第182話 第1回アンナリーゼ杯II

 私は、難なく第8小隊隊長キースに勝つことができた。

 小隊最強とか言われていたが、ウィルがいた第13小隊の方がよっぽど強い。

 何せ、隊長のセシリアが手塩にかけて育てた上に、私の遊び相手になっていたからだ。

 おまけにウィルも、第13小隊は、相当練習相手にしていたらしい……




 私、小隊最強は、第13小隊でいいと思う。




 ちなみに、今回は、毎日恒例100人斬りの中でも屈指の隊員が20名ほど出ているらしい。

 今のところ半分が試合をしたらしいが7人残っているとのことだ。

 これは、私もウィルもセシリアも鼻高々ってとこだろう。




 次は、エリックの試合だ。

 私は、ウィルに連れられ見に行く。

 目の前にいるのは、近衛でも有名な貴族らしい。

 どういう意味で有名なのかは、知らないけど、顔を見る限り、強いとか憧れる!系の有名ではなさそうだ。

 人は顔によらないけど、きっと、私の評価はあっているだろうと思う。




 エリックは、庶民からの叩き上げだ。

 ウィルに育てられて、今では、ウィルの専属従属になり、実は中隊の副官も務めていたりする。




 開始早々、きえぇぇぇぇぇーとか、奇声を発してエリックへと向かう貴族は、エリックの一振りで昏倒されてしまった。

 エリックの攻撃は、まぁ、私でもアレは、よっぽど自信がある日しか受けない。

 て、いうか、アレ……まともに受けたらカラダごと沈まされる。




 今、まさに倒れている貴族のようにだ。




 エリックの上段から、力任せにただ振り下ろすだけなのだが、威力は抜群。

 しかも、舐めた相手にしか使わない、ズボラな戦い方だ。

 私相手には舐めてるわけではなく、100人と共闘しているからこその必殺一撃としょうせられるが、今のは、完全にのした貴族を舐めた上でただ力任せに振り下ろしだろう。




 これは、エリックに要注意だ!と思ってると横で、頭をガシガシかいているウィル。




「こらぁー!エリック!

 なぁんだ!あの舐め腐った戦い方は!

 そんなもん、見せられてもおもしろくもなんともないわ!

 もっと、真剣にやれ!

 病院送ってもいーから!」

「う……ウィル?

 それは、流石に……」

「わかりました!次からは、そうします!」

「エリック!?」




 よしよしと、ニマッと笑うウィル。



 さすがの私も病院送りは、焦っているのに……

 この師弟関係……大丈夫なのだろうか?




 そのあとは、ウィルの2試合目の順番となり、ジョーを私に渡してそそくさ試合に行ってしまう。

 向かった先で、5分もしないうちに歓声が上がり、戻ってくる。




「もう、終わったの?」

「あぁ、終わった。

 俺、強いんだから、しゃーないだろ?」




 ウィルは、いつもの軽い感じで笑い、私からジョーを攫っていくとあやしている。

 最初、ジョーがウィルを気に入ったんだとばかり思っていたが、ウィルが気に入っているのかとても大事にしてくれる。




「ウィルって子供好き?」

「いんや、俺そんなにかな?

 でも、ジョーには好かれてるのか、俺も好き!」

「将来、ジョーのお婿さんになるの?」

「はっ?なんで?

 俺、なれないでしょ?

 姫さんと俺、同い年だってわかっていってる?」




 なんて笑い話をしている。

 高い高い!とかして、ジョーもウィルも楽しそうだ。




「姫さんも、2試合目そろそろコールされるはずだよー」





 ウィルがご機嫌に言ったそばから、呼ばれたので私は、ジョー達に手を振り試合場まで行く。




 すると、よく見知った人がいた。

 いつもの100人斬りの中でも1番強いんじゃないかって思ってる人だ。

 名前知らないんだけど、皆勤賞の彼には敬意を払っている。




 対面した彼は、応援団にフリージアと呼ばれていた。




「フリージア、いつも相手になってくれてありがとう!」

「いえ、こちらも勉強させていただいています!

 今日も胸を借りるつもりで精一杯頑張りますので、お手柔らかに!」

「こちらこそ!」




 初めて、フリージアと握手を交わす。

 審判に促され、それぞれの位置についた。



 フリージアの戦い方は、だいたい、頭に入っている。

 ただ、私の勘で言うと、団体で戦うより、各個撃退の方が好きなんじゃないかと思っているのだ。

 きっと、今日は、本領発揮するのではないか?と身構えている。




「始め!」




 審判の声が響いた。



 私は、ポニーテールを揺らしながら一歩左に進む。

 すると、フリージアも対角になるよう一歩進んだ。



 間合いを測っているということは、シュミレーションしているのだろうか?

 周りは、動かない私たちに固唾を飲んでいる。



 先に動こうかと思ったが、私は、ただ、じっとフリージアを見つめているだけだった。

 痺れを切らしたのか、シュミレーションが終わったのか、フリージアが動く。



 きた!そう思った矢先、すでに目の前まで迫っていた。



 足、早いんだ?


 違うな、歩幅が広いんだ!


 それに、団体じゃないから、空間を広く使える。



 そのおかげか、鍔迫り合いするころには、フリージアの剣は、自由に振るうことに喜びが混じったかのように楽しげに打ち込んできたのである。

 体格的に私より少し大きいくらいなので、今現在、鍔迫り合いをしているのだが、それも拮抗している。




 さて、どうしようかしら?




 いつもと様子の違うフリージアを相手取って考え始める。

 といっても、剣を握っているのだ。

 悠長なことは、いってられない。



 剣のヒラで受け取り、両手で、受け返した。

 成功したようね……と、微笑みながら、押し返したら、間合いができた。



 若干、苦笑いのフリージアをよそに、私はさらに体を低くして一歩、二歩とフリージアへ詰め寄る。




「くっ!」




 下から飛んでくる剣戟を捌きながら、耐えているフリージア。

 少しずつ私の打ち込みがきいてきたのか、後退していってくれた。



 久しぶりの強敵にとても心躍る私。

 思わず、笑みがこぼれてしまう。




「いくよ!」




 フリージアは、一瞬ドキッとしたのか、身をすくめたように思う。




 するべきことは……ただ一つ。

 模擬剣を奪うこと。

 下から攻撃しているので、すくうように私は握っている模擬剣を振り上げる。





 カーン……カランカンカン…………




 フリージアの模擬剣は、私にすくいあげられ私の後方へ飛んでいく。

 そして、そのまま、私は模擬剣をフリージアへ突きつける。




「参りました……アンナリーゼ様」




 降参っというように、フリージアは両手をあげて負けを認めた。




「勝者、アンナリーゼ様!」




 フリージアの応援団も実は、ほとんどが100人斬りメンバーだったため、私が勝ったのにも関わらず、喜んでくれる。

 もちろん、他のギャラリーも私に歓声をくれる。

 私は、その歓声に手を振ってにっこり笑う。




「さすがですね……

 私は、まだまだです」

「そんなことないよ!

 フリージアは、十分強い!

 やっぱり、各個撃退の方が得意?」

「そうですね……団体は、ちょっと苦手です」

「ふふっ!そんな気がした!」

「アンナリーゼ様には、なんでもお見通しですね!」




 勝者敗者関係なく、二人がやいのやいのと話をしながら試合会場から出てくる。

 応援団に囲まれて、話始めると、ジョーが泣き始めたようだ。

 


 声が聞こえてきた。




「ちょっと、ごめんね……

 うちの子が泣いてる……!」




 駆け寄って行くと、お腹がすいたようで泣いている。




「ウィル、どこか部屋はない?」

「あぁ、会議室ならいいかな?こっち!」




 デリアとエマを引き連れて案内された会議室に入る。




「はいはい、ウィルは、外でちょっと待っててね?」




 有無も言わせぬ視線を送るとはいはいと外で待っていてくれる。

 母乳なので、さすがにウィルを部屋に入れるわけも行かない。

 そのあと、離乳食を食べさせるようになったため、ウィルも呼んだ。



「もぉ、食べられるの?」

「うーん、食べるっていうか、食べさせるための準備みたいなものね?」




 もういらない!と手でペイってし始めたので、そこでジョーの食事は終わる。





「私たちもお腹すいたね」

「少し用意しましょうか?」

「お願い!」




 そういって、私とウィルとデリアとエマの4人は、屋敷から持ってきたサンドウィッチを食べる。




 今日の私の試合は、終わった。

 午後から別の班の試合なのだ。

 明日も予選があるので、今日は、このあと少し話をして帰ることにした。



 ジョーはお腹も膨れウィルに抱かれ、満足そうに寝てしまった。

 まぁ、いいのだけど……

 よっぽど、ウィルが気に入っているようで、このまま大きくならないでよ……と、我が子ながら願うばかりである。

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