第239話 お兄様への手紙
ジョージアと会う勇気がまだ持てず、グズグズしてしまっている。
あと、数日には、ディルが本宅の資金を受け取りに行くと言っているので、私も一緒に行くことにしてある。
「どうしてもダメ……」
執務室で一人机に突っ伏してしまった。
こんな日は何もしたくないと逃げて、いったい何日たっただろうか。
じゃじゃ馬だなんだって言われても、私だって、ジョージアに拒絶されるのは、怖いのだ。
かけられる言葉が、もし、私にとって受け入れがたい言葉だったら……そう思うとどうしようもなく足がすくんで一歩も動けなくなる。
「こんなにジョージア様を想う日がこようとは……誰も予想していないわよね。
『予知夢』に出てこなかったもの!
もっと、殺伐としてたじゃない!ソフィアにばっかり……のけ者だったじゃない!!
なんで、違ったのよ……」
感情ってコントロールしにくいから、嫌い!
私は、自分で見た『予知夢』と実際起こった事実との相違に戸惑っているのだ。
微笑めば……たいてい誤魔化せるけど……何故かジョージア様は、私の感情を見抜くから嫌だ!
鬱々として行く中、そういえば、最近兄へ手紙を書いていなかったことを思い出した。
報告することがあるのだ……
私は、ペンを取り、手紙を書くことにした。
『 お兄様へ
お兄様も家族もお元気ですか?
私も元気で、ジョーも元気にすくすく育っています。
最近は、ジョーは摑まり立ちができるようになり、ますます可愛らしくなってきました。
クリスは、もうだいぶ大きくなったでしょうね?
フランは、もう歩けるようになりましたか? 』
私は、まず近況報告を書く。
もちろん、可愛い甥っ子たちの様子も教えてほしいので、盛り込んでおく。
じゃないと、甥っ子たちのことは書いてくれないのだ。
兄から事務連絡のような、寂しい手紙が来る。
『私、先日、アンバー領へ行く機会があり、行ってきました。
そこで、知った事実ですが、『予知夢』より荒廃が進んでいます。
1ヶ月ほど、領地で滞在をして清掃やらなんやらを少し手伝ってきたのですが、
どうも、予想より早く領地へ引っ込むことになりそうです。
また、領地へ行く場合は、連絡しますが、それほど、遠い未来ではなさそうです。
今は、公都の屋敷にいますが、ジョージア様から領主代行権をいただければ、
すぐにでも向かう予定です。
トワイスでは、私のこと噂にはなっているのでしょうか?
お兄様……お兄様が、恋しいです。
私……頑張れるかな?
ちょっと、迷子になってしまったようですね。
あと、そちらで育てた人材をそろそろ移動する準備をしてください。
できれば、私が領主代行権を取ってすぐ動けるようにお願いします。
アンナリーゼ 』
兄への手紙を書いて、一息入れる。
お兄様に会いたい。
バカなことを言い合ってふざけ合いたい……遠い隣国にいるのだ。
それは、今すぐには叶わないこと。
ぐっと、胸に寂しい気持ちを押し込めて、封筒に封印を押す。
廊下に出て、少し歩くと、ディルに出くわした。
「ディル、探していたの。
これ、お兄様に送ってほしくて……」
「えぇ、構いませんよ。
アンナリーゼ様、別宅に行く日取りなのですが……」
「そうね……そろそろ、行かないとみんなに迷惑がかかるわね!」
「そうですね。
申し訳ないのですが、明後日でも大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよ!私はついていきます」
ディルにジョージアとの面会日を予約してもらった。
別宅にいるので、予約しないと会えないこともあるそうで、まぁ、向こうの執事が無能だというだけのことなのだが……そこは、ソフィアお抱えの侍従なので、何も言えないところではある。
ソフィアの侍従はこの屋敷に入ることを禁じているので、私は、全く会ったこともなかったので知らないのだ。
ジョージアとの面会は、明後日に決まったと、返事が来たとディルから報告をもらう。
私は、ジョージアへ言いたいことをまとめなければならない。
唐突に行って、領主代行権をくれと言ってもくれるはずもないだろう。
領主代行権は、その名の通り、領主としての業務を代行する権利だ。
アンバー領の領民からの税金で領地運営をしてより良い生活をしてもらうための運営や領地内で起こった出来事で裁決のいるような事件がある場合の裁決権や警備隊の編成など多岐に渡る領主の権利を代行できる。
端的にいうと、アンバー領地の王様になれるのだ。
私がやりたいことは、アンバー領の街道整備・治水工事、警備隊の編成、領民の税制改革、食生活向上、学校運営だ。
これをするにあたって、現状は、1つ1つジョージアに裁可を取らないとできない。
代行権があれば、裁可なしで私の決定で進められる。
今、もっとも進めたいのが、学校運営と治水工事、生活向上の3点だ。
識字率を上げるのは、やはり、どこの領地へ行ったとしても役に立つものである。
今後仕事をするにあたっても絶対必要な読み書きそろばんを基礎的にできるように領民にはなってほしい。
でないと、税制改革にも進めないし、工事を手伝ってもらうのに、いちいち字が読める人を頼らないと発注できないでは、困る。
公世子に豪語した手前ではなく、今後のことを考えて成功例を作りたいのだ。
色々考えて、あれもこれもと考えた。
ジョージアにきちんと説明をして、認めてもらいたいのだ。
決戦は、明後日。
それまでは、なんとか心の準備を整えないといけないな……
緊張する胸を押さえ、ふぅっと息を大きく吐くのであった。
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