第475話 10人の魔法使いⅢ

 周りを見渡す。どう見ても濃い人たちが集まっているなと、少しこめかみのあたりをグリグリとすると、同じようにイチアもしているのが目に見えた。

 今日はあと1人受入れることになっていたが、すでにお腹いっぱいである。



「イチア、大丈夫?頭痛薬、あるけど……飲む?」

「えぇ、あとでいただきます。それより……あと一人ですね」

「そうね……これほど、濃い人物が来るとはおもっていなかったから……なるべく」

「えっと、濃いって私のことですか?リアノは見た目からしてわかりますが、

 私は……」

「十分な素質はあると思うよ?」

「そんな、アンナリーゼ様。あんまりです!」



 そうは言っても……初めてくる領主の屋敷でいきなりお菓子を作ってくると、話の途中で出ていくあたり、ヨハンやリアノと同種にしか見えない。

 だいたい……教授と呼ばれる人は、こんな奇人変人ばかりなのだろうか?

 確かに1つのことを真剣に取り組んでいるので、多少視野が狭くなるのはわかるが……これは、酷くないだろうか?

 はぁ……とため息をつくと、こちらをクレアとリアノがじっと見つめてきた。



「そうだ!リアノ。オシャレさんだし、教えて欲しいの!」

「オシャレさんだなんて、アンナリーゼ様。嬉しいですわ!」



 段々素が出てきたのか、おねぇな言葉に私のほうがたじたじしてしまう。

 ギャップが……大き過ぎるリアノに、苦笑いをしてから質問をした。



「調香師の資格って持っているかしら?」」

「調香師ですか?持ってはいますけど、自分自身のためだけに作っているものです

 から……売れるものではありませんよ!」

「それでも、資格があるのよね?」



 私が食い下がると、リアノは引いていく。

 リアノに引かれると微妙に傷つくのだけど……と私は、口を尖らせるが、何か有効な話を持っているのだろうか?



「私ではなくて……3組目に来るロイドっていうのが、趣味ですけど売れるものを

 作ってますよ!腕は、確かです」

「ロイドね!わかった!聞いてみます」

「ただ、かなり変なヤツだから……作ってくれるかはわからないわよ?」

「そうなの?そうなの。でも、まぁ、領主命令とかだったら、してくれるんじゃ

 ない?花とか園芸系も好きだから、そういう香りが得意ね!」



 リアノからの情報を元にイチアに目配せすると、頷いている。

 これは、次なる事業の一部にと考えているのが、香水や芳香剤のことだ。それには、調香師がほしかったのだ。

 どうだろう……変なヤツとリアノに言われるような人物だ。

 私に協力してもらえるとは、思えなくて、肩を落とした。



「なんとか、交渉してみましょう。それより、最後の人がついたようですよ!」



 イチアに言われ、耳をすませると、馬の嘶きが聞こえてくる。

 しばらく待っていると、扉をノックする音。



「どうぞ!入って!」

「失礼します」



 部屋に入ってきたその人は、とても真面目そうな服装で、私はなんだかホッとした。



「カノタの隣に座ってくれる?」

「畏まりました」

「それで、お名前を聞いてもいいかしら?」

「はい、アルカと申します」

「アルカね!それで、アルカは何の分野の人?」

「早速なのですね……私は、水質について研究をしています」

「水質?」

「はい、そうです。水と一言に言っても真水や海水などあります。飲める水も

 あれば、飲まない方がいい水もある」

「そうなのね……私は、特に何も考えていなかったわ……」

「そうでしょう。貴族に出される水は、綺麗なものしか出されないですからね」

「そっか……」



 何ともいいように少し引っかかるものがあるのだが、私は何も言わず、頷くだけにした。



「あとは、そうですね、川の流れについて研究をしております」

「流れ?」

「えぇ、流れというを研究することによって、例えば災害を未然に防ぐことが出来

 たりですね、そこの強化をすることもできます」

「なるほどね……リアノとコンビで動いてもらうことになるかしら?」



 あまり印象のよくないアルカ。リアノとは違う感じの驚きを隠せない。

 リアノの方を見ると、ゲッというふうにこちらを見たが……仕方ないであろう。

 土木関係の補強強化について、一緒に動いてもらうのがよさそうだ。



「アンナリーゼ様、私はこんな堅物と一緒に回るなんてごめんよ!カノタが

 いるし……」

「そうは言っても、川の補強についてはリアノとカノタに任せることになるから……

 一緒に動いてもらうことになると思うけど……そこは三人で相談してちょうだい。

 そうだ、ヨハンの助手にも加わってもらうことになるかもしれない」

「あぁ、あの地底湖の?」

「そう、トイレ事情の改善について、話もでてるから……私達のトイレ事情も

 あとで話すわ!助手の人も呼んだ方がいいから、後日ね……といっても、社交に

 出かけるから……」

「それについては、私が話を進めておきます。その方がよさそうですしね?」



 イチアが私の方を見て、微笑んだ。

 なんとなく苦手意識があるのがわかったようで、頷いている。



「では、今日はこの屋敷に泊まってくれる。そのあと、それぞれの住む場所へと

 案内するわ」

「今すぐでは、ダメですか?」

「えぇ、ここで暮らす上での制約もちゃんと覚えておいてほしいから、その辺の話も

 したいの。皆が揃う5日後まで、ここにいてちょうだい。助手たちには、先に

 向かってもらうことにしますが……ごめんなさいね。

 少しだけ、ここにいて欲しいの」



 やっぱり、研究バカの集まりのようで、足止めするこに不満のようだ。

 でも、こちらとしても覚えておいてほしいことはあるので、歓迎会というなの釘をさすための時間を考えているのだ。



 曲者ばかりが、揃ったようだ……まぁ、なんとか、なるかな……と、私はため息をつくのであった。

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