第504話 何か困りごとでも?

 こちらになります言われ、ずいぶん歩いた。振り返ると、馬車が小さく見える。



「あの、アンナリーゼ様、その……」

「どうかして?」

「たくさん歩きましたが、お疲れではありませんか?」

「ん?私、これくらいじゃ疲れないわ!結構鍛えているから、少々歩いたところで

 大丈夫よ!

 それより、1年前は荒れた土地だったのに、見事ね……見違えるようよ!」

「はい、いただいた畑でしたが、昨年の砂糖の作付けと同時に、時間を見つけ

 ては、今年のことを考え、時間さえあれば畑を耕してきましたので。痩せこけた

 土地ではありましたが、幸いに、ヨハン様の開発された肥料のおかげで、ずいぶん

 楽に畑が整ってきたのです」

「ここでも、ヨハンの肥料なのね……」

「ヨハンさんはすごいですね。見習はないと……」



 スキナは、ヨハンの活躍を耳にしては、心堅くいろいろとメモを取ったりしていた。

 引継ぎはこれからあるらしく、肥料についてもスキナに任せられるのではないかと思っている。



「……あの」

「ん?」

「そちらの方は、どちら様でしょうか?」

「そういえば、紹介していなかったわ!私の生家のあるフレイゼン領の学都から迎え

 入れた教授のスキナよ!主に、農耕器具の開発とかをしているのだけど、肥料も

 専門になるの?」

「えぇ、一応はクレアやタガヤと相談しながら何ですけど……」

「初めまして、スキナ様!」

「初めまして、サトウさん。その、様っていうのはやめてもらえると嬉しいかな。

 平民だからさ!」



 わかりましたとサトウは微笑み、握手をする二人。



「農耕器具とかで、困りごとがあったら、スキナに相談するといいわ!連絡先は、

 前の領主の館かもしくは、ヨハン教授の研究所に連絡入れてくれたら大丈夫!」

「あの、早速いいでしょうか?」

「何か、困りごとでも?」



 えぇ、と曇り顔のサトウにどうしたのだろうと考える。

 十分な畑に農耕器具はあるはずだが……どんな要望なのか、気になった。



「スキナさんは、砂糖がどんなふうにできるかご存じですか?」

「いえ、私は知りません。どんなふうに出来ますか?」



 そういうと大まかな作成方法をサトウは説明してくれる。私もだいたいは知っていたが、おさらいという意味で耳を傾けていた。



「それで、茎をカマでかるんですけど……その茎は、太く堅いのです。なので、

 通常のカマではかれず、専用の物があるのですが、こちらの鍛冶師では、作り方が

 わからないと作れないと言われ……消耗品でして、1年から2年で買い替えとなる

 のですけど……こちらで作れないとなるとインゼロ帝国からの取り寄せとなり……」

「なるほど、それは、困りましたね……アンナリーゼ様、早速、仕事が舞い込んで

 来ました。実物をお貸ししていただけるのであれば、鍛冶師と相談して作ってみ

 ようと思いますが、いかがでしょう?」

「えぇ、お願いね!それがないと、困るなら、開発はもちろん、常用に作れるよう

 に領地内で作り方を広めて置いてくれるかしら?」

「いいのですか?」

「何が?」



 私はわからず、何のこと?と小首をかしげると、図案があるとそれをいくらかの使用料としてお金を取ることが出来るらしい。

 でも、領地の鍛冶師は、アンバー公爵家の傘下に入っているので、そういうのはしなくても毎月いくらかお金をもらっている。



「なるほどね……じゃあ、領地外に情報が漏れた場合はということにしましょう!

 そんなに、重きをおかないわ!道具ですもの!それに、今のところ、そのカマは

 アンバーでしか、役に立たないものね!」

「確かにそうですね……それなら、いいかもしれませんね!」

「それと、言い忘れているけど、商店を始め鍛冶師や職人もハニーアンバー店の

 傘下に入っているの。だから、一定量の上納金をもらっているから、他にお金を

 せしめることはしないでちょうだい」



 わかりましたと返事をくれるスキナに頷く。

 基本的にアンバー領が1つの商店として機能している今、領民たちに余分なお金は出させたくない。

 生活が1年前よりかは少しましになった程度なのだ。

 あと2年から3年は、それぞれ厳しいのもわかっているので、私は無理はしない程度に考えていたのだが、下手にあれもこれもお金がいるとなると、せっかく賛同してくれていた人たちも手を引きかねないので、そこは慎重にお願いしたいところだ。



「では、持ってきますので、お願いしてもいいですか?」

「もちろんです!」

「ありがとうございます!もう着きますからね!」



 そういってニコッと笑うサトウ。先行していた彼がいきなり立ち止まった。

 ついたようで、畑をよくよく見ると5センチ程の芽が出ている。



「これが……?」

「これがです!私、見たことないのよね……ちょうど、去年は忙しかったから……

 今年は、収穫時期には、絶対領地に帰ってくるわ!いつ頃収穫?」

「夏ごろですね!太陽をさんさんと浴びて茎が甘くなるようになった頃です」

「わかった!絶対帰ってくる!」

「アンナリーゼ様、公都にいられるのは2ヶ月だけですよね?」

「そうなの……でも、コーコナも見に行かないといけないから……」



 なるほどと頷いていた。

 領地が離れていると不便よね……とボヤくとみなが苦笑いする。

 それでも、私に期待してくれているのは感じるので頑張ろうと思っているのだが、やっぱり、公都での宣伝は大事なので、しっかり活動も忘れずに頑張らないと!と心に誓う。

 みんながいるからこそ、私も公都で宣伝ができるのだから……感謝は忘れず、夏が楽しみね!とニッコリ笑うとそうですね!とみなが応えてくれるのであった。

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