第253話 欲しくなったの!

「公世子様、今日は時間を取っていただいて、ありがとうございました。

 少し、この部屋を貸していただきたいのですが、いいですか?」

「いいだろう。ウィルが頷けば何とでもなるだろ?」



 私を見てニカッと笑い、エリックを連れて出ていく公世子。

 見送った後、ここに残されたのは、私とジョージアとジョーの3人。

 ジョージアへの話は、後で十分なので、とりあえず、ダドリー男爵の第三夫人を呼び寄せることにした。




 窓から身を乗り出し、呼ぶ。

 そういえば、名前を聞き忘れていたことを思い出す。




「ねぇ、ダドリー男爵の第三夫人さん!

 ちょっと、こっちで話したいのだけど、来てくれる?」

「アンナ……ちょっと……」




 背中から、服を引っ張るジョージアは、とりあえず無視して、手を振るとこちらまで彼女は、駆けてきてくれた。




「なんでしょうか……?」

「部屋に入って!

 折り入って、話したいことがあるの」




 私の話を素直に聞いてくれ、おずおずと部屋に入ってくる。





「自己紹介してもらっていいかしら?

 私、名前を聞いていないことに気づいたの……

 さすがに、第三夫人なんて呼ぶのは、失礼すぎるから……ね?」

「はい……私のようなものの名前でよろしければ……」

「うん、いいわ!

 私、あなたの子どもに興味がわいたから、あなたのことも、ぜひ教えて!」




 彼女を見てニッコリ笑う私と、頭を抱えるジョージア、わけもわからず悩むジョージアを面白がるジョー。

 何とも、親子らしい3人ではない。

 そんな私達を見て、第三夫人は戸惑っている。




「私は、リアンと申します。ダドリー男爵の第三夫人でございます」

「リアンね!

 私は、アンナリーゼ・トロン・アンバーです。

 アンバー公爵の第一夫人です。どうぞ、よろしく!」




 笑顔で握手を求めると、とんでもないと首を振られる。




「リアン、私、あなたとは仲良くしたいわ!」

「何故ですか?私のような下賤なものと仲良くなど……」

「下心があるからに決まっているじゃない!」




 あっけらかんに言う私に、リアンはポカンとしてこちらを見ている。

 そして、答えに困ったのか、ジョージアに助けを求めるかのように視線を向けていた。




「アンナ……それは、リアンに言ってよかったのか?」

「えっ?ダメなの?」

「普通は、下心があるだなんて、本人には言わないと思うけど……」

「そうなの?

 でも、隠しても仕方ないじゃないですか!」




 ジョージアと言い合いを始めて、リアンは、さらに戸惑っている。

 こんな人前で言い合いを始めるような公爵夫婦は、どこにもいないだろう。

 戸惑いと困惑を一体どうしたものかと不安そうなリアンをほっておくわけにもいかないし、とりあえず提案だけしてみる。




「リアン、ダドリー男爵と離婚しない?

 私、あなたを含めて、3人とも欲しくなったの!」

「私達親子をですか……?

 それは、何故です?

 アンナリーゼ様にとって、男爵家は……」




 チラッとジョージアを見てから、リアンは言葉に詰まったようだ。





「ジョージア様は、いるけど気にしなくていいわ!

 家に帰ってから、私が地獄に叩き落す予定だから、こんなことくらいで気にしないし

 私がしたいことをしたいようにするから大丈夫よ!

 確かにダドリー男爵は、男爵家は私にとって、毒以外の何物でもないわ!」




 私のはっきりした物言いにおののいたのは、何もリアンだけではない。

 関係のあるジョージアもビクッとしている。




「ダメかしら……?

 リアン、今考えるのではなく先々のことも含めて、よく考えてみてくれる?

 あの子たちが生き残るために私の手を取るのか、男爵たちと最後を共にするのか……

 私、男爵家を潰します!」

「アンナリーゼ!!」

「いいのよ!

 今ここで何を言ったって、どうせ、リアンは、男爵に密告などできない。

 男爵ではなく、あの子たちを選ぶって私は、思うから!」




 ね?と笑いかけると、リアンからの返事はなく、ただ私を見つめ返してくるだけだ。

 それでも、勝算はあると踏んでいる。

 私って結構打算的なのね……と、ふっと笑ってしまう。




「ジョージア様、しばらくジョーと一緒に外に行ってもらえますか?

 レオやミアと遊んできてください!

 ジョーもウィルといる方が喜びますし!」





 そういうと、私を部屋に残し、しぶしぶ出ていくジョージア。

 ドアが閉まったことをいいことに、私は言葉を続けるため口を開こうとした。




「アンナリーゼ様、何故ですか?」

「何故って?

 私は、レオとミアがジョーのために必要だと判断しただけよ。

 そして、あなたに侍女として側についてほしい方がいるのよ!」

「アンナリーゼ様の言わんとすることが、よくわかりません。

 なぜ、今日会ったばかりのレオやミアを必要だと思われるのですか?

 私が侍女としてついてほしい方……?

 私達親子をアンナリーゼ様の道具として扱いたいとおっしゃるのですか?」

「そうね……まず、子どもたちに関しては、勘ね!

 必ず、あの2人は、私達母娘には必要な存在になる、そんな気がするの。

 見て!」

「レオ?あ……あれは、お子様ですか?」

「そう、もう仲良くなったみたいね!」

「一人っ子だから、人見知りするし、知らない人だと大泣きするのよ。

 ジョージア様が抱いた瞬間、すごかったでしょ?」





 はい……と曖昧にリアンは、言葉を濁す。

 そして、子どもたちが、ジョーを覗き込んで何事か言っている姿をじっと見ていた。





「あなたを侍女にしたいのは、あなたを見込んでね。

 決して道具としてってわけではないの。

 領地に置く人手が足りなくて……リアンが、元メイドだってことは、知っている。

 レオを生んだことで夫人として冠はあれど、庶民であるあなたは男爵家では、けして

 普通の生活ができているとは今見ても思えない。

 下手をすれば、メイドだった頃より待遇は、悪いくらいじゃないかしら?

 そんな生活から、助け出してあげるとまでは言えないけど……

 普通の生活に戻すことは、可能よ?

 それに、あの子たちの将来を考えるなら、私の手を取る方が得策よ」





 想いめぐっているのだろう。

 自分の生活を……そして、子どもたちの今後のことを。




 私の侍女であるデリアの方が、まだ綺麗な手をしている。

 我が家のメイドでも、もっと綺麗な服を着ている。



 リアンはあかぎれだらけの手をして、わからないように直してある服を着ているのを見れば、どんな生活をしているかは、想像できた。

 なんせ、アンバー領の領民より少しだけいい服を着ているくらいなのだ。

 ダドリー男爵家の夫人は、私が知る限りもっと着飾っていたと記憶している。




「今すぐに返事をくれとは言わないわ!

 でも、そんなに長くは、待てない。

 私は、リアンの賢明な判断を期待しているわ!

 決まったら、屋敷に来て!必ず、保護します!」




 私の言葉は、リアンにきちんと届いただろうか?

 レオとミアは、私達母娘にとって敵であるダドリー男爵の子どもだ。

 でも、彼彼女は、いずれ私達を助ける側になるのだ。


 そして、今、何より裏切れない侍女が必要だった。

 言葉は、悪いが、子どもがこちらの手中にあれば、下手なことはしないだろうという考えもあり、彼女自身も欲しくなった。





「わかりました。

 少しお時間をいただけますか……?」

「えぇ、私が領主になるまで間しかないけど、いい返事を期待しているわ!」




 私達は部屋をでて、子どもたちの元へ向かう。

 優しい母親の顔をしているリアン。




 願わくば、私と共に歩む道を選んでほしいと思う。




「レオ、ミア!」

「何?アンナ様!」

「また、私やジョーと遊んでくれる?」




 レオとミアに聞くと、レオは返事良く、ミアは人見知りなのか小さく頷いた。




「必ずよ!」




 二人に小指をたてて約束と指切りする。

 ニコッと笑って答える二人に、リアンは、優しく微笑んで見守っているのであった。

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