第481話 10人の魔法使いⅨ

 馬車が止まってから、しばらくの時間がたった。

 私は、不安にかられ、席を立つとウィルにとめられる。



「姫さんさ、せっかちじゃね?」

「そう?だって、結構な時間たったよ?」

「確かに、少し遅いですよね……ここまで、それほど時間がかからないはずです

 けど……」

「そう言われれば、2分もあれば普通なら着くわな?」

「ほら、変じゃない!ちょっと行ってくる!」

「アンナリーゼ様、もう少々お待ちください。かのものは、少々……遅いのです」

「どういうこと?さっきも言ってたわよね?」



 私は、スキナの言葉を理解できなかった。私だけではなく、ウィルもイチアもだろう。

 フレイゼンからきたクレアやクーヘンはスキナの言葉に頷いている。



「おそくぅーなりましたぁー!」



 そういって部屋に入ってきたのは、かなりポチャッとした男性であった。

 縦にも横にも大きい。横は、どうみてもぷにぷにしている。



「馬車からぁー降りてぇーここまでぇーとうかったでぇーす!」

「いや、遠くないだろ……」



 ウィルの的確なツッコミもものともせずに入ってくるその男性をポカンとして私は見ていた。



「あのぉー、ここのぉー領主様はぁーどなたですかぁ?」



 その言葉でハッとした私はニコリと笑い、返事をする。呆気に取られている場合ではない。



「私よ!ようこそ、アンバー領へ!どうぞ、かけて!って……椅子大丈夫かしら……」

「姫さん、その物言い失礼だから!」

「うぐぅ……ごめんなさい」

「椅子ならぁー自分のがぁーありますからぁー大丈夫!」



 ぐっとしている大男を見てからウィルを見て、どうしよう?と視線で問うと立ち上がって近寄っていく。



「近くで見ると、大きいな……椅子があるなら、どこでもいいから座ってくれ!」

「ありがとぉーございますぅ!」



 大男は、クーヘンの近くではなく、ちょっと離れたソファのところに、自前の椅子を置き座った。

 座っても大きいのがわかる。背丈がクーヘンと変わらないのだ。

 こののんびり屋さんは一体、何の研究者なのだろう?と思わなくもない。



「いい加減、体動かしなさいよ!そんな体だと、動きにくいでしょ!」

「そんなことぉー言われても……クレアちゃんが作るご飯は美味しいからぁー仕方

 ないじゃないか!」

「えっと……知り合いでいいのよね?」

「えぇ、私と同じく、美味しい野菜や果物の研究をしています。私は野菜全般出す

 けど、タガヤは、果物を主に研究対象としています」

「果物……果物ね……うん……」

「アンナリーゼ様の目が疑わしいってなっているのもわかるぜ?こんななりだ

 もんな!」

「えっと……」

「タガヤは、ワシとも交流があるのじゃが……いかんせん、動くのが嫌いでな?

 そのくせ、食べるのが好きで、食べてばかり……ここの領地に来た限りは、体を

 動かすようにする予定です。

 こちらでの助手は、ギリギリまで絞りましたので……!」



 スキナがじろっと睨むとひぃぃとタガヤは、小さく悲鳴をあげていた。

 まぁ、ノクト辺りと一緒に領地を回れば……きっと、痩せるだろうな……と見やるが、タガヤの痩せるために力を入れているのは、クレアとスキナの方だと見て取れた。



「昔は、細くて筋肉質で素敵だったのに……はぁあ……私、いやよ。

 こんな婚約者!」



 クレアは、大きくため息をついた。



「アンバー領は、領地自体が広いから、結構歩き回らないといけないと思うの。

 それに、果物なら葡萄をお酒用に作っているのだけど……点在してるから。

 馬に乗れないと、大変だと思うわ!でも、その体格なら、馬の方が……」

「たぶん、ダメになるから、痩せるのは必須だね!」



 クレアににっこにこと笑われるとやっぱり悲鳴をあげていた。

 確か、婚約者って言ってたと思うんだけど……二人を見れば、なんとなく距離というか壁があった。



「あの、クレアとタガヤは、婚約者なの?」

「そうですよ!親同士が決めたことですけど……研究者にお互いなりたいって言った

 ら、条件をつけられてしまって……この大男と結婚しない限り、認めないって……

 研究がひと段落したら、結婚する予定だったんですけど……フレイゼンって、

 何でも学都の中に揃っていたので、全く出歩かなくなって、食べて食べてってして

 いるうちにこんなのになったのです!

 私、最初をしっているだけに……こんなになったタガヤと一緒になるなんて、

 無理です。アンナリーゼ様、なんとかしてください!」

「なんとかって……どうしよう、ウィル?」

「俺に振るなって……」

「だって……私……」

「まぁ、姫さんは体動かすことが好きだからな……まぁ、何か考えておくよ。

 早急に!馬を潰されたら困る……」



 はぁ……と、ため息をつくウィルに少しだけ微笑む。



「いいえぇーそんな……いりません」

「まぁ、大丈夫でしょ!クレア、一緒に連れまわしてあげればいいわ!馬車移動した

 としても結構歩き回らないといけないから!」

「そうなのですか?」

「うん、この領地、さっきも言ったけど、歩き回らないと何も手に入らないように

 なっているのよね!」

「それは、何故ですか?」

「うん、領地全体に仕掛けを作ろうとしているのよね!購買意欲をかられるよう

 な……だから、歩いて見てもらってって思っているの」

「なるほど……じゃあ、馬車も村とかの前とかで、降りるとかになっているの

 ですか?」

「そうそう、まさにそんな感じなのよ!」



 そうですかとクレアは笑い、ニコニコとしている。

 きっと、歩き回ってタガヤを痩せさせることにしたのだろう。

 ちょっと、時間はかかるだろうけど……ゆっくり痩せる方が、戻らないこともある。

 二人でしっかり領地を歩き回ってもらい、美味しい野菜や果物ができることを祈るばかりである。

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