第472話 先に向かっていますわ!

 もうすぐ、社交が盛んになる季節。

 出たく無くても、季節の1番初めに開かれる公の夜会には、ローズディア公国筆頭公爵となった私が出ないわけにはいかない。

 公の後ろ盾になっているので、私が行かないと公の立場もあるのだ。


 私は、何をしているか……というと、書類に判子を押す仕事ではなく、着せ替え人形よろしくである。

 ナタリーを始め、デリアとリアンによって着せ替えさせられているのだ。

 すでに5着目で……疲れた。社交場へ出るとなると毎回これなのだ。一番見栄えのいいドレスを選ぶのに、私に着せなくてもいいのではないかと、いつもの如く聞こえるか聞こえないかぐらいの声でごちると、ナタリーとデリアと目があった。



「アハハハ……あの……どれも素敵だね!」

「それは、アンナリーゼ様のためのドレスですからね。筆頭公爵として恥ずかしく

 ないもの、夜会で目立つもの、そして、何よりハニーアンバー店の売上貢献でき

 そうなものを着ていただかないといけないですから……わかっていますか?」

「……はい。そうですね」

「ほら、そんな疲れた顔をなさらずに、衣装合わせあと3着あるので、しっかり

 してください」

「……はい」

「ママ、しゅてき!」

「あら、アンジェラも可愛いお洋服着せてもらっているのね?」

「えぇ、アンナリーゼ様の服とお揃いですよ!今日のお召し物ですから!」

「子供服までナタリーは作れるの?」

「型さえ作れば出来ますよ!ハニーアンバー店でもなかなかの売上があるのです。

 ご存じですか?子ども用のドレスの売上がとても多いの」

「この前、売上の内訳見せてもらったときに驚いた!あれって何?宣伝してない

 よね?」

「してますよ?ニコライが訪問で出かけているときにこっそり女の子がいるような

 屋敷には持参しているんです。こういうのいかがです?って。最初は見向きもされ

 なかったようですけどね?サシャ様が、王太子の子に贈ったようですよ!」

「メアリーの子?」

「そうです、そうです。とても気に入ってくれたらしくって……棚のもの全部お買い

 上げらしいですね」



 私は、開いた口が閉じなかった。棚のもの全部って……結構な金額になる。貴族ように作られたものは、素材が高いものにしてあるのでお値段もする。

 私だったら、渋ってしまう額だ。



「殿下は、それでよくても、シルキー様は怒るでしょ?」

「それが……二人そろって店に来て、二人で選んでたんだそうです。どれもこれも

 いいとなったらしく、全部となったと聞いてますよ」



 兄もなかなかいい仕事をしてくれたもんだ。さらに殿下とシルキーには驚かされた。



「そこから、火がついたかのように売れるんですよ。殿下が事あるごとに宣伝して

 くれているようで……貴族がこぞってという感じらしいです」

「売上を見てたんだけど、肌着がやはりいいわね!赤ちゃんから5歳くらいまでの

 子が着るサイズがとても売れていると感じるのだけど……」

「肌触りがいいですからね。男性用のシャツも売れているそうです」

「そっか、アンジェラももう少し大きくなったら、公に買ってっておねだりしに

 行こうね!」

「アンナ様……公には近づけないでください!こんな可愛いお嬢様を」



 デリアもアンジェラを可愛がっていてくれる。公の噂も耳に入っているので、可愛いアンジェラに悪い虫でも着いたら!と私が怒られた。

 我が子ながら可愛いもんな……と見つめると、ニコッと笑うアンジェラ。



「さぁ、アンナリーゼ様、私はあと少ししたら領地を先に去らないといけません

 から、早く次のに着替えてください!」



 ナタリーに急かされ、あと3着を怒涛のように着替えることになった。

 もう、クタクタである。

 そんな状態で、私は先に公都へ帰る面々を見送ることになった。



「アンナ大丈夫?」

「えぇ、大丈夫ですよ……ジョージア様も気を付けてお帰りくださいね!

 ジョージもね?」

「ママは、一緒じゃない?」

「ママは、もう少しお仕事してから帰るわ!公都のお屋敷で、待っていてくれる?」



 今にも泣きそうだったジョージの頬にチュッとキスをすると、嬉しそうに口に手をやり照れている。

 それを見て、アンジェラも反対側の頬にチュッとしている。

 可愛い二人の子どもの姿が、愛おしくて仕方がなかった。



「はぁ……離れがたいわ……」

「俺と?」

「ジョージア様ではありません!」

「そう……それは残念。アンナ、ここ、ここ」



 ジョージアも自分の頬に人差し指でトントンしている。これは、俺にもということなんだろうか。

 仕方がないと、アンジェラを抱きかかえる。



「アンジー、パパもほっぺにちゅうしてほしいって!」



 そういうと、こちらをすごい気の毒そうに見てくるのだが……それは、ちょっとジョージアが可哀想だ。

 仕方がないので、先にジョージアの頬にキスをする。

 うちの娘は、パパは好みじゃないらしく、渋々と言う具合に反対側にキスをしていた。

 それでも満足そうにしているジョージアを見ると娘は偉大だと関心する。

 当の本人は、レオに抱きついているのだが……ジョージアには見えていないようだった。

 これ、大人になって、婚約とか話が出たら……どうなるのだろう?私のあずかり知らぬところで行われるであろうそういう話は『予知夢』でみれないだろうか?と薄笑みを浮かべる。


 今日公都へ帰るメンバーは、ジョージアとジョージ、ナタリーとセバス、護衛にノクトがついて行くことになっている。

 私もこちらで10日ほど執務をしてから、イチアに任せて公都に向かうことになっている。



「それでは、アンナリーゼ様。先に向かっていますわ!」

「えぇ、道中気を付けてね。ナタリー、セバス。ジョージア様とジョージを

 お願いね!」

「畏まりました」

「アンナリーゼ様も、執務は程ほどにしておいてくださいね!」

「わかったわ!じゃあ、いってらっしゃい!」



 それぞれの馬車に乗り込み、公都を目指す。

 今日は、のんびりした行程で帰るので、楽だろう。

 10日後、私たちがここを出るまで、私にはたくさんの楽しみがある。

 まずは、麦の種まきとさとうきびの種まきが始まる。今年は、芋も本格的に作り、豆も作ると言う話だ。

 豆については、ヨハンからの提案であったので、種まきに出かけるのが楽しみである。

 これは、ジョージアには内緒であったため、先に帰ってもらった。

 筆頭公爵、種まきするなんて、スキャンダルに笑い種としたい貴族なんて山のようにいる。

 笑ったら、いろいろと供給をとめてやるので、いいのだけど……ジョージアが知ったらとめられるのは確実なので、言わなかったのだ。



「アンナ様、そういえば、フレイゼンからの受入れも5日後ですから、それも忘れず

 に準備してくださいね?」

「わかってる。家具の搬入とかはリリーに任せて終わっているから、もう、来てもら

 ったらいいだけになっているよ!」



 私はイチアに笑いかけ、これからの10日間に思いを馳せる。

 あぁ楽しみ。そればかりが、私の心がしめているのであった。

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