第570話 確かに、これは。Ⅲ
カレンと別れたあと、ジョージアについて話し合うことになった。
ジョージアが今、抱えているものを知らないといけない。
不安に思っていること、どんなことを望んでいるのか、それによって私は今後を考えることになるのだろう。
「なんだか、雰囲気を悪くしちゃって、悪かったね。せっかくカレン様も来てくれたのに」
「いいですよ。今日は、カレンに兄を紹介するのが目的でしたし、事情を知っている
カレンは気にしませんから。お兄様もそうでしょ?」
「あぁ、気にしてないさ。むしろ、ジョージアが、よくこのじゃじゃ馬に付き合って
くれているか、その苦労を聞かされて、こちらが申し訳ないくらいだよ。
アンナももう少し自重すれば、いいんだろうけど……こんなに自分を出せるって
ことは、ジョージアを信用してるからだと思うよ」
申し訳ないと項垂れていたジョージアは、目の前に座っている兄へ視線をあげる。
私からは兄しか見えないが、見慣れている大丈夫だと言っているような微笑みをしているということからも、ジョージアがどんな表情をしているかわかった。
「サシャ、それは本当?」
「あぁ、本当。アンナは、素を見せてもいい人は選んでいるよ。エリーの前では、
絶対素は見せない。義姉とは言っても、ただの友人の域から出ないし、アンナに
とって、身内には変わりないけど、ジョージアや僕に見せるような素は、本当に
気心知っているとか対等でいたい人にしか絶対見せない」
「信じられない!」
「ジョージアは知らないかもしれないけど、アンナはそういう人間。自分の懐に
入れたものはとても大事にするけど、それ以外は意外と薄情なんだ。
僕はね、今、こうして二人が並んで座っていることが嬉しいんだ。
アンナの『予知夢』のことは知っているよね?」
あぁと返事をするジョージアに笑いかける兄。
何を話すのだろうか?突拍子もないことを話し始める兄はいつものことなので、少しだけ、ざわつく胸を落ち着かせる。
「まず、アンナの口から『予知夢』の話を聞かされているのは、限られている。
僕たち家族が聞かされたのは、アンナが学園に入る前。僕は、学園にいる頃
から、ジョージアとの未来はわかっていたんだ。僕は、全ての内容を知っている。
初めて聞かされた日から、変わった未来の報告も逐一してもらっている。僕らは、
アンナが選んだ道が険しくても、幸せだったと振り替えられるように支えるため
に動いているんだよ。どんな協力も惜しまない」
ジョージアは、兄の顔を見て驚いていた。何をおいても、私が1番初めに頼るのは、他ならない兄であった。
全てを知っているからこそ、私がいなくなった後もアンジェラを見守ってもらうために動いてくれるようお願いしてある。
「サシャは、アンナの『予知夢』は、本当に起こると思うのか?」
「あぁ、思っているよ。ただね、1番始めから狂っているんだ。最終的に戦争は避け
られないだろう。トワイスでは、僕だけでなく、殿下やヘンリーを中心に対策を
練っている。その中でも、すり抜けていくこともあったりで、情報収集もアンナ
からもたらされることも多い。インゼロ帝国での情勢を考えると、今は中がゴタ
ゴタしているようだから、まだ、大丈夫だと考えている。ただ、トワイスの高官
たちの中には、確かにインゼロと手を組もうと動きを見せている怪しい輩もいる
からね。ローズディアでは、アンナが動ければいいけど、あの公ではなかなか
難しいだろうね?」
「それは?」
ふっと笑う兄が、厳しい視線をジョージアに見せる。
こんな兄はなかなか見れるものではない。
「ジョージア、正直に言うよ」
「あぁ、頼む」
「アンナは、ジョージアが望む程、長くは生きられない」
「……!」
「これは、『予知夢』でわかっていたことだ。ただし、ジョージアとアンナの出会
いが、学園の入学式であったのに対して、前日に会ったこと。僕たちの卒業式に
アンナが、ジョージアと薔薇を取ったこと、アンナの卒業式にまさかのジョージ
ア乱入と考えても最初の予知から変わっているんだ」
「それじゃあ、アンナは死なないんじゃ……」
ジョージアは青白い顔をして私を見つめる。ニコリと笑いかけるが、その顔に笑顔はなく、生気がなくなっていった。
「アンナは、死ぬよ。多少、未来が変わっているからね、時期がずれたんだ。僕たち
は、アンジェラ誕生の日を境に、ジョージアが別宅に住むことはわかっていた。
だから、アンナは子どもの性別を隠し、領地へと引っ込むための準備を始めた
はずだ。ここでも、予期せぬことにアンバー領が予想以上に疲弊していること、
ジョージアがアンナの元に帰ってきたこと、そして、ダドリー男爵の断罪が早ま
った。アンナの死後、アンジェラがダドリー男爵の断罪をする未来だったから
ね。その憂いだけでも払拭できただけでも、アンナにとってよかったことじゃない
かな。ジョージアにとっては、辛いことだったかもしれないけど、ソフィアや
ダドリー男爵の断罪と引き換えにネイトとほんの少しのアンナの寿命を得られ
たんだ!」
言葉を無くしたジョージアは、ギュっと拳を握る。知らせていない事柄が兄によって表面化される。
私が死ぬというのは、ジョージアにとってどう感じたのだろうか。青白い顔が白く血色がなくなった。
「……アンナは、死ぬの……」
「あぁ、死ぬよ。僕らは、アンナが望む幸せを叶えるために動いている。そこが、
ジョージアと僕らの違いかな?僕らもいつ死ぬかまではわからないからね?」
そんな目で見ないでほしい。人はいつかは死ぬのだ。それが、人よりちょっと早いだけだけし、十分な幸せな時間を過ごせている今、残された時間を楽しんでいるのだから。
「ジョージア様、大丈夫ですか?」
「……大丈夫なように見えるかな?」
「……」
私はそれ以上何も言わず、俯く。
「なぁ、ジョージア。こうは考えないか?」
そろそろっと兄の方をみる生気のないジョージアを私はそっと盗み見る。
「アンナにとって、今、こうしてジョージアと並んでいられることが幸せなんだ。
子どもたちとの日々、領地改革や屋敷のことをめいっぱい楽しんでしている。
それは、アンナ一人ではできないことなんだ。ジョージアがその地位を与え、
自由にさせてくれているからこそ、成り立っているんだよ。
僕、ジョージアと結婚するって言ったとき、本気で反対しようとしてたんだけどさ?」
「……なんで?アンナは、引く手あまただったから?それともヘンリー殿か?」
「うーん、僕的に相手はヘンリーがいいと思っていたよ。面倒見いいし、アンナに
対してだけ、甲斐甲斐しいし、少々のことでは動じないでしょ?出会ってから、
アンナとずっと一緒だったから、アンナのことなら僕の次に詳しいだろうしね?」
「ハハハ……そうか。ヘンリー殿ならアンナが幸せに」
「なっただろうね。でも、ジョージアとの結婚を反対しなくてよかったと、今では
思っているよ。本人が楽しそうだし、僕、何より驚いたのは、ジョージア様に
嫌われたらどうしよう!って、泣きつかれることになるとは、思ってもみなかった
ことだよ!」
私の声真似までして笑っている兄が憎たらしい。そんなに泣きついたことないぞ!と思ったが、ここは私が折れる。私のためでも、ジョージアのためでもあるのだろう。
兄が私にしてくれる優しさの1つだ。そして、残りの人生をジョージアときちんと向き合えるようお膳立てしてくれたのだ。
ジョージアもそれがわかったのか、私の手を握った。氷のように冷たくなった手を両手でくるんで温める。
「そういうのは、僕がいなくなってからね。で、ジョージア的にどう?アンナの壮絶
な夢お手伝いをもう少し前のめりに手伝ってくれる気になってくれた?公がダメ
っていったのは、アンナが信用していないからと公がアンナを本当の意味で理解
できないからだよ。ジョージアなら、アンナの奥深くまで、理解しようと努力して
くれるはずだ。こんなじゃじゃ馬でも、ジョージアに対してだけは、しおらしい
こともあるくらいだし」
余計な一言を!と兄を睨んいると、少しだけジョージアの手先が温かくなった。
「あぁ、約束するよ。今までの頼り切りではなく、もっとアンナから学ぶよ。
それと同時に、俺にしか出来ないことも探そう。公については、俺からも助言
して、動いてもらえるようにする」
「理解してもらえて嬉しいよ!」
兄が微笑んだところで、扉がノックされる。
デリアが部屋に入ってきて、後ろにキティが大きなものを抱えてついてきた。
私と兄は目配せして頷きあい、この場は解散とした。
事情を話してあるデリアとキティが、兄と一緒に部屋から出て行く。
「ジョージア様。私、お昼からもう一人友人を呼んでいます。会ってくださいますか?」
「あぁ、もちろんだ。どんなご婦人なんだい?」
廊下を二人並んで歩く。
とても素敵な方ですわと微笑むと、楽しみだと応えてくれる。
もう、ジョージアは大丈夫だろう。そっと腕を組むと歩きやすいように合わせてくれた。
いつもの優しいジョージアに少しだけ甘えよう。
目の前に迫るいろいろを片付けるための休息としたのであった。
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