第232話 引き取ってくれないかしら?

「それで、脅迫ってなんですか?」

「ん……子どもたちの出生を世間に出してもいいかしら?」

「あぁ、そういうことですか。

 私は、この国の人間ではありませんからね、それに……」

「あちこちに子どもがいるから、一人二人出所がわかったところで、奥さんは怒らないし、

 むしろ、アンバー公爵家の方が、そんなスキャンダルが知れれば恰好の噂の餌食に

 なるってこと?」

「わかっているじゃないですか?」

「そうなのよ。

 むしろ、うちの家名に傷がつくの。

 まぁ、それも踏まえて、子ども引き取ってくれないかしら?」




 一応悩んだふりをしてくるバニッシュ子爵を見て、まぁ無理でしょうけどねと心の中で呟く。




「無理ですね。

 我が家には、跡取りはちゃんといますし、わざわざ男爵家出の女の子どもは

 必要ないですから。

 アンナリーゼ様の子どもならまだしも、男爵位では……

 爵位が、せめて、伯爵位なら、縁付きたいので引き取りますけどねぇ?」

「そうよね、私もそう思う。

 じゃあ、死んでもあなたは別に気にしない?」

「えぇ、何とも。

 ただの火遊びの結果ですからね。

 ソフィアは、ジョージア様を繋ぎとめるために子どもが欲しかったのでしょう。

 相当荒れていたし、焦っていたとも聞いてますし、銀髪か、黒髪かの男を

 探していましたからね」

「そうなんだ……そんなこと私に話していいの?

 まぁ、バニッシュ子爵がいいなら、いいわ」




 ふぅっと息を吐くと、バニッシュは、ハハっと笑う。

 その笑いは、私は癪だったが、ソフィアが望んだ結果だと知れてよかった。




「で、アンナリーゼ様、何一つ脅迫になりませんでしたが……?」

「いいの、欲しい答えは聞けたから。

 あと、私もエールと呼んでいいかしら?」

「構いませんよ。

 アンナリーゼ様から名前で呼ばれると、親しい間柄の様で実に嬉しいですね!」



 あ……そっか。

 まぁ、いいや。




「親密は、あんまりって感じだけど、茶飲み友達くらいならいいわよ!

 まだ、アンバーの紅茶が気になる様なら、アンバー領に招待するけど?」

「覚えていらっしゃったんですか?」

「えぇ、まぁ、いろいろと思うところがあったからね」

「あぁ、ソフィアのことですか?」

「えぇ、まぁね。

 それも本人から聞けてスッキリしたから、もういいわ!

 後は、ジョージア様がどう判断するかに任せることにしましょう!

 ちなみに、言っても答えないでしょうけど、ダドリー男爵とはお友達かしら?」




 物のついでにという風に聞いてみると、これまた妖しく笑うエールに気を引き締める。




「素直に答えたとしても疑うでしょ?

 ……そうですね、ダドリー男爵は、お友達ではないですよ。

 似たようなタイプって苦手で……」




 なるほど……ダドリー男爵も、かなりのイケたおじさんだ。

 エールは、まだ若いけど、年を取ったらあの雰囲気そのままになりそうだと思うと笑える。




「ソフィアと関係があっても、親とは全く関わりはないさ。

 誓ってね!

 それより、アンナリーゼ様との関係の方が、もっとおもしろそうだ」

「調子のいいこと」

「そうじゃないと、隣国まで来てないですからね……

 可愛いお嬢さんを求めて、わざわざ」




 私は、わざとらしく大きくため息をつく。




「おやおや?呆れましたか?」

「いいえ、別にあなたの好きにすればいいわ。

 どうせ奥さんが言っても聞かないような人、誰も止められないでしょ?」

「わかってらっしゃしますね。

 まぁ、こんな私でもいいと結婚してくれた妻には感謝しかありませんがね。

 いい妻を娶れましたよ!」




 奥さん、すごい忍耐力の強い人なのか、ただ、もう興味がないのか……

 お金だけ入れてくれたら、好きにどこで遊んでいても構わないということか……

 鈴付きの首輪をしてたとしても、制御できるとは思えないから、諦めなのかしらね?



 頭の中は、ただただ、エールの妻を勝手に想像して、勝手にご愁傷様というが、別にそんな風に思っていないかもしれないと思いながら、話を続ける。



 確かに、このエールという人は、話題に尽きない。

 兄のような堅物で教科書を読んでいるような話でもなく、ジョージア様のようなロマンチックな夢物語でもない。

 どちらかというと、公世子とかウィルとか……と、話しているような軽い感じで話していく。

 ただ、要所要所には、恋の駆け引きではないが、何かしら仕込まれているような話しぶりではある。

 そういうのは、正直めんどくさいので……御免こうむりたい。

 ハリーがいたら、一蹴してしまう部類の人間だなと思い出すように考えていると、クスっと笑ってしまった。




「アンナリーゼ様は、何を思い出して笑っているのですか?」

「いえ、あなたの話がおもしろくて……

 それと、私の周りにあなたのような人が一人もいなかったのは、私の王子様が

 ずっと見守ってくれていたのだなと思ったら、思わず」

「そんな方がいたのですか?

 ジョージア様以外ってことですよね?」

「いたわ!

 命より大事な人が……今は、もう違うけどね!」



 俯き加減に苦笑いすると、私の想い出にまで付き合ってくれるのか、聞きたそうにしてくる。

 でも、ハリーのことは、話さない。

 想い出は、私の中にあるからこそ、輝くものだし、他の誰かと共有はしたくない。

 もし、共有できるとしたら、ハリー本人とだけだろう。




「そんな顔しても話しませんよ?

 大事な想い出を何故、あなたに話さないといけないの?」

「ダメですか?」

「ダメね!

 だって、あなた、人の恋バナを自分とすり替えて、ベッドで語ってそうじゃない!

 綺麗な想い出は、私だけのものなのよ!」




 そこまでいうと、そうですかとエールは引き下がる。




「アンナリーゼ様、探しましたよ!」




 わざとらしくナタリーがサロンに入ってきた。




「ごめんね、探してくれていたのね?」

「そろそろ、帰りましょう。

 ゆっくり休まれないといけませんから……

 失礼しますね!」




 私の手を引きナタリーは、そそくさと入り口まで歩いていく。




「アンナリーゼ様、また、おいしい紅茶を飲みに行かせてください!」

「喜んでよ!

 また、お話しましょう!」




 その返事にナタリーは、少し怒り気味に歩くスピードを速めたが、私は、心配してくれるナタリーの気持ちを汲むように必死に足を動かした。

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