第490話 10人の魔法使い18

 規則正しいノックのあと、入出許可のデリアの声が聞こえてきた。

 さすがにお願いしてものの10分もしないうちに帰ってきたのだ。



「どうぞ、入って!」



 中ではリアンはじめ侍女やメイドが食事の準備を始めている。

 私はいつもの場所で座り、ウィルやイチアも座って待っている。



「お連れしました!」



 部屋に入ってきたデリアの足元には、何故かアルカが引きずられていた。

 何事だろう?これは、触れない方がいいのだろう。私は、そっとデリアの顔を見た。



「えっと……みんな揃ってる?」

「えぇ、もちろんです!」



 ニッコリ笑顔のデリアに怯えているアルカ。



「じゃあ、そこに座ってくれる?特に順番とかないから、自由に……」



 次々に入ってくる魔法使いたちが思い思いの場所に座る。

 私は、みなが座ったのを確認したあと、さてと……始めた。



「みんな、アンバー領へようこそ。これまではフレイゼンで研究をしてきた中で、

 今回こちらに移動してきてもらったんだけど、勝手も違うし気候や生活様式も違う

 こともあると思うけど、のびのびとそれぞれの研究を続けて行ってちょうだい。

 その中で、アンバー領にとって、役に立つような研究ならどんどん提案していって

 欲しいの。その中で、実行するしないわは私が判断する。もっと研究を続けて

 欲しいときはお願いするわ!

 この領地にもすでに研究者ではないけど、とても素晴らしい職人がいるの。その

 職人と手を組んでもらっても構わない。お給金の分だけはきっちり働いてね!

 領地では、いろいろな分野のことを

 学びたい領民もいるの。蔑ろにするでもなく、バカにすることなく、純粋に知り

 たいという欲求には応えてあげて。この領地では、学びがたりないの。その領民の

 学びを補填してあげて欲しい。

 基礎の読み書きについては、7割の人が出来る。ただ、苦手な人もいるの。そう

 いう人もいることを十分に配慮してちょうだい。

 あと、もっと高等なことを学びたいという領民もいるわ!そういう人は、有料だ

 けど、学校を開くつもり。あなたたちは、研究者であるとともに彼らの先生にも

 なること、忘れないでほしい。

 研究室だけでなく、領地に飛び出していって、領民に寄り添う研究をしてほしいと

 願っているわ!」



 私はグラスを持つ。もちろん、私の分は、葡萄ジュースなのだが……みなのグラスには『赤い涙』が入っている。



「今日という日……みなの研究がうまく行くように!」



 グラスをもち上げると、みなが立ってグラスを掲げた。誰とは言わず、一同乾杯だ。



「アンバー領のために、アンバー領の民のために、アンナリーゼ様のために」



 驚いた。示し合わせたかのような掛け声にありがとうと微笑むとそれぞれ一口葡萄酒を飲む。



「うっま……何これ……」

「アンバー領最高級の葡萄酒。今日だけだからね!飲みたかったら、大金叩いて

 買ってちょうだい!」



 ニコニコと微笑むと、高そう……と零れた。



「アンバー領は、蒸留酒だけでなく葡萄酒を始め果実酒も作っているの。

 よかったら、それらも試してみて!でも、明日には移動になるから、ほどほどに

 お願いね?飲みやすいから……ついつち飲みすぎてしまうらしいわ!」



 返事のいいのだが、やはり飲みやすいので結構の量を飲んでいるなと横目で見ながら、料理を運んでもらう。

 基本的にアンバー領で採れたものを中心に出してもらったのだが、今日は一段と料理長が頑張ったことがわかる。

 初めて食べる料理に、私まで驚いた。

 それを目ざとく見ていたクレアが嬉しそうに笑う。



「アンナリーゼ様、それ美味しですか?」

「えぇ、おいしいわ!クレアが考案してくれたの?」

「考案というか、助手から教えてもらったのです。お芋ですけど、バターでじっくり

 焼いて焦げ目をつけると香ばしくて美味しいですよね!そこにサワーソースを

 つけるとまた味が変わって美味しいのです。美味しい食べ方はたくさんあると

 思いますよ。地域によっても食べ方も違いますし!」



 へぇーと私は芋を口にほりこみながら、クレアの話を聞く。

 本当にたくさんの食べ方があるようで、これは領民にも教えてあげるといいだろう。

 同じ食材で食べ方が変われば、きっと食事も楽しくなる。

 こんな少しの時間で、初めて知ることがあって、私は嬉しく思う。



「クレア、他にも美味しい野菜の食べ方とかあったら、料理長に伝えてくれる?

 料理長もレパートリーが増えるのはいいと思うの。そこから領民に広がると

 思うし!」

「わかりました!他にも何品か教えておきますね!」

「ありがとう!」

「ところで、料理長に教えると何故領民に広がるのです?」

「うん、定期的に料理長が料理教室みたいなことをしているみたい。何か領民の

 ためになることはないかってなったときに考えてくれてて、それは許可をだして

 あるわ!

 逆に料理長が教えられることもあるみたいで、美味しいものが並ぶのよ!」

「なるほど……」

「それならー僕もぉー協力できます!」

「果物で?」

「そうね、タガヤの考える果物のデザートはとってもおいしいのですよ!」

「それは、楽しみだわ!」



 二人に微笑みかけると、また違う料理が運ばれてくる。

 今日の料理はどれもこれも美味しいので大満足であった。


 デザートまで満足で、私たちはお腹も満たされたので、拠点や住む場所について話すことにした。

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