第254話 離婚のススメ

 屋敷に戻るとまず、模擬戦のことでジョージアに褒めてもらった。

 実は、今まで、遊びに行ってたのは知っていたのに、私が強いことは知らなかったらしい。

 そして、公世子から、冠杯で優勝したというのは、半信半疑で聞いていたという。




「私、本当に強いんですよ!

 だから、いくらでも、ジョージア様を守って差し上げますよ!」

「いや、それより、俺が、アンナにコテンパンにされないようにしないと……」




 そんな震えなくても、私、ジョージア様に刃先向けたりしませんからね!と、心の内で呟くが、私に歯向かわないと言っているので、そうしてもらえるならそれほどありがたいことはない。

 ニコニコと笑うと、苦笑いが返ってくる。




「さて、我が家はやっぱりいいですね!」

「あぁ、それで、男爵の夫人とはどうなったのだ?」

「離婚したくなったら、私を訪ねてきてくれるよう伝えました。

 まぁ、近いうちに来てくれると思いますよ!」




 ふふっと含み笑いをする。

 ディルが後ろをついてきてくれているので、お茶の用意とジョーを預け、当然のごとく執務室へ私は入っていく。




「ジョージア様、どうぞお入りください!」




 執務室のドアを開けて、ジョージアを部屋の中へ誘う。

 これから、リアンに対して言ったことを、そのままジョージアにもするつもりだ。

 本当は、私が死んでからでもいいかと思っていたのだけど……そうも言ってられなくなったので、悪い芽は、早いうちに摘んでしまおうと動き始めることにした。



 私に入れと言われた執務室。

 ジョージアは、設えられたソファに腰を落とし、私は、執務机の椅子に座る。



 その姿を見ても咎めることは、されなかった。

 むしろ、私が1年近く使っていたため、すでに執務机の上は、私用に物が置き直されているのだ。




「アンナリーゼ様、お茶をお持ちしました」

「ありがとう、ディル。

 あとあの領地の3人とスーザンが戻って来ているはずね。

 呼んでほしいわ!

 それと、あなたもここにいてほしいの!」




 ディルによって入れられたお茶を、私は一口ずつ口に運び、4人の人物を呼んでくるようディルに頼む。

 4人の人物が来るまで、時間があったため、私は、先に話を始めることにした。




「ディルは、今から話すことの証人として聞いていてほしいの」

「かしこまりました、アンナリーゼ様の仰せの通りに」




 私は、席を移動してジョージアの対面に座った。

 ジョージアに、まず、一つのことを進める。




「ジョージア様、ソフィアと離婚なさいませ!」

「……離婚?」

「そうです、離婚です。

 これ以上、ジョージア様がソフィアに関わることを、私はよしとしません。

 理由は、お分かりですね?」

「蜂蜜色の瞳の子どもか?」

「そうです。

 今、すぐ、決断しなくても構いません。

 ただ、これから、離婚した方がいい理由を上げていきます。

 ジョージア様の判断に任せますわ!」




 私は微笑み、まず、領地で行われていた横領についての資料をジョージアの目の前に差し出す。




「独自に調べたものです。

 こちらがジョージア様に報告として提出された領地管理簿、こちらが領地で管理して

 いる領地管理簿です。

 読んでみてください。

 こちらでは、災害が起こって修復が必要で、どれだけの金額で修復が可能か書かれていますね?

 こちらには、同じ日に起こった災害です。

 大きく修復しないといけないようなものは、どこにも起こっていません。

 せいぜいブロックが壊れたので、レンガを積み直すくらいのものです。

 金額が金額ですので、記載ミスで済むような誤りではありませんね!

 次は、この日の洪水ですが、こちらに書かれているのは本当に起こったようです。

 ただし、修復もされず、今も領民は迂回しているのが現状です。

 聞いたところ、修復は一度もされていないと言うことでした。

 この修復に出した金額は、この額ですね。

 どこに行ってしまったのでしょうか?

 あと、金額の大きいところだと……これですかね?」




 記載されている箇所を次々とめくって、ジョージアに確認を取っていく。

 さすがに、3つ目くらいには、頭を痛そうにしていた。




「アンナ、これは……?」

「領地でお義父様やジョージア様の目の届かないところで横領されていました。

 多分、ここ10年くらいずっとです」

「こんなに、横領……って、何に使うんだ……?」

「それは、後で話しますね。

 横領してた人物が来たようなので!」




 ノックされ、部屋に通されたのは、ジョージアにも見覚えのある顔であろう。

 ただし、みすぼらしくなっているので、ジョージアは誰だったか考え込んでいる。




「久しぶりね!トーマス。

 本宅の地下牢の居心地はどうかしら?

 寒くなかった?」




 私がニッコリ笑い、トーマスに話しかけると悪態をつく。




「ご機嫌麗しく、奥様!

 私は、無実の罪で、奥様に不当に牢に入れられていたのです!

 旦那様、早々に憐れな私めをお助けください!」

「不当にですか?

 それが、本当なら、大変ね……でも、不当だと私は、思えないから……仕方ないわよね!」

「トーマス……?これは、一体どういうことなんだい?」

「どうもこうも、奥様がでっち上げたものです!」




 必死にジョージアへ無実だと叫び続ける。




「そういえば、庶民なのに、ダドリー男爵とずいぶん仲がいいそうね!

 アンバー領からは相当離れた領地だというのに、どこで出会ったの?」

「そんなお人は知らねぇ!

 それも、奥様のでっち上げだ!

 旦那様、こんな性悪な奥様は、躾け直した方がいい!」

「躾け直す?

 アンナを躾け直すなんて到底できるはずがないだろう?

 バカなことは言うもんじゃないな……国が無くなるわ!」

「国が無くなるって、どういうことですか?ジョージア様」




 ぴらぴらっとジョージアに見えるように男爵宛の手紙をワザと揺らす。




「トーマス、諦めろ。

 アンナには、誰も勝てないから……

 アンナが黒だと言えば、白でも黒になるし、元々そなたは、黒のようだ!」




 ジョージアは、手紙を読んだのだろう。

 はぁ……と、ため息を漏らす。




「今なら、優しい旦那様が、裁いてくれますよ?

 もう少し、ごねますか?

 私が、裁くことになったら……ただじゃおきませんけど?」




 私の顔を見て、トーマスは、ひぃぃぃーっと悲鳴を上げて気絶してしまった。

 ただ、手元にあったペーパーナイフを玩んだだけなのにだ。

 なんて心の弱い人間なんだろう?興味なさげに私はジョージアへ視線を戻す。




「私、怖いですか?」

「あ……あぁ、ちょっとな?」

「そうですか……じゃあ、怖くないように努めます!

 気絶しちゃったので、次いきましょうか!」




 私に頷くと、次の二人が部屋に連れてこられる。




「旦那様、奥様、ご機嫌麗しく……」

「お久しぶりね!

 ホルン、腕の具合はどうかしら?」

「おかげさまで……傷は、癒えております」

「それは、良かったわ!

 ヒラリーも変わりないかしら?」

「はい、奥様……

 この度は、多大なご迷惑をおかけしてしまい、大変申し訳ございません!!」




 ホルンとヒラリーは、私達に平伏する。

 ジョージアには、まだ話していなかったので説明をすることにした。




「ホルンとヒラリーは、トーマスの横領にいち早く気づいた者たちです。

 ただ、二人とも心が弱かったのでしょう。

 トーマスの誘いに乗ってしまった。

 領地のお金の一部を横領して、宝石や金に変えていたのです。

 辞めると辞表を出したのは、トーマスが戻ってこなくなり怖くなったのでしょう」

「旦那様、奥様のいうことは、誠でございます。

 私どもは、トーマスの甘言に乗ってしまい、領地の大切なお金に手を出してしまいました。

 どうか、罰してください……」




 信じていた者に裏切られたのは、人のいいジョージアにとって堪えるだろう。

 言葉が出ずに呆然としている。




「ジョージア様、大丈夫ですか?」

「あ……あぁ……ホルンにヒラリー……」




 ジョージアの声に張りが無くなっていく。

 仕方がない。

 ジョージアのその声を聞い、ヒラリーが涙を流しているのか……すする音が聞こえてくる。

 良心の呵責に苛まれたのだろうか?今更だ。




「この者たちを俺が裁くのか……

 いや、アンナに裁かせるわけには、いかないな……」

「ジョージア様、ホルンとヒラリーには、1つ罪の減刑をお願いします」




 私の方を見て、少し希望を見つけたような顔をしている。




「そんな顔をしても、ダメですよ!

 ちゃんと、罪は償ってもらいます!」

「そうだな……それで、それは、なんだ?」

「一度逃げようとしたのですけど……罪を認め、きちんと横領した分のお金は、

 全額返していただきました。

 それどころか、倍以上に増やしてくれております。

 命まで取るようなことは、しなくてもいいと思いますし、アンバー領のどこか

 静かなところで暮らせるようにしたらいいんではないですか?」

「アンナ……」

「ただし、退職金はなしですし、このことは、アンバー領地では、周知の事実とします。

 自分たちの食扶持は、自分たちで稼いでください。

 住むところは、少し考えますから……ジョージア様、それでどうですか?」

「あぁ、かまわない。そのように裁可する」

「旦那様……奥様……ありがとうございます……」

「お礼を言われることは、していないわ!

 あなたたち、これからが、本当に大変なのよ?

 アンバー公爵家から離れて、生活、出来るかしら……?」




 不安はあるだろうけど、二人手を取り合って命が助かったことをまず喜んでいる。

 はぁ……本当に大丈夫かしら……?

 横領が周知の事実となれば、誰も雇ってはくれないだろう。

 私は、二人の行く末が、とても気になるところだ。

 言い出した手前、少し手心を加えよう……サムかヨハン教授あたりにお願いしてみよう。

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