第420話 僕らのトイレ事情Ⅲ

 さっそく屋敷に戻ったところで、話をしようとしたところでデリアに捕まった。



「アンナ様!」

「は……はい……」



 そろーっとそちらを向くとかなり御立腹のようで、視線が痛い。



「検診ならヨハン教授を呼べばいいと申したはずですけど?どこに行ってらっしゃっ

 たんですか?」

「……ヨハンの研究所」



 はぁ……と盛大なため息とともにあぁ、お説教されると怯える私。

 デリアの方は、毎度のことでもう諦めたといい、とにかく部屋に戻るように言われる。

 デリアも忙しいのだ……私の無断お出かけにいちいち物申したいのだが、その時間があまりないようだ。

 なんせ、もうすぐ生まれるのだから……



「あっ!デリア」

「なんですか?」

「ヨハンの話だとね、ちょっと早まるかもしれないって……そんなことあるのかしら

 ね?」

「早産ってことですか?」

「違うようだけど……予定日から前後10日はするかもしれないからとは言ってた。

 その頃には、ヨハンも助手もこちらに泊まりこむことになるから……」

「客間の用意ですね!畏まりまりました!旦那様にもその旨伝えないといけません

 ね。後でお手紙を書いておいてください。公都の屋敷に送るので!」

「わかったわ!よろしくね!」



 そういうと、デリアは忙しそうに去っていく。

 なんだか、勝手に出歩いている私が申し訳なく思ってしまう。

 でも、私にも執務の連絡という面もあったし、何より今日は収穫があったのだから許してほしい。


 その足で、セバスとイチアが普段使っている執務室へと入ると、ノクトもそこにいた。



「よぉ!アンナ、一体どうした?さっきデリアがものすごい形相で怒っていたぞ?」

「うん……今、会ったところ。怖かった……」

「そう思うなら、デリアに逆らわないことだな。ただでさえ、そんな体しているん

 だから、デリアも神経質になっているんだ。わかったら、あまり心配はかける

 な!」

「反省はしてるけど……性分だから、どうしようもないかな?」

「あと2ヶ月くらい我慢しろ!」

「……はい」



 珍しくノクトにまで叱られ、私はしゅんと肩を落とした。

 そんな私を不憫に思ったのか、セバスが話題を変えてくれる。



「アンナリーゼ様、どうかされたのですか?」

「あっ!そうそう……意見が聞きたいの!」

「なんでしょう?」



 そう言って、イチアが椅子を用意してくれ私はそこに座る。

 イチアの左耳には、アメジストで出来た薔薇がキラリと光った。



「さっきまで検診でヨハンの研究所に行ってたの!

 そこでね?すごい画期的なトイレ事情に遭遇して……領地全体に広げたいん

 だけど、どうすればいいのか、知恵を貸してほしいの!」



 私は、先程ヨハンの研究所に行ったときの話を三人に聞かせた。

 説明が下手なのか、理解に及ばない出来事なのかわからないけど、三人ともがわかっていなかった。



「えっと、アンナリーゼ様。それは、地底湖の水の中に汚物を分解する細菌がいる

 ってことであっていますか?」

「そう、そうなの!それを使って綺麗な水に変えて地底湖に戻し、更に地底湖からは

 山向こうの海に流れていっているんだって!

 その地底湖も汚れているとかじゃなくて、ものすごく綺麗なの!そこまで透き

 通っているのよ!」

「なんといいますか……アンナリーゼ様が言っていることがイマイチ理解できない

 です。一度現地に行くべきですね。それから考えてもいいかもしれません。

 ただ、それが可能なら……それは、いいことですね!浄化されたものであれば、

 川に流してもいいってことですものね」

「それより、アンナ。何故、そんな話になったんだ?」

「えっと……ヨハンのトイレに……」



 三人ともが頭を抱え、可哀想にとヨハンを憐れむ。



「近くまでついて行っただけだから!遠くで出てくるのを待っていただけよ?

 それに、私がついて行ったことも知らなかったから……そんなにヨハンを憐れむ

 ことないわよ!」

「そういうことではないんだがな……まぁ、済んだことは仕方ない」

「誰も好き好んでトイレなんてついて行かないわよ!大体、ヨハンが逃げなければ、

 こんなことにはならなかったのよ!

 おかげで、いい情報は得て帰ってきたからいいでしょ?

 みんなの実地見聞だけしてきて、良かったらすすめたいんだけど、いいかしら?

 ただ、培養ってできるのかは聞いたんだけど、専門外だからって断られたわ!

 それをいうなら、砂糖も農作物も本来は専門外なのにね?

 うまくあしらわれた感じかなぁ……そうそう、ヨハンがアンバーで新しい農作物

 をって考えているみたいなんだけど、何がいいか相談したいんだって。

 時間できたら、行ってきてくれる?」



 私はヨハンからの伝言をノクトに伝え、わかったと言ってくれる。ついでにさっきの提案の元となることも見に行ってくれることになった。

 後は任せておいてもこの三人なら、いい案を出してくれるだろうと考えた。



「あと、フレイゼンから人を受入れるんだけど、ヨハンのところに三人受入れてくれ

 ることになったの。その費用とかもあるのだけど……それは、裁可済み。

 あとは、人がくるだけね。

 コーコナにも、人を割り振るから……全員ではないのだけど、その中に培養を研究

 してくれる人もいるらしいわ!」

「それなら、先に繋がる事業になりそうですね。さっそく、明日にでも見に行き

 ましょう。早く形にしてしまう方がいいでしょう」

「ありがとう、セバス。

 そろそろ、石切の町のワンダさんから連絡がきてて、予定してた石切が終わりそう

 だっていう話よ!」

「それで、それが街道の石畳用に作っているのは知っているけど……どうするの

 です?作業員とか……何か考えているのでしたか?」

「うん、そのまま石切の町で働いている人が石畳の街道つくりも手伝ってくれること

 になっているの。

 だから、そろそろ、相談もしたいなって思っているのだけど、それにも付き添って

 欲しいんだけどね?時間あるかな?」

「わかりました、そちらは私が対応にでてもいいでしょうか?」

「イチアなら、大歓迎よ!よろしくお願いね!」



 私たちは、領地改革のためにまた少しづつ動き始めるのであった。

 久しぶりにワンダとピュール親子とカノタに会うのが楽しみである。

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