第401話 ハニーアンバー店開店準備Ⅱ

 ディルとの交渉により、お菓子職人一人と調理補佐を一人引き抜きさせてもらった。

 あとは、領地にいるキティをこちらに呼び寄せることを伝えるとすんなり了承される。

 もう少し難攻するのかと思いきや、意外と影の支配者は素直に人を出してくれたので少しだけ肩透かしをくらった……そんな気分だった。

 セバスがイチアへ出すという手紙と一緒にキティへも手紙を書く。

 ハニーアンバー店で大いに腕をふるって欲しいことや、砂糖や小麦をこっちに持ってきてほしいことを認めた。

 私はそれをディルに渡して、馬車に乗り込む。

 ハニーアンバー店を覗きに行くため、セバスとデリアを連れ、店へと向かう。



「ニコライ、お店の方はどうかしら?」



 店の前で、何やら考え事をしていたニコライに声をかける。



「アンナリーゼ様、よくお越しくださいました!見ての通りぼちぼちです」



 ニコライに案内され店の玄関から中を見回すと、空きが見えて、見映えが良くない。

 あと、なんというか……パッとしない。



「ニコライ、あのあたりは何か置く予定ってあるかしら?」

「いえ、何も……商品はかき集めているのですけど、それより店が大きくて……」



 困り果てているニコライ。

 何か案はないだろうか、と私も考える。



「デリア、屋敷に行って、ナタリーとノクトを呼んできてくれる?

 あと、戴冠式に着ていったドレスを持ってきてくれるかしら?

 ナタリーが作ってくれた、秋冬の服が有ればそれも持ってきてほしいわ!」



 私の指示の意味は、デリアは全てわかっていないだろう。

 それでも何かは気づいてくれたらしいので、デリアに任せておけばいい。

 かしこまりましたと店を出て行きかけたデリアを私は呼び止める。



「馬車、使ってちょうだい!荷物も人も運ぶから!」



 デリアは、ニコリと笑いかけ、その扉から出ていった。

 私は店内へと視線を戻し、腰に手を当てふんぞり返る。

 そんな私の姿を見て不安そうにしているニコライ。



「さてと、男手あるかしら?」

「はい、ありますけど……何かするんですか!」

「配置換え!」

「配置換えですか!えっ?せっかく並べた後で……」

「うん、でも、売れる並び方にした方がいいでしょう?今のままでは、売れる

 とは、繁盛するとは、とても思えない」



 少々ニコライには、厳しいことを言ったが、領地を背負っての店なのだ。

 失敗しましたでは許されない。

 だからこそ、私たちは、最善を尽くしてもさらに最善を探さなくてはならない。

 今の店の配置では、最善でもなければ、並以下だ。



 確かに……と項垂れるニコライには申し訳ないけど、私が口出しさせてもらうことにした。

 私の指示で並び替えていくようにいうと、みなが動き始める。

 手前から奥へ、商品が高いものになるのはいい、

 ただ、動線がぐちゃぐちゃになっているのは、いただけない。



「入り口から、真っすぐ奥までは、道を作って開けてちょうだい!」



 すると両脇にずらしてくれる。



「そうね!少し広めにとって!」



 私は、出来た通路の間を歩く。

 二人半くらいの人が歩けるようになっていた。



「私がいう列に、商品を並べてみて!」



 わかりましたと従業員たちはいい、私の周りをウロウロしている。



「この列、ここから秋物を並べて!その後ろに冬物。

 それから、この列はコートを並べる。あんまり詰め込まないでほしいわ!

 二列使ってもいいから、ゆったり商品は並べて!そう、それくらい!

 セバス、悪いんだけど、そこに立って!目印に。次、ニコライはここ!

 ここまでが庶民でも買えるものを並べて。小物や葡萄酒、あと蒸留酒も。

 机を並べてみて!反対側にお金を払えるようにしてちょうだい。

 あとは、試着室なんだけど……ここに2つ作れるかしらね?ノクトに相談ね!」



 言われた通りに並べていくと、貧相であった店が、少しだけまとまりが出た。



「ここに何か仕切りがほしいわね!

 これ以降は、貴族やちょっとお金持ちをターゲットにするから……見せ方を

 変えるわ!

 円形に仕切りを作ってほしいのよね。あぁ、そこは、外の光も入るように壁に

 くっつけないで!」

「何故です?壁ギリギリにまで……」

「2階に上がるための廊下が必要でしょ?円の外を歩かせるの。

 そうすることで、貴族の試着室を最奥に出来るでしょ?

 高価なものを持って帰る貴族はいないと思うけど……万が一よ!

 出入口も正面のひとつだけにするわ!さっきと要領は一緒!

 手前に貴重な宝石類や小物を奥に秋物、最に冬物やドレスなんかを置いて

 ちょうだい!」



 私の指示に従い、ブンブンと飛び交う働き蜂のように従業員たちは動き回っている。

 庶民の方が終わったのか、セバスとニコライがこちらに来た。



「アンナリーゼ様、宝石や小物が手前になっていますけど……」

「ここに案内する従業員を置くからよ!宝石類は目を付けておいてもいいでしょ?

 まさか、従業員の前で手癖の悪いことはしないと思いたいわ!

 ここに立つのは常に二人以上。一人になった時点で、誰かを呼ぶようにして。

 初日は、三商人を呼びましょう。ここでの見張り番に。

 ニコライは、お客様の相手を存分にしてちょうだい。

 酒類は、お勘定の後ろに置いて!」



 私はニコライに指示を出すとメモを取っていた。貴族はあまり足を運ぶということはないだろう。

 私の見立てでは、大方が貴族まではいかない富豪が来ることを想定している。

 ただし、貴族も足を運ぶと触れ回りたいところなので、仕掛けをすることにした。



「アンナ、呼んだか?」

「よく来てくれたわ!ノクト、ナタリー、パルマにライズ」

「この前見たときより、雰囲気が良くなったな?」

「そう?良かった!早速なんだけど……手伝って欲しいの!」

「何をすればいい?」

「商品を並べ終わった男性陣はこちらに!今から次を説明するわ!」



 人が集まるまでに私はニコライに紙とペンを借りて、大まかなこの店舗を描いていく。

 さっき指示したとおりの絵ができたころにみなが集まったようだ。



「みんな集まったわね!じゃあ、説明していくわ!

 ノクト、ここを丸くしてほしいの!どうすればいいかしら?」

「なるほどね。すると……木材で作れば手早く出来る。ただ、見栄えがな……」

「それなら、確か……ちょうどいいものがあった気がしますわ!タペストリーを

 作っていたのでそれを外側に配置しましょう。

 内側は、どうですかね……ドレスを置くとなると……

 白を基調にした方がいいと思いますから、コーコナから取り寄せましょうか!」



 私の描いた拙い絵にどんどん描きいれられていく。どれくらいいるのかとかは、実物を見ながら考えることになったのだが、なかなかみなの手際がいい。

 私が店を見に行くといった時点で、準備していてくれたのか、材料を取りに行ってくるやら、連絡しますからと、ノクトとナタリーは動き始めた。



「パルマとライズは、ノクトを手伝いに……って、ライズはどこ行ったの?」

「さっきまでいたのに……」

「まぁ、いいわ!ノクトのところに行ってきてくれるかしら?パルマと何人かは

 一緒に行ってくれる?」



 かしこまりましたとパルマがノクトを追っかけるように、従業員がパルマを追っかけて出て行った。



「ノクトにもう一つお願いがあったのに……もう、行ったかしら?」



 ひとり言のように呟くと、セバスが追いかけてくれると行って出て行った。

 すぐにノクトが帰ってきてくれたので、お願いをする。



「等身大の人形って作れない?」

「等身大のか?そりゃ、俺には無理だ。領地の爺さんたちなら出来るかもしれん

 がな!」

「そっか……」

「何体か欲しいのか?えぇ、欲しいの。私が戴冠式で着たドレスをここに飾ろうと

 思って!

 あとは、服を見せるのに隅とかお店のガラスの前とかに置こうかなって……

 でも、出来ないか……うーん、どうしようかな?」

「連れてきてもらえばいいんじゃないか?それか、作ってもらったのを持って

 くるとか」

「なるほど……運べばいいのか……ウィルに早馬で行ってもらおうかしら?」



 私がうーんと唸っているとセバスが行くと言い始めた。

 あ……いや、セバス、大丈夫なの?と思わなくはない。

 でも、イチアと話をしたいことが出来たので、ちょうどいいらしい。



「わかった、セバスにお願いするわ!ただし、ウィルも付けるわよ!」

「僕って……信用ないんだね」

「まぁ、軍会議を馬で突入した話を聞くとね……」

「……わかりました。早速ウィルと出発するから、もういくね!」



 ちょっと怒りぎみのセバスの背に私は気を付けてと見送るのであった。


 大丈夫かな……心配すぎるのである。

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