから、
莫大な利益をはらんでいるんです!」
私の利益への理解が薄かったジョージアも、身を入れて勉強し始めた今では、驚いていた。
なにせ、アンナが変わったことを始めたんだ。そんなものできるの?そうなんだ?という意識から、今は、前のめりに私からの知識を吸収していっている。
元々、ジョージアの方が頭がいいので、すぐに追い抜かされそうで、ヒヤヒヤしていた。
「アンナリーゼ様、ひとつ提案があるのですが……」
「私もあるの!」
「では、先に……」
「アンバー産の小麦をもう少し出荷したい!それも、少しだけ付加価値をつけた
値段で!」
「……その心は?」
私は、ウィルと出かけた日のパンの話をした。アンバーでとれた小麦で作るパンは、香りもいいし、甘いと言う話だ。
食べ慣れていて気が付かなかったけど、ウィルに言われて意識して小麦を使った食べ物は、味をみていたことをいうと、ニコライは頷いた。
「私も同じことを言おうとしていました。少しずつ、量産できるようになってきて
いる今、できれば、他領への放出をと思っています。
ただ、近衛の受入れで、少々小麦の生産が厳しいのもわかっておりますので、
言い出せませんでした」
「そのへんのやりくりは、私たちが考えるわ!魔法使いたちもいることだし、
存分に給金分を働いてもらいましょう!まずは、生産量の倍増かしら?」
「それもですが……」
「小麦を余すところなく挽くところね!」
はいっ!とニコライが頷く。水車……やはり、これがアンバー領産小麦の生産を少しだけ量産に導くものだということだろう。
急務な話に、やはり、一度、公都のセバスと領地のイチアに手紙を書くことにした。
「ニコライ、悪いんだけど……」
「設計図ですよね?もう、追加で3枚程、手に入れてありますよ!」
仕事が早いわ!と微笑むと、早速手紙を書いて、それぞれへと送ってもらうことになったのである。
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