第533話 離婚しません
目を覚ますと私はベッドで眠っていた。
私はたしか……と考えると、謁見から馬車に乗ってそのまま眠ってしまったのだろう。
デリアが着替えさせてくれたのだろう、豪奢なドレスは夜着に変わっていた。
ふぅっと一息入れ隣を見ると、規則正しい寝息が聞こえてきた。
待っていてくれたのだろうか?ジョージアは、布団に潜り込んで頭しか見えない。
いつも領地を飛び回っていて、全然ジョージアとの時間を取れていないことに申し訳なさを感じる。
いつも、心の隅にはあっても、領地改革を中心に考えてしまっているので、どうしても家族が後回しになっている。
ジョージアだけでなく、アンジェラやジョージア、ネイトに対しても申し訳ない。
明日は……今日は休みだから、ゆっくり家族との時間を作ろうと心に決めている。
そぉーっとジョージアの髪を撫でる。銀の髪はサラサラとしていて触ると心地いい。
「私、『予知夢』じゃ、ジョージア様と別居生活真っ最中だったのよね……ふふっ、頭なんてなでられる
って……手に届くところにいてくれて、こんなに嬉しいはずなのに……いつも、放っておいてごめん
なさい」
一滴、頬を涙が伝う。それを夜着でゴシゴシと拭いていると、ふわっと優しい香りがした。
「そんなに強く擦るとアンナの綺麗な肌が傷つくよ。ほら、もうおしまい」
「……」
「どうしたの?」
私は、ジョージアの問いにふるふると首を横に振るだけで、言葉が出てこなかった。
ジョージアに擦っていた手をダメだと抑えられているので、涙が溢れて流れているのが見えるだろう。
そんな私に少し驚いた顔をしたジョージアであったが、優しく微笑むと抱きしめてくれる。
「好きなだけ泣いてもいいけど、明日目が腫れてたらデリアに怒られるよ?」
「そうでしょうね……そうしたら、デリアから守ってくださいね?」
「うーん、それは……善処します。それより、遅くまで頑張ったね。今日はゆっくり出来るんだろ?」
「そのつもりですよ?」
「ん、じゃあ、今日は1日俺のための日にして、ゆっくり休んで」
「でも、出かけるんじゃ……」
「出かけるより、出歩きすぎて疲れているんだろうから、今日は一緒にゴロゴロとする。いいね?頑張り
すぎなんだよ、アンナは」
大きな手で頭を優しく撫でられると、ホッとする。ジョージアからの温もりに体を預け、私も腕をジョージアの背中に回すと今までよりずっと密着する。
温かい……ほぅっと息を吐くとスリスリとすり寄る。見た目のまんま、男性のわりに華奢なジョージアではあるが、腕の中に収まっていることが何より安心できる場所であった。
「ジョージア様、私、離婚はしませんからね……」
お城でのことを思い出し、公がジョージアへ離婚も考えておくよう言ったことを否定しておく。
驚いたのか、ジョージアの体が一瞬ビクッとした。私は何も考えず、ただただ甘えるとギュっと抱きしめてくれる腕に力がこもった。
「いいのか……?公の意向は、アンナを公妃にした方が、国が潤うからと言っていたが……」
「国なんて、知りません!それは、公が自身で解決することですし、公妃を飾りではなく、きちんと
育てればいいだけの話です。今更、絶対無理でしょうけどね!それに、私はジョージア様だから結婚
したのですよ!アンバー領のことが大好きなのです。私を追い出さないでくださいね?」
私もジョージアに回した腕に力を込めた。
「あぁ、アンナが望まないのに追い出すわけがないだろう?アンバー領もコーコナ領もアンナが主導で
動いているんだ。俺の方こそ、アンナがいなくなってしまうと困る」
「ジョージア様でも、これくらいできますよ!」
「そんなことないよ。アンナが切り開いてきたからこそ、人が集まり領地も活気づき、みなが注目して
いるんだ。魅了された一人としては、アンナという人物が起こす事柄すべて俺は誇りに思っているし、
隣にいられることが幸せだ。アンナを支えることしかできないけど……」
「ジョージア様!支えることしかじゃないです。ジョージア様が、子どもたちがいるから頑張れますから!」
そうか……と呟くジョージアに、そうですよと囁き返す。
「私の中心は、ジョージア様ですよ。ここにしか、帰ってくる場所はないですから……本当に、私を
追い出さないで下さいよ?」
「あぁ、しない。そんなことしたら、アンジーやジョージにも恨まれる。ネイトは、まだまだ手もかかる
し、何より子どもたち、俺も含めてアンナが必要だから」
「ふふっ、よかった。ジョージア様にアンバーから追い出されたどうしようかとちょっと思ってしまった
んですよ。公にも、きちんと離婚はしないって言ってきましたから、後は、ジョージア様の意思が
どうかだけだったんですけど……その言葉を聞いてとても安心しました」
不安に思っていたのは、俺だけじゃなかったんだな……ため息交じりにジョージアのひとり言が耳に届くと、そんなふうに思わせてしまったことを申し訳なく思う。
「あぁ、それと……俺、ウィルに嫉妬してたかも」
「えっ?」
「いや、昔からだけど……いつもどこにいくのもアンナはウィルを連れていくだろ?ウィルもそれに文句
言わず、付き従うから。信頼関係が他の誰よりずっと深いように感じてた。まぁ、俺がウィルくらい
強ければ、いつでもアンナの側にいられるんだろうけどさ」
「今から、鍛えますか?」
冗談交じりに、提案してみる。返ってくる答えはなんとなくわかってはいるが、もし……ジョージア様がどこに行くのも側にいてくれるなら、それ以上に嬉しいことはない。
「ハハ……今更無理。俺は、アンナとウィルとの距離が近いのがずっと気になっていたんだ。たぶん、
ヘンリー殿より、ウィルの方がアンナの内側にいるだろう?」
「そうかもしれません。私の考えていることは、ウィルには筒抜けなんですよね……頼りすぎている
ことは、私も反省しています」
「アンナの心の所在がどこにあるのか、わかってはいてもだな……」
小さくため息をつくジョージアは、大きいくせに小さな子どものようであった。
「ジョージア様?」
「ん?」
「大好きですよ!」
「もちろん。俺もアンナを愛しているよ。はぁ……もっと頼ってもらえるようにしないとお飾り公爵って
言われそ……言われているのか」
「お飾りだなんて……私は思ってませんからね!ジョージア様が学んできたことを領地改革へどんどん
盛り込んでいるんですから!ジョージア様がいなかったら、もっと時間がかかっていました。ご協力
いただいたこと、本当に感謝しています!」
これからも頑張りましょうね!と呟くと、あぁ、一緒に頑張ろうと答えてくれる。
みなが私主導で改革をと思っているが、ジョージアの協力無くしてこんなに早く進むことはなかった。私にはアンバー領の知識が圧倒的に少ないので、蓄積されたジョージアの知識はとても役にたっているのだ。
表に出ていない影の協力者があってこそ。夫婦揃ってやっと一人前の領主となるのだから、勘違いしている世のみなを叱ってやりたい。
まだ、朝まで時間があるからお休みというジョージアに抱きつきながら、またスヤスヤと眠りにつく。
とても疲れていたのか、ジョージアの温もりに安心しすぐに夢の中であった。
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