第403話 ハニーアンバー店開店準備Ⅳ

 私が初めてお店に足を踏み入れてから3週間。

 開店の日が日に日に近づいてきていた。

 ニコライの報告では……商品も十分に整ったという報告があがりあとは……お客を招き入れるだけとなったということだ。



「私、一度見に行くわ!あと……そうね、誰か開店までに連れていきたいのだけど……

 カレンに声をかけましょう!あとは……来てくれるかしら?忙しいかもしれないわね」



 そう呟きながらカレンに手紙をかいた。

 ローズディアでの友人は、意外と少ない。それも上位となると……殆どいないのだ。

 ダメ元でもう一人、私のよく知る人に手紙を書く。



「ジョージア様、お時間ありますか?」



 1通はデリアにお願いして送ってもらったのだが、もう1通は、適任者に持って行ってもらって返事をもらってきてもらおうと考えた。



「なんだい?アンナ」

「お願いがあるんですけど……聞いてくれるかしら?」



 可愛らしく上目遣いでお願いすれば、何でも聞いてくれるようだったので、その後ニッコリ笑って手紙を渡した。



「これ、渡してきていただけます?あと、お返事もいただいてきてくださいね!

 手土産は、これでいいでしょう!出来立てほやほやの蒸留酒です!」



 それを渡すと、なんだか拗ねたようなジョージアに、もう一押しする。



「ダメですか……?」



 じっと見つめると、苦笑いしながら、ダメじゃないよと頭を撫でてくれる。

 私、子どもじゃないんだけどな……最近、ジョージアは子どもたちの面倒に忙しいので、くせになっているのだろう。

 褒めるときもいいと了承のときも頭を撫でているそうだ。



「じゃあ、お願いしますね!私、お店に行ってきますから!」



 段々と大きく膨らんでいるお腹が重く、階段もままならなくなってきたのだが……デリアに付き添われ、手すりにしがみつく勢いで階段を降りる。

 貴族夫人の妊婦なんて……殆ど家から出ないのだ。

 自室のある廊下を多少ウロウロするくらいで、私のように精力的に動き回っているものは少ない、というか、いない。


 アンバーのお屋敷では、私の出産が二人目ということでこういう事態もなんのそのという感じなのだろう。

 みなが気遣いながら、いろいろと手伝ってくれている。



 馬車に乗り込み、お店に来た。

 もちろん、アンバーの紋章入りの馬車で、みなに見てもらうようにちゃんと考えている。



「おはよう!」



 お店に入ると、綺麗に並んだ商品と私がお願いしていた等身大の人形が出来上がってきていた。



 扉を入ってまず目につくのは、アンバーの紋章と戴冠式で着たドレス。

 目だっていてなかなかいいと私は頷く。



「アンナリーゼ様、ようこそお越しくださいました!」

「うん、店見に来たよ!」

「では、一応お店を回らせてもらってもいいですか?」

「お願いね!」



 私はニコライの案内でお店の中を歩く。

 指示をした通り今欲しいもの、もうすぐいるもの、次欲しいもの、後は手前から安いもの、奥へ行けば高いもの、小さなものは常に従業員が目を光らせられるようにできる位置と並び直されていた。



「公族御用達看板なのですが、2ついただいたので、奥への入口と店の入口にかけさせて

 いただきました!」

「うん、それでいいと思うわ!目につくところだから……もういっこぶら下げておくのに

 もらおうか?」



 ニコライにいうと、それは、もらいすぎなのでは?でも、いただけるなら、街ゆく人にも見えるようにゆらゆらとさせておきたい気持ちはわかってくれたようだ。

 よし、お願いしよう!公に会ったら、せびるつもりで頭の隅にそっと記憶しておく。



「奥もどうぞ!」

「まぁ、全然印象が変わったわね!白い布地に下からドレスが合わせやすそう!

 奥の更衣室も見せてくれる?」

「はい、その前に、品ぞろえも見てください!」

「わかったわ!」



 コーコナ領で作っている貴族のドレス。

 どれを見ても素晴らしい出来である。ただし、ここは貴族のドレスを売っているところだ。

 ドレスであれば1点ものばかりであるから、どれもこれも素晴らしい出来で私は嬉しい。

 その中でも、今、1番推したいドレスについては、等身大の人形に着せることにした。

 羽織ものは、どれもたいして変わらないけど……こんなふうに着せることで、自分が来たときのイメージにも繋がりやすく、目に訴えかけるには、いいのではなだろうか。



「あっ!これ、ティナの宝飾品ね!」

「わかりますか?」

「もちろん!いつも目にしているものだもの、わかるわ!ショーケースに並べると

 欲しくなるわね!」

「いいですよ!買っていただいても!」

「いつも、お世話になってるから……今日はやめておくわ」

「そうですか!またのご要望お待ちしております!」



 私が買う宝飾品は、9割方が友人であるティナの手によって出来ている。

 ニコライの奥さんにもなったティナの売り込みももちろん上手になったなと私は感心した。

 夜会に出かけると、たまに見かけるのだ。ティナが作った宝飾品を。

 少し変わった感性を持っているティナの作るものは格別に特別感があっていい。

 ただし、ティナが掲げた中で、薔薇に関してだけは、私以外には作らないという信念があるらしいことを最近ニコライから聞いた。

 今つけている赤薔薇は、ティナの母が作ったもの。私の友人を始め信用の置ける侍従たちに渡してある薔薇はティナが作ったもの。

 ティナにとっても、薔薇は特別だということだ。



「あとは、2階ね!連れて行ってくれるから?」



 ニコライの手を取り、2階へと誘われる。

 すると、香ばしくて甘い匂いが私の鼻をくすぐっていく。



「とっても甘い匂いがする……」



 その一言でニコライが苦笑いをしていた。

 今、ケーキの試作品と配る用のクッキーを作っているところだそうで、ちょうどいいときに行ったようだ。



「キティ!」

「はい!」



 ニコライに呼ばれ、厨房から出てくるキティ。

 甘い匂いと共に、出てきたので私のお腹が鳴る。



「アンナ様……」



 デリアに呆れた声で名前を呼ばれてしまったが……さっきから本当にいい匂いがしているのだから、仕方ない!



「アンナリーゼ様!ご無沙汰しています!」

「久しぶりね!元気だったかしら?キティ」

「はい、おかげさまで、私の大好きなお菓子を焼かせていただいて、とても嬉しくて……」



 ポロポロと涙を流すキティ。

 急なことで驚いた。



「キティ、これから、毎日飽きるほどお菓子を作ってもらうことになると思うわ!

 最初は、どうなるか、私たちも見当がつかないけど……きっと、成功させるから、

 一緒にがんばろうね!」



 私の言葉にキティは元気にはい!と答えてくれる。



「今日は試作品を食べさせていただけるかしら?」

「えぇ、構いませんよ!」



 そういって準備してくれる。

 私仕様だと、生クリームを多めに置いてくれ柔らかいシフォンケーキを口に入れる。

 ほんのり優しい甘さと生クリームがとても美味しい。



「とても、おいしいわ!」

「ありがとうございます!配る用のクッキーも作ったので、試食お願い出来ますか?

 アンナリーゼ様が統計を取ってくださっていたので、それを元に、プレーンと甘めの

 クッキーを今回は出させてもらおうと思っています!」



 出てきたクッキーもサクサクと美味しい。

 甘めと言えど、キティの作るお菓子は、甘いのに優しい味がするので、食べていてもホッとする。

 これは、いいわ!と思いながら、今日、手紙を書いた人にも食べてもらえるようにお願いすることにした。



「ニコライ、開店前に二人程お客様を連れてきたいのだけど、いいかしら?

 招待状は、既に送ったの!」

「畏まりました!お待ちしておりますね!」

「誰かは、聞かないのね?」

「気にはなりますが、アンナリーゼ様が選んだ最初のお客様です。

 変な人ではないことがわかりますから、大丈夫です。

 あの、それより……店、全体は、どうでしたか?」

「私は、申し分ないと思う。まぁ、言っても、私は身内だからね……

 今度連れてくる人にも聞いてみましょう!

 印象とか聞いて、直せるところがあれば、その都度直していきましょう!」



 私は、今日の見学がとても楽しい時間となった。

 さてさて、次なるは、招待した二人の反応がどうかということだ。

 私は、初めてのお店なので、内心不安ではあるが、うまくいくよう祈るばかりであった。

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