第567話 ぷにぷに発見!

 ニコライにまず、始まりの夜会の話をする。すると、目を大きく見開いて驚いていた。

 妹のために、兄がそこまでするのか……というのが、ニコライの本音だろう。ただ、優しい兄は、妹のお願いは、よっぽどでない限りきいてくれる。



「それでは、カレン様のような女性になるということですね?」



 なんだか語弊があるような言い方ではあるが、ニコライがいうことは正しい。カレンのような妖艶な女性に兄を変身させるのだ。

 本人も、イメージしやすいように、カレンに会った方がいいと思うのだが、始まりの夜会までに1度会うことができないか連絡のための手紙を書いて、ニコライにお願いしたところであった。



「では、ドレスについてですが……夏を先取したナタリー様作のドレスがござい

 ます。そちらになさいますか?」

「そうね……どんなのか、一度見せてもらえる?」



 少々お待ちをと部屋から出ていくニコライに、兄はそわそわしている。

 それもそうだろう。自分がドレスを着る日がくるとは、思いもしなかったに違いない。私は、比較的男装していることもあったが、それは、私が好きでしていたものであるから、それとこれとは意味合いも違う。



「お兄様、大丈夫ですか?」

「あぁ、なんとか……まさかね、ドレスを着る日がくるとは、思いもしなかった。

 しかも、大人になってから……」

「確かに。でも、きっと、似合いますよ!お兄様なら」

「それは、嬉しくない言葉だなぁ……」



 アハハ……と兄の空笑いを聞いていたら、ニコライが戻ってきた。

 こちらになりますと持ってきてくれたのは、夏を思わせる水色のドレスと新芽が伸びる季節をイメージした若草色のドレスであった。

 今年の夏の流行りとしては、大胆に魅せるを押し出しているので、胸元と背中の切り込みもわりと深い。

 もちろん、私が着る予定のドレスもそうなのだが、公爵である私は公への挨拶に屈むことも考え、開いた胸元にはレースをあしらってもらってある。

 敢えて、ナタリーは今年の社交始めに胸元を開いたものを出した。数週間遅れで、私のドレスと同じようにレースをつけたドレスを出す予定であった。

 私だけを特別として、みなが羨むようにを演出することに長けた戦略らしい。

 ハニーアンバー店の広告塔である私は、それには何も言わずに従っている。



「これを着るのか……?」

「はい、今年の流行です」



 ニコライは簡単に言ってのけるが、このドレスは兄にとってハードルが高いのではないだろうか?



「胸がないと、着こなせないだろ?このドレス」

「確かに。でも、ちゃんと持ってきました。これも、ナタリー様考案のものなのですが」

「コルセット?」

「その通りです。コルセットなのですけど、これが実は密かにすごく売れているのです」

「どういうこと?」

「私が説明するのですか……?」

「そうね、商品知識がないものは、語れないわ!私、初めてみたものだもの!」



 そのコルセットを裏返して、見せてくれるニコライ。ちょうど、胸のところに切れ目がありなんだろう?と触る。



「さすが、アンナリーゼさまですね。それこそが、このコルセットの秘密です。

 今年は、大胆に魅せるわけですから、見栄えを気にする人が増えるとふんだわけ

 です。ここにですね、こういったものを入れ込むのです。自分の胸を美しくみえる

 ための枚数を。さすがに詰めすぎるとかっこ悪いんですけど……」

「たしかに、これならつるつるなお兄様でも胸が出来ますわね」



 ニコライと私は二人で兄の胸へと視線を集める。すると、恥ずかしいのだろう、もじもじしながら、そんなに見ないでと訴える兄をそっちのけで、想像してみた。

 なんだか、兄は兄なので、気持ち悪く感じる。



「あっ!それでですね、弾力って重要だと思うんですよ!」

「どういうこと?」

「あぁ、それね?必要だよね……男としては、あるなら欲しい弾力だよね?」



 今度は、私の胸を見てくる兄とニコライ。なんだか、その視線が嫌だ。



「二人とも、首は洗っておく?それとも……」

「……あっ、いえ、その……」

「首は洗わない。アンナのそれじゃ、魅力がなぁ……」



 兄にまで言われ、ムッとした私は履いてきたハイヒールを脱ぎ、右手にギュっと握り兄に向かってぶつ!



「あ……アンナリーゼ様!サシャ様もほら、謝って、謝って!」

「……えっ?」



 私の方を見た兄はギョッとして手を翳して、ちょ……ちょっと……と大慌てするが、もう遅い。

 振り下ろされたその手は、止まることを知らない。

 下手したら、大けがものになる程ではあったが、私はその辺は弁えているつもりだ。

 ハイヒールの踵ではなく、つま先の方で、兄の頬をぶったのであった。

 自業自得なので、私は、全く謝るつもりは全くない。



「アンナ、ごめんよ。気にしてたのか?」

「……」

「なぁ、ごめんって……どうしたら、許してくれる?なぁ?アンナ」



 プイっとそっぽを向いて席を移動する。私はそこで、兄のことは何も聞かず、ニコライと話を進めていった。

 確かに、胸の弾力は詰め物で形作ると偽物っぽくなる。何かいい方法はないだろうか?と考えていたら、キティが入ってきた。

 冷えたお茶の交換とお菓子を持ってきてくれたのだ。

 机の上に置かれたものは、見たことがないお菓子であった。プルンとしていて透明で、夏に食べたら美味しいだろうなと考えていたら、キティが今度の夏に出そうとしているのだと教えてくれた。

 試作品を作っていたらしく、味見してくださいとのことだった。



「ねぇ?これ、プルプルしてるけど、もう少しだけ硬く出来る?」

「えぇ、水加減でなんとかなりますよ!」

「本当?」

「はい。何かあるのですか?」

「食べ物を粗末にするつもりはないのだけど……」

「……アンナリーゼ様。もしかして……」

「そう、これをコルセットにつめたらどうかしら?もちろん、そのあとは食べるん

 ですけどね!」

「……」



 何事かわからずにキティがポカンとしている。



「キティ、砂糖なしで自分の胸くらいの大きさと弾力のものってできる?」

「……それは、出来ますけど」



 困惑の色を隠せないキティに説明をして、明日、作ってもらうことにした。

 あとは、それで、夜会や茶会の間、もつのかを確かめないといけない。

 兄もニコライも微妙な顔をしながら、私の提案に頷く。


 ニコライにウィルからの注意を伝え、私たちはハニーアンバー店を後にする。

 まだ、怒り鎮まらぬまま、兄と馬車に乗り込み屋敷に帰ったのであった。

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