第352話 お家断裂?

 最近の私の日課といえば、城に通って貴族や文官、近衛の中で、ダドリー男爵と関係が密になっていたものの処罰について、公世子の判決に異議申し立てをしてきているものの撃退する作業をずっとしている。

 これくらい、公世子で捌いてもらいたいのだが、なんだかうまくいっていないようで、手伝うようにと公世子直々に連絡がきた。

 手伝ってもいいですよなんていうものではないなとこのとき初めて思ったのである。

 行きたくはなかったが、裁可を手伝ったら浮いたお金を対価として給金をくれるというので渋々ノクトと一緒に通い始めた。

 おかげで、領地に帰る用意もできず、2週間も公都に止まっている。

 みんな何しているかな?と思わない日はない。



 いつものように公世子の執務室へさも当たり前のように入っていく。



「アンナリーゼが何故いるのだ?」



 今、一番会いたくない人物は、今まで公世子をねちねちといじめていたのだろう。

 件の公爵が、執務室に入っていくと私を睨んできた。



 睨まれても……こちらとしては、困る。

 ノクトに目くばせして、私が見えないよう間に入ってもらう。



 ダドリー男爵家一族の断罪で、数日は公都も静かになった。

 公世子と公爵である私によるダドリー男爵家断罪は、波紋が広がるように静かに傍聴席から見ていた人々によって国中に広がっていったのだった。


 数日の間に体勢を立て直したのか1番始めに異議申し立てをしてきたのは、男爵と一緒に国を乗っ取ろうとしていたこの公爵で、第三妃擁立を目指していた公爵家であった。

 男爵家の処刑により一旦は下火になったかと思われたものの、公爵家周辺では証拠隠滅でもしたからなのだろうか?

 公世子なら言いくるめられると思われているのか、また、絶え間なく異議申し立てが増えてきたのだ。


 なので、私が、城に毎日通わざるえないのだが……正直な話、私は、この公爵家も見せしめにお家断裂でいいのではないだろうか。

 公世子暗殺計画は、それに相当してもおかしくないはずだ。


 お家断裂など受け入れ難いと言えばそうなので、家を地位を権力を守るためならみなが必死である。

 わからなくもないが、私は処罰後の浮いたお金をもらうことになっているので、こちらとしても必死であった。


 今は、なんとも言えない気持ち悪い公爵の言い分を聞いている。

 それって……本当のことの10分の1も合っていないことをさも本当のことのように並び立てている。

 公爵家が隠滅したであろう証拠を並び立てたら……黙るだろうか?



 私は、目の前にいる公爵より爵位は上位であるにもかかわらず、私に対して敬語は使えない、傲慢な感じが鼻につく。



「私は、ローズディア公国公爵としてここにいます。何か不服でもありますか?

 それと、同じ公爵でも私のほうが上位になるので、敬語とその傲慢な感じは

 やめていただけます?」



 公爵は柔和そうな見た目ではあるが、公世子暗殺を狙っていただけあって、油断ならない。

 私へ向ける顔は笑みがあるが、目は笑っていない。

 娘と変わらない年の私に媚び諂うなど、思っても見なかったようだ。



「アンナリーゼは、隣国から嫁がれたたかだか公爵夫人でしょうに、そちらこそ

 身分を弁えたほうが宜しいのではないでしょうか?」

「あら?ローズディアの公爵とあろうものが、自国の爵位の順位が変わったことも

 ご存知ないのです?今、あなたの順位は確か……」



 考えるそぶりをすると、隣に座る公世子から指で4位と示された。

 へぇー4位なんだ。

 私に大きな口を叩ける立場ではないことをわからせたくなった。

 公世子の執務机に軽く腰掛け、妖艶に見えるように公爵に微笑む。

 もちろん、公世子の顔は私を見て何かやらかすなと引きつっている。



「ふーん、あなたの順位は4位ね!

 1位の私に媚び諂えとまでは言いませんけど、その辺は弁えられての公爵ですわ!

 ちなみに2位は私の夫であるジョージア様ですけど、ジョージア様に女性を

 宛がって取り入ろうとしても無駄ですよ?

 そんなことしたら、この先、何人死人が出ることでしょう?」



 楽しそうにコロコロ笑ながら、手に持っていたセンスを玩ぶ。



「この雌狐め!この国を乗っ取るつもりか!」

「失礼ね!それをしたかったのは、公爵でしょ?誰が国などいりますか?

 国など、私は興味もありませんわ!そうでしょ?公世子様」

「あ……あぁ、アンナリーゼは、アンバーの地を改革するのが楽しくて仕方が

 ないわけだが、そなた、あまりアンナリーゼに逆らわぬ方がいいだろう。

 領地がトワイス国との国境なのだから……」



 とても申し訳なさそうに公爵に言っているが、それって私が脅してるみたいじゃない!

 公世子を睨んでおく。



「国境だからとなんですか!その雌狐が、どんな悪党であるか……国中に知ら

 しめるべきだ!」

「それがしたいのであれば、この国が滅んでからすればいい!

 俺は、この国が国として成り立っていて、国民が幸せに暮らせればいいと

 思っている。そなたは、私利私欲のために国をも刃にかけ滅ぼすつもりかか?」

「そればどういうことですか?」



 公爵は、公世子の方へ視線を向け説明しろと顎で合図する。

 公世子様って意外とヘタレなのね。私なら、ほっぺのひとつでもひっぱたいてしまっているわ……なんて思いながらやり取りを静観する。



「残念ながら、アンナリーゼに勝てるものなど、この国には一人としていない。

 ロサオリエンティスの女王が唯一認めた人間にそなたは勝てると思っている

 のか?トワイス国にあるアンナリーゼの生家も母方の祖父も、アンナリーゼの

 考えひとつでこの国全てが灰にきす場合もあるわけだ。

 おまけに、この国の南の領地は、アンナリーゼやその父、友人たちが回している

 金で潤っているわけだが……噂を知らぬ者もいないだろう。

 後ろ盾は、トワイス国王太子と我が妹シルキー、先日、最年少で宰相補佐と

 なったサンストーン家の令息。

 錚々たるものが、アンナリーゼを中心に動いているわけだ。

 本人は、ほんの遊びの延長で莫大な金をつぎ込んでアンバー領地を生まれ変わら

 せている。さて、公爵よ」

「そ……そんなまやかし事に公世子様までも騙されているのか!」



 ふっと哀れみを込めて笑う公世子。

 公爵に言いくるめられるのかと見ていたが、私を後ろ盾にしてやりくるめるようだ。

 なんだか釈然としないが……そのために私が通っているのも事実なので、興味なさげに続きを聞くことにした。



「騙されているならまだしも……本当のことだからな……美人に騙されるなら

 いいと思うが、こんなじゃじゃ馬に騙されたら後が怖いわ!」

「公世子様、それ、どういう意味か後でじっくり聞かせてくださいね!」



 ニッコリ公世子の方を向き直り笑いかける。

 そして、私はパンパンと手を鳴らすと一人の冴えなさそうな城の文官が入ってきた。



「誰だ?呼んでないぞ?」

「私が今、呼んだじゃないですか!」



 そんな私をわけのわからぬことをと公世子も公爵も見返してくるが、今、手を打ち鳴らしたと説明をした。

 セバスにお願いして城での協力者の文官が欲しいと言ったら、彼を紹介してくれたのだ。



「お呼びでしょうか、アンナリーゼ様」

「えぇ、呼んだわ!先ほど渡したものを出してくれる?早速使わないといけなくなったの!」



 そういうと一旦部屋を出ていった。



「アンナリーゼ、何者だ?」

「文官のトッポですよ!セバスの下に配属された子らしいです!」

「あんな根暗なヤツが……よく、試験通ったな!」

「公世子様は、いちいち失礼な物言いですね!ちょっとその口噤んでらっ

 しゃい!」



 かけている執務机をバンと叩くと、公世子は大人しく座っている。



「公世子様、私に裁可を任せていただけますか?」

「な……なりませんぞ!公世子様!」

「どんな裁可をするつもりだ?」



 公爵の言い分を綺麗に無視をし、私に問いかけてくる。

 妖しく笑えば、出てくる裁可なんて決まっている。



「お家断裂。公爵および今回の公世子様暗殺計画に加担していたであろう嫡男は

 服毒により処刑。

 公爵家を解体し、夫人及び子どもに関しては、爵位の恩恵を全て剥奪のうえ、

 実家に帰ることも許可はしません。平民として今後生活をしていく裁可です」

「そんなことできるわけが……ないだろう!!」



 公世子の方を向いて話していたため、私は隙だらけである。

 何を血迷ったか、私に飛びつこうとしたのだが、見事にノクトの拳が顔面に入って吹っ飛ばされる。

 その先には綺麗に並んだ書棚があったのだが、ぶつかったことによって半分くらいが公爵の上に降ってきた。



「ノクト、手加減は大事よ?」

「アンナが手加減なんてしているところなんて見たことがないぞ?いつでも全力

 だろ?」



 ニカッと笑われてしまえば、反論の余地もなさそうだ。

 可哀想にノクトの全力で殴られれば、脳震盪くらいで済むはずがない。



「それにしたって、やりすぎは良くないわよ!

 見せしめにしないといけないのだから、生きていてもらわないと困るわ!」

「あぁ、そういうことなら……大丈夫だろう?」



 ノクトがのっしのっしと公爵の方へ歩いて行くのを横目に私は公世子に向き直る。



「大丈夫?」

「あぁ、生きてはいるぞ?」

「そう、じゃあ、そこに転がしておいて!」



 私は、公世子に向き直る。



「公世子様、この前の話、公はなんて?」

「いいとは言ってくれている。

 ただし、そなたが俺に忠誠を尽くすと誓ってくれるならという条件がついた。

 色々考えてはいるところだが、やはり、アンナリーゼ、そなたが欲しい」

「あげませんよ!私はジョージア様だけのものですからね!」



 ニッコリ笑いかけると公世子にごちそうさまと言われる。

 でも、別に忠誠を尽くすと誓うのは……たいしたことではない。

 きっと、口先だけではなく、ちゃんと目に見える形で忠誠がほしいのだろう。



「この裁可を任せてくれたら、忠誠は考えてもいいですよ!

 こちらからも条件は何個かだしますけどね!元が対等でなければ、私は傅きま

 せん。私は、誰にも属するつもりはありませんから……ただ、アンバーのために

 残りの人生を費やすと決めたのですから!」

「あぁ……後で聞こう。裁可だが、アンナリーゼに任せよう。連名となるが、それでもいいか?」

「もちろんです!公世子様暗殺計画をもっと表に出しましょう。

 ダドリー男爵は少々罰が多すぎて、暗殺計画が薄れてしまいましたからね!」

「エリック、公爵を牢へ連れていけ!」



 執務室に残った私たちは、早速交渉の席につくのであった。

 さて、私を傅かせてもいいと思えるだけのカードを持っているのか……公世子のお手並み拝見である。

 ただ、ひとつだけ決めていることがある。

 私がアンバーの領地を自由にできることはもちろんのこと、今回のことをきっかけに公世子が近いうちにでも公になると決意をするのであれば、後ろ盾になることも私はいいと思っている。

 もちろん、私だけでなく、ジョージア様も含めて、アンバー領が公世子様の後ろ盾となることも考えてはいるのだ。

 あくまで、公世子様からの早期の提案であれば……と条件付きではあるのだが、そこにたどり着くことを切に願っている。

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