第262話 離婚の仕方って?

「あの……アンナリーゼ様。

 厚かましいのは重々承知ですが、今日からお世話になることはできないでしょうか?」

「えぇ、構わないわ!

 えっと……部屋とかどうしよう……?」

「使用人たちと同じ部屋で大丈夫です」

「うーん。とりあえず、デリアと顔合わせしないといけないから……

 それからじゃないと、侍従達の部屋はダメよ!

 私が、デリアにとっても叱られるから!

 ディル、三人に客間を用意して!」

「そんな!いけません!」

「いいのよ!今は、まだ、私達母娘のお客様ですからね!」



 強引な私に頷くしかないリアンを少し可哀想に思いながら、微笑む。



「リアン、これからよろしくね!

 近いうちに、領地へ行くから……それまでは、肩身が狭いかもしれないけど……

 許してくれるかしら?」

「とんでもございません!

 今日からお世話になるのです……そちらのほうが、申し訳なくて……」



 恐縮しきってしまったリアンに私は、微笑みかける。



「なら、仕事する?

 本宅の仕事は、結構大変だよ?」

「いえ、ぜひ、させてください!」

「わかったわ!

 ディル、明日から侍女長に言って、エマと一緒にリアンにもジョーについてもらって!

 レオとミアも今日からうちに住むから、ジョーと仲良くしてあげてね!」



 わかったと頷いているレオとコクと頷いているミア。

 ダドリー男爵に似ずにリアンに似た二人。

 綺麗な金髪が揺れる。



「今、考えている養子先はね……」

「はい……」

「ウィル……ウィル・サーラーの養子を考えているの。

 本人がいいって頷いてくれていないから、まだ、少し時間がかかるんだけど……

 1代限りの伯爵だから、養子は、迎えても大丈夫のはずよ!」

「あの……私、とても貴族のことには、疎くて……」

「そうなのね。

 この前会った中隊長が、ウィルよ!

 小競り合いの褒賞で伯爵位をもらっているわ!

 もう少ししたら、私の元で働いてくれることになっているの!」



 そうですか……と、声にならない程とても驚いているが、私とウィルは友人だよと話すと余計に驚かれた。



「それで、離婚についてなんだけど……どうしようか?手紙で送る?」

「それで、大丈夫でしょうか?

 旦那様は、次男であるレオをとても手放すとは思えません」

「手放す手放さないじゃないから、大丈夫。

 リアンが、離婚をしたいときちんと意思表示をするのが大事なの。

 じゃないと、レオとミアが守れないから……」



 私は、リアンに向き合い頷くと、頷き返してくれる。



「レオとミアは、ジョーの部屋に行ってらっしゃい!

 エマを呼んで、連れて行ってもらって。

 ディル、離婚の仕方って知ってる?」

「すみません、さすがにそれは……」

「ナタリーの出番ね!明日、呼んでくれるかしら?」

「あの、ナタリー様とは……」

「私の友人で、離婚経験者だから、手続きの仕方を教えてもらいましょう!

 実は、もう1件離婚案件があるから……その手続きもあるのよね!」



 誰の離婚なんだろう?と不思議そうにしているが、まさか、ジョージアとソフィアのだとは思っていないだろう。



「では、明日からよろしくお願いね!

 私の侍女が、今、領地の屋敷にいるので、向こうに移ったらいろいろとやり方を

 考えましょう。

 仕事内容は、当面の間、厄介な友人の侍女とします。

 押し付けちゃってごめんね……変な人ではないから、大丈夫」



 あのおじさんを思うと……苦笑いしかでないが、ここで苦笑いすると不安に思われるので、作り笑いでもニッコリしておく。



「そういえば、デリアからの手紙が来ております。

 お渡ししてもよろしいですか?」

「えぇ、いいわよ!」



 先ほど届いたばかりの手紙だと、ディルから渡される。



 中身をを確認して、ため息をついてしまった。

 タイミングが良すぎる……すでに、到着したようだ。

 先日、連絡はしておいたので、デリアによってうまくさばけているようだが、早々にリアンに領地へ行ってもらわねばならないだろう。



「リアン、お客様が、到着しちゃったようなの。

 悪いのだけど、離婚の手続きだけ終わったら早々に領地へ行ってくれるかしら?」

「もちろんでございます!

 あの……ちなみにどのような方か伺ってもよろしいですか……?」

「あまり、言いたくはないのだけど……身分は、元公爵。

 そして、私の下で色々な仕事をしながら働くそうよ!」

「公爵様がですか?」

「そうね……

 連戦連勝の将軍も、クワ持って畑を耕したり、商人に扮して旅に出てるとか……

 私が言うのはなんだけど、形無しね……」

「失礼ですが、あちらの方も、アンナリーゼ様には言われたくないと申されるのでは

 ないですか?」



 顔を思い浮かべたら、なんだか笑えてきた。

 そうねとディルに笑いかける。

 リアンは、恐縮し始めたので、私は手を振っておく。



「リアン、元公爵よ!

 今は、ただのおじさんだから、そんなに気負わないで!」

「あの……その……」



 もじもじっとしているので、何だろうと思ったが、思い至ったところがあった。



「あぁ、夜伽とかさせないから大丈夫!

 ていうか、そんなこと求めてきたら、アンナリーゼにクビと胴体を別々にされますよ!

 って言っておいてくれていいわ!

 ちなみに、あのおじさんの首で、国一つくらいの褒賞がもらえるのだけど……

 私の許可なく、クビをきり落としたりしないでね!」

「滅相もございません!!」



 私がふふっと笑うと、苦笑いで返してくれる。

 リアンを得られたのは、私にとって大いに得した気分だ。

 本宅の侍女やメイドは、この大きな屋敷を維持するためにぎりぎりの人数で効率よく働いてくれている。

 なので、必然的に私のことは、デリアが一手に請け負ってくれるのだ。

 今のように側にデリアがいない間は、侍女たちが競って色々してくれるのだが……

 基本的に、みんな忙しい。

 私の用事を全てデリアばかりに仕事を押し付けてしまっているので、これで、本宅と領地の仕事を分担できるだろう。

 エマの成長を待ってとは思っていたが、即戦力の元メイドがいれば、デリアの負担が減るのは目に見えているのだ。

 まぁ、本当は、私が大人しくするのが1番なのだけどな……

 そうもできないので、仕方ないよね!なんて、心の中で、デリアに謝っておく。



「じゃあ、明日に備えて、今日はもう解散!

 ディル、ジョーのところへリアンを連れて行ってくれる?」



 そのまま、私は執務室へ向かい、リアンはジョーの部屋へと向かった。



「入りますよ!」

「入ってから、入りますよ!はないんじゃないかな?」



 執務机から、入ってきた私に柔らかい微笑みを向けてくるジョージア。

 この部屋は、先日からまた二人で使っている。



「ジョージア様、公との謁見が終わったら、一度領地へ行ってまいります。

 私のお客様が、領地へ着いたと連絡がありましたので……」

「お客様ね?

 俺には、紹介してくれないの?」

「じゃあ、一緒に行きますか?」



 あぁと返事をしながら、何か書き物をしている。

 忙しそうにしているジョージアの側に行くと私を膝の上にストンと座らせる。

 このまま仕事をするとかは言わないわよね?と思いながら、今書いている文章を覗くと公爵移譲の文書を書いているところだったらしい。

 動き始めた領地改革に、私は、胸を躍らせるのであった。

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