第390話 膝の上争奪戦

 戴冠式も終わり、後はコーコナ領で、領主及び領地名の変更があったと知らせを交付する必要があった。

 何はともあれ、それをしないと、援助やら今後の領地運営なんかも先を見通すためには必要なのだ。



「みんな揃っているから、先に話すわ!

 コーコナ領、元のダドリー男爵の領地ね。

 ここは、晴れて私の管轄になったわ!あとは、それを交付するだけってこと

 なんだけど、それをした上で、今後の領地運営について、どうするかを今、考えて

 いることを踏まえ、話したいと思うの」

「この前、手紙で送ってもらった話だと、アンナリーゼ様、領地で、絹ができる

 って話とアンバー領で出回っている布より、ずっといい素材のものが手に入る

 っていう話だったよね?」

「えぇ、そうなの。コーコナ領の殆どに、綿花畑が一面に広がっていてね!

 上質な布ができるわ!工場もあって、職人もいて、在庫もあるのよ……

 それもコーコナ領だけで消費をしていたようで、まだ、他領に出回ったことが

 ないのよ!

 今日、着ている私とジョージア様、ナタリーのドレスがまさにコーコナ領で

 作られた布で作られたものよ!ナタリー悪いんだけど……お触り……」

「いいですわ。裾のあたりでよければ、触ってみてください」



 ナタリーのドレスの裾をウィルとセバスが触る。

 しかし、よくわからないようで、首を傾げていた。



「パルマは、今日のは……」

「アンバー領で作ってもらったものです。最上級のだって聞いてますけど……」

「ちょっと、こっちに来て!」



 パルマのジャケットを触ると私のドレスとの質感が違う。

 ジャケットに使われているこれは、元々アンバー領で使われていた最上級のものである。

 ザラっとしているようで、滑らかさが少ない。

 人によっては、チクチクすると表現するものもいるだろう。



「パルマ、悪いけど……」

「ナタリー様と一緒ですね!皆さん、僕のジャケットです」



 そういって、脱いでナタリーに渡すと両脇にいるウィルとセバスが触っている。



「全然、手触りが違いますね?なんだろう?織り方の違いなんですかね?」

「違うわよ!セバス、これは、元々の綿花の質だと私は思っているわ!

 ドレスを作っていて、布はずっと触っていたのだけど、あの工場で作られる布

 だからこその、この手触り。

 他の領地の服も触ったけど、これほどの物はなかったわ!

 ちなみにアンナリーゼ様のドレスはもっと手触りがいいわよ!

 私は、ひとつ、布のランクを下げているから……」

「あの……いいでしょうか?」



 セバスが申し訳なさそうにしているが、私はどうぞとドレスの裾を渡す。

 ジョージアがおもしろくなさそうにしているが、お構いなしだ。



「ナタリー、ごめんこっちに……」



 セバスに呼ばれ、ナタリーもこっちに来て、セバスが違いを確認している。



「あっ!本当だ!こうして比べてみないとわかりませんが、ナタリーの方が少し

 だけ荒いのか、ざらつきますね。

 アンナリーゼ様のものは、全くそういうのがないです!」



 確認し終え、元居た位置に戻ると、なるほどなるほどと呟いている。



「布だけでも、おもしろい発見ですね!」

「そうね!それでね、提案なんだけど……ナタリーが連れてきた女性たちの一部を

 コーコナへ移動させることは出来ないかしら?」

「と、言いますと?」

「本格的に布に関しての拠点として、コーコナに纏めたいと思っているの。

 もちろん、あちらを離れられない人もいることはわかっているから、全てを

 コーコナにと考えているわけではないんだけど……

 綿花・養蚕が揃っているところに、布にするための工場がある。

 後は、染めと加工を担える人がいれば……」

「一大産業となるか……」

「貴族たちのドレスを受注してもいいし、豪商や富豪たちの服を作ってもいい。

 タペストリーや飾りなんかをしてもいいわね!

 集約することで、アンバー領へ運ぶ手間がなくなるのよね……その分、ハニー

 アンバーへ直接卸せるから安く手に入れられる。

 もちろん、働いてくれる人の利益は最大限に、それ以上の研究費とかいろいろも

 見るつもりよ!」



 私が胸を張りしたいことを言っていくと、膝の上争奪戦にちょうど終止符が打たれたところであった。

 御想像通り、アンジェラが勝者だ。

 ジョージは、膝の上にいるアンジェラを羨ましそうに見ていた。


 私はアンジェラを抱き横向きに座らせる。

 不思議そうに上を見てきたが、それに微笑みかけた。

 次に、ジョージを抱き上げアンジェラと背中合わせに座らせる。

 二人とも落ちないように抱きかかえると、満足そうに二人とも目を細めこちらに笑いかけてくる。


 よく母がしてくれた。どんくさい兄と私が母の膝を取り合いすると私が勝つ。

 ジョージと同じように見ていた兄を思い出す。

 すると、こういうふうに母は抱いてくれたのだ。

 二人も乗せると重かっただろうけど、兄が母に甘えなくなるまで母の膝の上は半分こだった。

 まだ、二人とも1歳なのだ。

 重たくなったとはいえ、まだまだ二人いっぺんでも……大丈夫。




「コーコナ領のことは、一度領地へ向かって見てみたいです!

 それから、アンナリーゼ様の考えられたように進めて行く……それでも大丈夫

 ですか?イチアとニコライにも相談したいので」

「えぇ、構わないわ!そのときは、ノクトも話に入れていて!」

「わかったよ!じゃあ、コーコナ領へは1週間後とかには向かえるかな?」

「そうね、そうしましょう!

 お供は……セバス、ナタリー、ノクト、ニコライは向こうね、パルマとライズが

 いいかしら?」



 人選をして、本当にこれでいいのか考えていると、ジョージアに声をかけられた。



「アンナ、こっちの準備にナタリーがいてくれると助かるけど……」

「何かするのか?姫さん」

「ディルとデリアの結婚式をしようと思っているの!この屋敷で」

「へぇー侍従の結婚式って普通しないよな?」

「そうね、私にとって、二人が特別だってことよ!」

「それで?」

「簡単なものだけど……ドレスだけは用意してあげたくて……」

「もう、出来上がっていますわ!」



 ナタリーの頼もしい回答に私は頷くと、私は今回居残り組ですわねと呟いている。



「じゃあ、セバス、ノクト、デリア、ディル、ライズを連れていくわ!」

「ライズを連れて行っても大丈夫か?」

「こっちに残る方が、足手まといでしょ?ディルもいるし私と共いらっしゃい!」

「……はい」



 渋々というふうに返事をするライズ。

 さっきよりかは、マシになったのだろうか?と思うことにした。



「今度は、交付とセバスの領地視察だから、そうね移動含めて5日くらいかしら?」

「妥当だな」

「じゃあ、そういうことで、準備進めてくれるかしら?

 できるだけ、ディルやデリアには内緒にね?まぁ、ディルに内緒にできるとは

 思ってもいないけど……見て見ないふりくらいはしてくれるでしょ!」



 こうして、コーコナ領へ行くもの、公都の屋敷で結婚式の準備をするもと別れて作業に入ることになった。

 コーコナ領へ行く前に、私は1週間の休養をとることをすすめられ、大人しく1週間二人の子どものお守をすることになった。

 やたら結婚式の準備に張り切っているジョージア。

 ナタリーに叱られなければいいけど……と苦笑いするのであった。

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