第489話 10人の魔法使い17

 十人目が領地に来たことで、私たちはそれぞれ住む場所を考えないといけない。


「まず、葡萄畑に羊さんがいるから……ヤイコとソメコは、ユービスの町に住まわ

 せるわ!その方が近くていいわよね?」

「そうですね、そうすると、ロイドは、出来ればここに住んでもらいたいです

 けど……」

「そうね、いいわ!学校を開くときだけ、向こうに移動しましょう!セバスや

 イチアも同じよ?わかってる?」

「学校の件ですけど、基礎学習についてはこのまま、ここで学校を開いた方がいいと

 思うのですけど……」

「そっか……通ってくれている人のことを考えると領地の真ん中っていうのは、

 利点ね!」



 私たちは地図を広げながら、うんうんと考えている。

 住む場所は、移動手段さえあればそれほど考えなくてもいい。

 領地のあちこちに拠点となる場所は、ちゃっかり作ってあるのだ。



「クレアとタガヤは一緒の方がいいよね?」

「まぁ、あの様子だとその方がいいでしょう」

「そうすると、ヨハンの研究所に行くのは二人にしましょ?あの場所、野菜を始め

 品種改良とか、今でもやってるから、ヨハンとの引継ぎもしやすいでしょ?」



 なるほどと頷いているが、本当はスキナも一緒にと思わなくもない。

 切っても切れない農耕器具の改良なら、一緒の方がいいような気がするが……場所がないから仕方がない。



「そうすると、スキナ、アルカが前の領主の屋敷に住む形ね。あと、ロイドも向こう

 に部屋を作っておいた方がよさそうね?」

「確かに、より高等な授業を受けるためなら、向こうで授業を開くことがのぞま

 しいですからね!」

「うん、部屋は多少余る感じだけど……って感じね」

「リアノとクーヘンはどうします?」

「リアノは石切りの町に拠点をおいた方がいいわ!カノタとの兼ね合いもあるし、土

 木工事の話をするなら、一緒に動いてもらう方がいいでしょ?アルカには悪いけど、

 必要なときだけ移動してもらう形ね?」

「まぁ、馬に乗れれば、それほど移動に苦労はないですかね?」

「そうなのよ。公爵領って大きいけど、それが利点ね。1日あれば移動は可能。

 移動で1日を使い果たす場合もあるけどね……」

「まぁ、それは……馬に乗る人の技量もありますから……全員乗れるのですか?」

「一応、フレイゼンも移動は馬でしてたから、大丈夫だと思う。一人を除いて……」

「あはは……それで、クーヘンはどうします?」

「クーヘンは、こっちよりコーコナの方がいいわね!コーコナの領主の屋敷に

 住んでもらいましょう!

 荷ほどきはせず、このまま私と公都の屋敷にとんぼ返りね……」

「ナタリー様に会わせるのですか?」

「えぇ、采配はナタリーに任せるほうがいいかなって……羊さんの毛の話もあるし」

「そういえば、ナタリー様って、コーコナへ行ったときは、どちらに滞在しているの

 ですか?」

「領主の屋敷に拠点をおいているわ!用事があれば、自分から飛び出していってる

 みたい。普通は……呼び出して話し合うんだけどね……」



 はぁ……と呆れながら、ため息をついたら、アンナリーゼ様も変わらないと言われてしまった。

 確かに、呼び寄せるより、だいたいどこにいるのかわかるから、突撃していって、話をしているなと苦笑いした。

 でも、忙しく働いているみんなの手を私の思いつきに……いつも振り回しているのかと思うと反省しないといけないと、肩を落とした。



「住む場所は、だいたい決まりましたね?」

「助手たちのこと……まだ、考えずにいたのだけど……」

「ロイドとクーヘンの助手はどうしようかしら?」

「ロイドの助手は三人ですので、こちらでなんとかなりそうです」

「そんなに少ないの?」

「らしいですね……人海戦術ができるかと思いましたが、いささか残念です」



 イチアは、ロイドの助手に期待をしていたらしい。

 今は、まだ、セバスやイチアに人をつけていないので、殆どを自分たちでしないといけないのだ。

 なので、頼りにしていたらしいのだが……それならと私は提案した。



「イチア、通いで何人か雇ってもいいのよ?二人で今まで全部してくれていたけど、

 業務的に苦しいでしょ?」

「はい、正直なところとても二人では回しきれていなかったのです」

「優秀な人を自分で選んでみてはどう?この領地の人で字の読み書きや計算が出来る

 人だってたくさんいるのだもの。

 仕事にしてみたいという人も増えてると思うの。賃金については、要相談って

 ことで募集かけてみて!」

「わかりました!あの、ひとつ」

「何?」

「パルマ様は、こちらに出向はできないのでしょうか?その、セバスのように……」

「うーん、パルマは出来れば、公都においておきたいわ!公都や城の内情を教えて

 もらう間者は必要でしょ?」

「それは……そうですね。アンナリーゼ様は、ずっと領地に引篭もっておいでです

 からね?」

「そうなのよ!もう一人、武官でいるんだけどね……武官は武官で必要だから」

「文武両方で情報収集ですか?」

「そう。パルマは文官だから、内政や外の情報収集。エリックは武官だから、

 軍備や軍行の情報をもらっているわ!」

「それって……」

「情報漏洩よね……はっきり言って。でも、まぁ、公は何も言わないでしょう!その

 情報を元にこちらからの提案もあげて、公が持ってる情報とのすり合わせをして

 いるのだから。

 最近出は、わざわざ、エリックからの手紙は公直々に書いてあるのもあるわよ!」



 なんたることだろうと頭を抱えているイチアにニッコリ笑いかける。



「大丈夫。公への返答はイチアの入れ知恵もちゃんと送ってあるから!」



 大きくため息が聞こえてきたころ、町や村へと出ていた馬車か帰ってきたようで、玄関前

 が騒がしくなった。



「そろそろ、みなが揃ったみたいね!割り当てもあるし、話し合う時間を作りま

 しょう!執務室でいいかしらね?」

「いいと思います。ウィル様やノクト様にも入っていただきましょう」



 そうねとイチアに相槌をうち、デリアを呼ぶ。

 たぶん、玄関でウロウロとしているだろう魔法使いどもを回収してきてもらわないといけない。

 ここは、優しいリアンより、しっかりしたデリアの方がきっといいだろうと、デリアに魔法使いのたちの回収を頼むのであった。

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