第471話 疲れたね、ゆっくりお休み

 私が部屋に戻ると、ジョージアが我が物顔で私のベッドに潜り込んでいた。

 夜型だったジョージアも子どもたちとの時間を考え、朝方にシフトしていっているので、今も眠いのだろう。


 私は、ベッドに行くと来ていたドレスを脱いでいく。



「ジョージア様、後ろの紐とってください!」

「あぁ、はいはい」



 デリアに締め付けられていたドレスを脱ぐとホッとする。

 公爵仕様は、いつもより豪華な上に、今日は一段と豪華に見栄えよくされていたので少し疲れた。

 いつもは湯船に浸かってほっとするのだが、もう、今日は……そのままベッドに潜り込みたかった。

 すると、ジョージアが後ろから抱きしめてくる。



「くすぐったいですよ?」

「くすぐってるつもりはないけど……」



 首筋に唇をあて誘われるが、お疲れなのだ。そっと寝かせて欲しい。



「アンナ様!」



 そこにデリアが入ってきた。

 ドレスを脱ぎ捨てほぼ裸の私と私に抱きついているジョージアを見て、申し訳ございませんと慌てる。



「待って待って……デリア。私、もう寝るから……ドレスをお願いできる?」

「入浴はどうされますか?」

「明日入るわ……もう、今日はクタクタで眠りたいの」

「かしこまりました。ジョージア様も、アンナ様の眠りの妨げをなさらないように

 してくださいね。ごゆっくり、おやすみください」



 デリアは、着ていたドレスを持って部屋から出ていく。

 私は、未だ抱きしめられたままだが、ジョージアの腕をポンポンと軽く叩くと離してくれた。



「アンナでも、ミネルバの相手は疲れるのかい?」

「殆どが、セバスとイチアがしてくれてましたけど……初めて会うので、あまり油断

 は出来ない感じでした。なので、どっと疲れてしまいました」

「そうかい。じゃあ、今日はゆっくりおやすみ」

「そうします……それで……私の寝巻……どこですかね?」

「デリアが用意してくれてるんじゃ……?」

「ないですよ?」

「呼ぼうか?」

「いいです……このまま寝ますので、ジョージア様が温めてください……」



 ベッドにすごすごと入っていき横になった瞬間、すぐに夢の国へと誘われた。



 ◇◆◇



「ありがとうございます」

「あぁ、アンバーの宝飾だ。公爵家の一員としてのもだから、大事にしてくれ」

「はい、大事にします」



 あぁ、あのアンバーの腕輪だ。

 私は、この腕輪をもらう人物に入れられたお茶を飲むんだった。そして……それが、蟲毒入り。

 ソフィアが私に飲ませるために作った毒である。

 蟲毒は、今のところヨハンにも解毒方法がないと言われている。

 それは、毒の掛け合わせだけでなく、ツボの中に入れられた虫や動物、この毒を作ろうとした人物の妬みの強さにといった呪術的なものも作用していて、解毒がないのだそうだ。



 私が、公都にある別宅に乗り込んで探したときは、そこに蟲毒はなかった。

 ただでさえ、ダドリー男爵の断罪は10年以上早まったのだ。

 まだ、作られていなかったとしても不思議ではない。ただ、出来上がっている証拠もある。

 私は、何者かによって、蟲毒を飲まされることになり、死ぬ未来を見続けている。


 今日の夢の人物がそうなのだが……アンバーの腕輪は、アンバー公爵家の中でも、ジョージアと同じようなトロっとした蜂蜜色の瞳を持たない子どもにアンバー公爵家の一員であることを示すために渡されるものだった。


 今日も顔は見れない。

 渡している人物ももらった人物も誰だろうか……最近、『予知夢』を見る回数も減ったし、見るのも昔より不鮮明である。

 何か……あるのだろうか?



 遠くで、アンジェラの泣くような声が聞こえてきたように思う。

 私は、ぼんやりした『予知夢』から意識を離し、現実へと戻ってくる。

 目を開けると、ジョージアがしっかり抱きしめてくれていた。

 ただ、やっぱり、アンジェラが泣いている声が聞こえてくる。



「ジョージア様、ちょっと、離してください」



 よいしょっと腕の中から抜け出すと、ジョージアが着ていただろうガウンを羽織る。

 春とは言え、まだまだ夜は冷えるので、体をブルブルっとして、そっと部屋を出た。

 子ども部屋まで、ペタペタと歩く。

 夜遅いので、寝静まっているのか静かで、より一層アンジェラの声が聞こえるような気がするのだが……誰も起きてこないことに私は不思議になった。



「アンジェラ?」

「ママ!」



 涙で顔をぐちゃぐちゃにしたアンジェラを抱きしめると、胸に顔を埋め、さらに泣き始めた。



「よしよし、もう大丈夫だからね……アンジェラはいい子だね。怖い夢でもみたかな?」



 アンジェラのベッドに潜り込み抱きしめてやるといつの間にか、また眠りについたようだ。

 私もこのままアンジェラを抱きしめて眠る。

 子どもで体温も高いアンジェラを抱きしめると、私も瞼がとろんとふさがる。


 いつの間にか大きくなっていくアンジェラ。

 日に日に目にはかけていても、こうして抱くと顕著だ。



「可愛いアンジェラ……たくさんの幸せがアンジェラにもきますように……」



 寝ぼけながらアンジェラに呟くと、ギュっと抱きしめてくれたように感じる。

 そのまま、ゆっくり朝まで眠るのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る