第505話 花の都に行きたいです!

 視察も終わり帰ってくると、夜中もだいぶ過ぎていた。

 いつもはレナンテをかって飛び回っているので、馬車移動に物凄く時間がかかることが身に染みる。



「おかえりさないませ、アンナ様」

「ただいま、デリア。悪いんだけど、軽食って用意出来るかしら?」

「厨房に頼んできます。甘くない方がいいですね!きっと後ろの殿方たちに食べて

 もらうものでしょうから!」

「よろしくね!執務室にいるから、お願いね!あと、スキナの部屋、用意してあげて

 くれる?今からじゃ、帰せないから明日、一緒に向かうわ!」

「アンナリーゼ様、大丈夫です!今からでも……」

「今から、少し雑談を挟むから、今日はここに泊まってちょうだい!」

「今からですか?」

「そうそう、鉄は熱いうちにうてというでしょ?見てきたこと、感じたこと、どんな

 ふうに今後活かすかを話し合ってから、解散なのよ!」

「馬車の中でも散々したと思うのですが……」

「あれと同じことをこれからもう一度さらうのです。アンナリーゼ様は、あと2,3日

 で公都へ社交に向かわれますから、それまでにつめておかないといけないことも

 ありますから。今回の視察は、公都でアンナリーゼ様が動くためのものであって、

 遊びで回っていたわけではないんですよ!

 そうは、見えなかったかもしてませんが……」



 イチア、余計な一言ねと睨むと、そうでしたか?とすっとボケる。

 確かに……遊びに行っていたと言われても、全然言い返せない。新しく見るもの考えるものが今回の数日のうちにたくさんあったのだ。

 だから、ついついはしゃいでしまったことは、反省をしないといけない。

 コホンと咳ばらいをし、執務室へ向かうようみなに声をかける。



 執務室に入ると、明かりがすでにつけられていた。

 デリアに使うと行っただけで、準備をしてくれたようだ。みながそれぞれの席についたとき、失礼しますとリアンが入ってくる。



「お茶をお持ちしました。軽食の方は今しばらくお待ちください」



 そういって、机の上に並べられていくお茶を手に取り、カップに口をつける。

 鼻を抜ける優しい香りに、私は我が家に帰ってきたというホッとした気持ちになった。

 そのとき、コンコンっと扉がノックされるので入室の許可を出すと、中に入ってきたのはロイドであった。



「あら、ロイド。こんばんは!」

「アンナリーゼ様、夜分に申し訳ありません」

「いいのよ!今から、今日の反省会をするから、よかったらロイドも入ってくれる?」

「私のようなものが入ってもよろしいのですか?」

「えぇ、いいわ!私、人を集めて話をするのが好きなの。こんな夜中にすること

 では、ないんだけどね……時間があまりないから、みんなごめんね!」



 滅相もないと答えたのはイチア。本当だよねって言ったのはウィル。スキナに関しては恐縮してしまっている。



「軽食が来てからでもいいんだけど、先に始めましょうか!」



 そういうと、今日の視察での話が始まる。順番的に先に砂糖畑の話をするようで、私は頷いて聞いている。

 確か、スキナに特殊なカマの修理と作成の話が出ていたことを思い出し、聞いてみることにした。



「スキナ、今日、特殊なカマを頼まれていたわよね?」

「えぇ、そうです。初めて見るもので、よくわかりません。ものがあまりわかって

 いないので、想像がしにくく、どんなものになるのか……頭を動かしているところ

 です」

「そっか……見たことのなかったものなのね。でも、カマの見本は預かってきている

 のでしょ?」

「はい、それはもちろん。サトウさんと話はして、改良点等も言われたのですが、

 まず、このものをじっくり観察した上でと思っています」

「もし、試作品を作るのであれば、階下でビルたちが職人を総括しているから、誰か

 紹介してもらうといい。見知らぬ土地で、始めから強力してくれる職人を雇うのは

 大変だろう?」

「それは、ありがてぇ!そんな人があるんですか?」

「まだ、機能は完全にしていないのだけど……そういうまとめ役を作ってあるわ!」

「どんなふうに運営しているのです?」

「規模によって、上納金をもらっているの」

「上納金ですか?」

「そうね。それを払うことで、ハニーアンバー店で必要なものを作るときには、

 優先的に入札が出来たり、新しい技術がわかれば、共有したりしているわ!

 最初は技術の流出を畏れていたのだけど、ビルたちの説得のおかげと一人のガラス

 職人が、私たちに全幅の信頼をくれたおかげでで、今では殆どが領主傘下に入って

 くれているの」

「ガラス職人といいますと……」

「ロイドは、これからお世話になるかもしれないわね!ラズベリーという女の子よ」

「あっ!香水の話ですね……そのことで、相談があったのですが……」

「何かしら?」



 私は小首を傾げてみる。今話しても大丈夫ですかと問うてくるのもちろん!とロイドに返事をする。

 ロイドは今のところ、アンバー領でイチアのお手伝いをしてもらおうとしていたのだが……何かあるらしい。



「あの、公都へ私も連れて行っていただけないでしょうか?」

「公都へ?」

「はい。まず、流行りの香りというものを感じたいと思います。あとは、原材料の

 あるコーコナへも行ってみたいと……花の都へ行きたいんです!」

「なるほどね。それなら……一緒に行きましょう!イチアは、一人でも大丈夫

 かしら?」

「はい、こちらは、あまり使えない文官もいますから……アンナリーゼ様が帰って

 くるまでには、なんとか使えるように育てておきます!」

「あまり、厳しくはしないであげてね!」

「それは、もちろんです!アンナリーゼ様が出来るくらいのことしかさせません

 から、大丈夫ですよ!」

「イチア、それは大丈夫って言わないんだけど……姫さん、バカだけど、ハイス

 ペックってやつだから、たいてい、領地のことなら何でもすぐに出来ちゃうぞ?」



 一斉に視線が集まり、居たたまれなくなったので、カップに手を伸ばして一口飲む。

 デリアが夜食の軽食をお持ちしましたと部屋に入ってきたところであった。

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