第188話 ジョージアの子か?

 私のお願いに折れてくれた公世子にお礼を言っていると、デリアがジョーを抱いて私の元にやってきた。




「アンナ様、おめでとうございます!

 すごいかっこよかったです!」




 感動しているように言ってもらえるが、私、結構カツカツでウィルに勝ったのであんまり喜びはない。

 もう二度とウィルにもエリックにも勝てないような気がする。

 それよりも、私は、ウィルとセバスを得た方が、よっぽど嬉しかった。



 デリアに抱かれていたが、私の顔をみて、笑っている我が子を抱きかかえようとしたところだった。




「その子がジョージアの子か?」

「はい、そうですよ!

 可愛いでしょ?」




 公世子が興味ありげにジョーを見ている。




「そなたの要素は、全くない女の子だな?

 これは、相当な美人になるぞ!」




 公世子が「女の子」と言ったことに引っかかる。

 私は、この子が「女の子」であることを公表していない。

 だけど、ここで、どうして知っていると問うことはできない。

 公には、秘密なのだから……




「それって、私が美人じゃないってことですか?

 まぁ、いいですけど、抱いてみますか?」

「あぁ、いいのか?」

「もちろん、いいですよ!」




 私から公世子の腕の中に納まるジョーは、じぃっと公世子を見つめる。

 ジョージアとそっくりなトロっとした蜂蜜色の瞳は、公世子様がお気に召さなかったようで泣き始める。




「わぁ……泣かれた……

 アンナリーゼ!ほら!」

「公世子様……下手くそですね?」

「俺、自分の子供も抱いたことないのに、ジョージアの子を抱く羽目になるとは……」

「ないのですか?」

「ない!」

「抱くのは成人した女だけでいい」




 じとっと私は、公世子を睨むと、苦笑いをしていた。




「抱いてあげたらいいじゃないですか!

 プラム殿下とか、可愛いでしょ!」

「あぁ……そうだな」




 興味なさげだが、こんなものなのだろうか?

 ジョーが私にから身を乗り出して手を伸ばしている先を見るとウィルがいた。

 本当に好きね……と思いながら、ウィルを呼ぶ。



「おっ!ジョーも来てたの?

 おいでおいで!!」




 その姿をみて、さっきの公世子の姿を思い出す。

 ウィルの姿が異常なのだろうか……?と、考えてしまう。




「ジョーという名前か?」

「そうですよ?」

「女だろ?」

「……」

「アンナリーゼ?」




 私は、押し黙ってしまう。

 それを不思議に思ったのか、公世子は私を覗き込むように見てくる。




「そんな顔するな。

 悪いのは、どうせジョージアなのだから……」




 この人は、どこまで知っているのだろうか?

 きっとジョージア様とは会っているはずだが、ジョージアも性別は知らないはずだ。

 となると……いろいろと思い当たることもあったりなかったりするが、今は、ジョーのことは、何も話したくなかった。




「公世子様、私、ジョーのことは、まだ公開したくありません。

 なので、公世子様も性別や特徴について誰にも言わないでください」

「そなたの悪評が立っていてもか?」

「そんなのどうだっていいじゃないですか?

 私なんて、いつでも噂の的でしたから、気にも留めません!」




 ニッコリ笑うと、そうかと公世子が言ってくれる。




「それにしても、妙にウィルになついていないか?」

「そうなんですよ!

 初めて会った時から、ウィルにベッタリなんです!

 困ったわ……とか、思っているのですよ!」




 私と公世子は、ウィルに懐いてきゃっきゃっ!と騒いでいるジョーを見ながら苦笑いするのである。




「ジョージアは、ウィルを牽制してたけどな……

 こりゃ、アンナリーゼへの牽制よりあっちの牽制の方が先じゃないか?」




 私達の今の状況は、知らないのだろうか?

 わざと何も言わないのだろうか。




「公世子様は、ご存じないですか?

 私とジョージア様は、あの子が生まれた日から会っていないということを」

「はっ?どういうことだ!?」

「こんなところで、話すことじゃないですよ!」




 頬を膨らませて怒ると、じゃあ別室にと言われ応接室に連れられる。

 私とジョー、ウィルとセバス、それにデリアが一緒に。





 扉を閉めた瞬間だった。




「さっきのは、どういうわけだ!

 ジョージアは、そんなこと一言も……」

「わかりません。

 この子が生まれた日から、会っていませんからどういうわけなのか

 わかるわけないじゃないですか!」




 ジョーの頭を撫でると喜んでいる。

 まぁ、ウィルに抱かれているのですでに上機嫌なのだが……



 公世子の方は、不機嫌極まりない。

 膝の上で握られた拳は、きつく結ばれている。



 私は、そっと公世子の隣に座りなおし、握っている拳を手に取る。




「公世子様……

 私は、それで構わないのです。

 寂しくないと言えば嘘になりますよ。

 でも、第二夫人がいるということは、そういうこともあり得るということ。

 私は、この2年、十分ジョージア様から愛情をいただきました。

 暖かい場所で、ぬくぬくとしていられた時間は、終わったということです。

 もともと、私が割り込んだ結婚ですから……

 私、この子がいるから頑張れます。

 たとえ、どんなことが先に待っていたとしても……」




 公世子の握った手をゆっくり解いていく。

 解き終わると、公世子へ私はニッコリ笑いかける。

 すると抱きしめられた。

 いきなりだったので、驚いた。

 もちろん、一緒にいた皆もだろう。




「公世子様……」

「アンナリーゼ……

 そなた、何故そんな思いをしてまで、ジョージアを……」

「私ですか?

 私は、今でも、ジョージア様が大好きで……愛しているんですよ!

 ただ、それだけですよ!」




 デリアのすすり泣く声が聞こえる。

 ウィルもセバスも何も言わない。

 ジョーのきゃっきゃっとウィルに一生懸命話しているかのような声が部屋に響く。




「公世子様、私、自分が間違っているとは思っていません。

 あの子を立派に育てて見せますよ!」




 ジョーを見てただ柔らかく笑う私を、皆が目をみはる。




「母親だな……

 わかった、俺にできることがあったら言ってこい。

 力になってやる!」

「ふふ……

 無理はしなくても大丈夫です!

 私には、こんなに素敵なお友達がいますから!!」




 私は、心から友人に恵まれたと思う。

 目の前の彼らにナタリー、そして遠く離れた祖国にいる友人や家族。

 私のために隣国へと嫁いでくれた友人。

 私を形成するすべてが未来へとつながるのだから……




「しっかりしないとやってられませんよ!」

「アンナリーゼがしっかりって、世も末だな……」




 公世子の一言で、呆れたようにみんなが笑うのであった。

 それってとっても失礼じゃない?と思っても、自分自身も納得してしまったので、一緒に苦笑いしておくことにした。

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