第482話 10人の魔法使いⅩ
六人になったが、夕飯は昨日に引き続き執務室で取ることにした。
揃うとわかる……奇人変人のあつ……コホン。教授と呼ばれる人たちの集まりは、実に奇妙なものであった。
話題の提供をとも思ったが、共通する話題はみつけにくそうだった。
だからと言って何も言わないのも変だったので、とりあえず、明日の話をすることにした。
「あの、聞いてほしいのだけど……」
話を切り出せば、みなが食事を取っている手をとめ私の方に注目する。その奇人変人たちの視線を集めるのは、かなり心労があるが、明日は10人揃った上で、今後の話をしないといけないので、練習だと思い我慢する。
「明日、最後の受け入れをします。その後、晩餐を開くのだけど、そのときに、
この領地でのあなたたちの在り方や手伝って欲しいことをお願いしようと思って
いるわ!みんな頭のいい人ばかりだから、自分の役割はわかってここに着ている
のでしょうけど、フレイゼンとここでの在り方は違うと先に認識だけしておいて」
「どういうふうにって言うのは、明日聞かせてもらうとして……研究するものが
何もない1日を過ごすというのは、実につまらない」
「そこで、提案があるわ。この屋敷から程近い場所に村があるの。麦畑を主にして
くれている場所ではあるのだけど、そこを案内しようと思っているわ。
行きたい人がいれば、申し出てくれると嬉しいのだけど!」
「そこの水質調査をしてもいいですか?」
「えぇ、もちろん。この領地だけでなく、私はもうひとつ領地を賜っているから、
まずは、近場を小手調べに調査してもらって構わないわ!ただし、この領地では、
あなたたちはよそ者よ!
だから、まずは住民に礼を尽くすこと。それを怠るような研究者がここに
集まったとは思っていないけど、出来ないようなら、私の判断でフレイゼンへ
帰します。ただし、ただ、帰すだけなら……ダメだと思うから」
私は六人に笑いかけ、次の言葉を発するのに少しだけ溜める。
すると、聞く耳を持ってくれるかもしれないからだ。
「何かあるのですか?」
「フレイゼンの学都へは帰れない、資金の提供は打ち切ると思ってちょうだい。
私は元々フレイゼンの人間。その一員として、学都に領民への礼も尽くせないよう
な学者はいらないし、お金の提供をするだなんて勿体ないことしたくないわ!」
「それは、フレイゼン侯爵の決めることだと思うけど……?」
「これで、いいかしら?」
私は兄から届いた書状を皆に見せると、クーヘン以外の口元が動いた。
おもしろいと口角が上がる。
同じように見えて、その目を見ればわかる。そんな制約必要ないと笑うもの。自分の行動だけで、抱える助手たちをどんな目に合わすことになるのか考えているもの。何も考えず、ただ笑ったもの。
六者六様に私も微笑む。
普通にしていれば、そういうことは起こらない。
そして、ここにいるという時点で、私の領地改革に賛同した上で、私のやり方に口出ししないということに他ならないからだ。
思うところもあるだろうが、それでも、研究には莫大なお金もいるし、雇う人数にもそれ相応のお金を渡すことにんるのだ。貧乏なアンバー領から……
まだまだ、苦しいアンバー領民たちのことも考えておいて欲しかった。
彼らの協力無くしては、ここに研究者を集めることも出来ないし、研究も彼らが手伝ってくれないとできないこともあるのだ。そういうことを知っていると知らないでは、やはり、考え方や態度も変わるのだ。
「明日、出かけたい人っている?」
「私、行きたいです!もちろんタガヤも!」
「えぇーいかないよぉ!」
「ダメ、行くの!農耕の研究者にとって、土を知るところからでしょ?もう、そんな
体になったから、そんなことも忘れたの?
肌で感じることを研究に活かさないと!」
「それはそうだけどぉ……」
「つべこべ言わない!」
クレアの勢いに負けたタガヤは、決定のようだ。しょぼくれているけど、逆らわない方がいいよと心の中で呟いておく。
「もちろん、私は行きますよ!」
「アルカがいくなら、私もよね?」
アルカの隣に座るリアノは、すかさず腕を取る。服装だけ見ると仲のよさげなカップルに見えるけど、その腕は逞しく顔は静観な青年のリアノをみれば、うん……と頷きたくなる。
この二人のコンビも一緒に行ってくれると助かるので、ニコニコと返事の代わりに笑っておく。
明らかにアルカは嫌な顔をしていてもそれはそれ。
仕事とするなら一緒に動いてもらうことになるのだから、我慢も必要だ。
「お世話になっているのはサラさんって方ね。その村のことなら、だいたい知って
いると思うし、わからないことがあれば、誰に聞いたらわかるか教えてくれるわ!
失礼のないようにね!」
「あの……」
「クーヘン、何かしら?」
「私は、町に行ってみたいのですけど……どんな服が売られているのかとか、実際
見てみたいです。アンバー領のお店は、先程イチアさんから殆どをハニーアンバー
店の傘下だと聞いたのですけど……その……」
「えぇ、そうね。商売をするにあたって、経営は全て私の元でって感じ。お給金を
払う形で雇っているのよ」
「それで、服とかも……」
「そうね!クーヘンについては、服飾に携わることになるから、この領地でなく、
コーコナに行くことになると思うから……お店を見てくるといいわ。そっちは、
誰か手配しておくわね!」
「それなら、ワシもそっちに混ぜておくんな。使っている農機具も気になるが……
まずは、どんなものが売られているのか確認したい」
「わかった。じゃあ、クーヘンとスキナは、町へ市場調査へ行って来てちょうだい。
各々明日の予定が決まったわね。明日はお昼はお弁当を渡すからそれぞれ食べて
ちょうだい。
お兄様にどんなふうにアンバー領のことを聞いているか知らないけど……その目で
確かめてきて!」
夕飯も終わり、それぞれに用意された部屋へと帰っていく。
私は、そこから仕事が始まるのだが……セバスがいない今、あまりすすめられなかったりもするので、イチアと軽く打ち合わせをして、現状維持の指示だけだすことにした。
明日も受入れる四人について、事前情報をイチアとすり合わせて、明日も大変そうねと苦笑いするのであった。
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