第392話 領主と領地名

「それじゃあ、行ってきます!」



 ジョージアに抱かれるジョージとウィルに抱かれるアンジェラに手を振ると、アンジェラは、いってらっしゃいいうかのように手を振ってくれ、ジョージは両腕を伸ばし暴れながら泣き始めた。



「あぁ……やっぱり、こうなるよね……」

「大丈夫です?」

「大丈夫、だから、ほら、早く行っておいで!気を付けて!」

「わかりました!二人とも大人しくしているのよ?」



 馬車に乗り込もうしたところで、ジョージの泣き声が聞こえなくなった。

 どうしたのだろうか?と振り返ると、アンジェラがジョージの頭を撫でていた。

 私やレオとミアがしてくれたようにジョージにもしてあげているのだろう。

 小さな子の成長を見て、なんだかほっこりする。

 あの子たちが平和に暮らせる時間を早く大人にならなくていいようにすることが私の願いであり仕事なのだ。

 ぐっと掌を握り乗り込めば、馬車は動き出した。




 ◇◆◇◆◇




 馬車の中では、滞在期間が決まっているため話し合いが始まる。

 幸いなことに、今回はアンバー公爵家の家紋入りの馬車で領地に入ことにしていた。

 なので、馬車も大きく、打ち合わせをしたとしても揺れもないため快適にすすめることができる。



「何かわかりやすく、領主と領地名を発表した方がいいですよね?」

「そうね、それには、広場で領民を集めることが1番楽なんだけど……

 どうかしら?」

「危ないような気はするが、いつまでも逃げ隠れしているわけにも行かないんだ。

 大きな町で台座組んでやろうか」



 警備を考えれば、少なすぎる人数でことを成すのは危なかったりする。

 では、どうすることがてっとり早いか……領地を守る警備隊を掌握は、まず、必須だろう。



「ノクト、まず、警備隊を掌握するわ!」

「おうよ!」

「手紙を持って行って従うように手を打ってきて。

 従わないなら、クビだって言っといてくれて構わないわ!

 アンバーからこちらに人を移動させる予定しているんだけど、そのときに警備隊も

 移動させるつもりだから!デリア!」



 はい、ここにと紙とペンが出てきた。

 さらさらっと書いてノクトにディルにもらったアンバーの証のナイフと共に渡す。

 それを受け取ると、先に行ってくるとレナンテを走らせ警備隊のところへ行ってしまう。



「レナンテが、すごくご機嫌なんだけど……私のこと覚えているわよね?」

「大丈夫ですよ!レナンテは、頭のいい馬ですから、アンナリーゼ様をおってり

 ます」

「ディルに言われるとそんな気がするけど……見て、あのしっぽ!」



 喜びいっぱいであるのがわかる。



「まぁ、いい人が出来たなら……それはそれでいいんだけどね?ちょっと、寂しい

 わね」



 ごちると、デリアとディルは笑う。

 ライズは、我関せずというふうだ。

 こういうところを直せば……もう少しマシな人間になったんじゃないだろうか?

 私より年長者に向かって失礼なことを考える。



「セバス、やっぱり、私が出た方がいいよね?」

「代理に僕でもいいと思うけど……身分は公国の文官で一応は男爵位だから。

 むしろ、表にでなくても、その辺をウロウロしてそうだけどね……その方が

 いいんじゃない?

 どんなふうに思われているか聞きたいんでしょ?」

「そうなのよね……近所の奥様ふうで出てもいいかな?」

「デリアとココナがついているなら、かまいませんよ!私はセバスチャン様と台の

 上でしょうから……危ないことだけなさらないのであれば、問題ありません!」



 先に釘をさされてしまえば、いくら私でも大人しくしている。

 それに、帰ったら主役の二人がいるのだから、無茶はしないと決めてきた。



「わかったわ!大人しく領民に紛れておくことにします」

「目は仕方ないですけど……髪は隠した方がいいと思いますから、何かベールを

 被りましょう」

「デリアに提案されるなら、全部受入れるわ!やっぱり、この髪は目立つ

 かしら?」

「まぁ、あんまりない色ですからね……」



 コーコナ領を回ってわかったこととして、私の髪の色が珍しいということがわかった。

 アンバーや公都では気に留めてもいなかったのだが、領主交代にはそれなりの曰くもあるため、私のことを考えてくれてのことだ。

 黙って従うにこしたことはない。



「それじゃ、まず、町の有力者を領地の屋敷に呼びましょう。様子見は必要です

 からね!」

「わかったわ!デリア……うーん、ここはディルの方がいいわね!

 ライズもついて行って!」

「ライズをですか?」

「ダメかしら?黙ってついて行って、ディルの仕事を見るのも勉強のうちよ?

 知らないなら、知ることから始めてって……もう、だいぶ前から始めてるん

 でした」

「いえ、ついて行っていいですか?」

「えっ?」



 ライズから、逆について行きたいと申出だった。

 あまりのことに驚く。

 それは、私だけではなかったようで、みながライズを見ていた。



「ダメですか?なら……」

「ダメとは言ってないわ!本当に行くの?ライズの意思で?」

「えぇ、そのつもりです。

 アンナリーゼ様に捨てられないよう、何かしら役に立たないと……

 ナタリーに……」



 急にもじもじとし始める。

 何事だろうか……?ナタリーはたしかに、強烈に平手打ちはするは膝蹴りされるは、ライズにとって散々だったはずだ。

 そのナタリーを気にしているようなそぶりを見せている。

 まぁ、ナタリーは、あなた程度の男が落とせるほど、甘くはないわよ!と心の中で呟いておく。

 そういうことなんだろう、きっと。

 まぁ、今のライズなら生まれ変わるくらいの努力は必要なくらい、ナタリーに心底嫌われているのだから、頑張ってどうにかなるとか思えない。



「じゃあ、ディルのいうことをよく聞いてちょうだい。

 あなたの行動次第で、次のこちら側の動きが変わる場合もあるの。

 いい方になればいいけど、ライズのこれまでを考えると、悪い方にしか思えない」

「はい、わかっています。それを挽回するためには、何かした方が……」

「今のところは、何もせず、ディルについてまわるだけにして!

 私とアンバー領が、今後コーコナ領と仲良くできるようにしないといけないの

 だから」



 はいと項垂れているが、今の評価はまさに地の底なのだから、仕方がない。

 1日2日でそれがひっくり返ることはないのだから……

 これから、改善していってくれるのであれば、大歓迎だ。



 そうこうしているうちにコーコナ領へとついた。

 今日は、私が有力者へ今から手紙を書き、ディルへ持って行ってもらうだけで終わりそうだった。

 私はちゅんちゅうんからのメモを元に、宛先を書き入れていく。

 明後日の昼食に招待したのである。



「ディル、これを持って行ってくれるかしら?家はわかるかしら?」

「はい、大丈夫です。ところで、本当に連れて行ってもよろしいのですか?」

「えぇ、本人がやる気になっているのですもの。そういうときは、見守ってあげ

 ましょう」



 ディルは、わかりましたと返事をくれ、手紙を持って部屋を出ていく。

 まだ、夕方に差し掛かるくらいだったので、今から向かってくれるのだろう。

 急に呼び出しは、貴族の特権だけど、さすがに向こうに予定があるはずだ。

 なので、日にちを空けたのだけど……返事待ちねと、他にすることはあるので、イチアからの手紙を読むことにした。



「アンナリーゼ様、いいかな?」

「えぇ、いいわよ!」



 セバスが執務室に入ってきた。

 何やら書類を抱えているので、私は身構えてしまう。



「何かしら?」

「交付する用の書類だよ。5枚程サインと印が欲しいんだけど……」



 私の前に置くと、内容を確認してと促してくる。

 書かれているのは、領主と領地名の変更のことだ。

 公からもらった書類を元に作られているようで、きちんと体裁も整っておりいうこと無しだ。

 さすが、セバスである。

 私は、一枚一枚確認後、サインと印を押していく。



「ありがとう。これを明日か明後日中には領地の掲示板に貼るよ!」

「あっ!待って。明後日の昼以降にお願いできる?」

「有力者への根回しでしたか?」

「そう!それからでも遅くないでしょ?」

「えぇ、もう、すでに交付されているものですから大丈夫です」



 そういって、セバスは書類を丸めていく。



「そうそう、明日は何もないですかね?」

「何もないよ?」

「じゃあ、明日は、領地を回ってきます!」

「一人で?」

「いえ、ニコライと先程あったので、お願いしました」

「そう、なら……大丈夫ね!」



 私は、ニコリと笑い、気を付けて行ってきてとセバスにいうとわかりましたと微笑んでくれる。

 私にとって、友人たちは誰一人かけても領地改革は達成できないと思っている。

 だからこそ、大事にしたい。



「セバス」

「なんでしょう?」

「長生きしてね!」

「アンナリーゼ様もですよ!」



 変なことを言うと笑って、お休みと挨拶を残してセバスは執務室を出て行った。



「うん……できるだけ、頑張るよ……」



 虚しく執務室に響く私の声。

 私の時間は、あとどれくらい残っているのだろう。

 わからないけど、不安な胸の内が言葉となって出て行ったことに驚いたのであった。

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