第181話 第1回アンナリーゼ杯

 昨日ウィルに提案されたばかりだったが、すでに前もって準備されていたのか訓練場には、たくさんの近衛や公都を守る警備の人たちが集まっている。

 私もジョーを面倒みてくれるデリアとエマを連れて参戦だ。




「すごい人ね……

 みんな予選の人?」

「いや、見にきている人もいるぞ?」

「皆さん、腕自慢の人たちばかりですよ!」




 私の左右には、中隊長の腕章をつけたウィルとその従属である腕章をつけたエリックがいて、私の質問に答えてくれる。




 確かにこの人数だと……日にちがかかるわね。




 私から見える人数だけでもかなりだった。




「まだ、これ、半分だからな。

 一次予選は、午前午後の2部制。

 1から7までの班にわけてやるんだ」

「そうなんだ?

 なんか、すごいね!

 あぁ、わくわくしてきた!」




 久しぶりのお祭り気分に私は、そわそわしてくる。




「ちなみに俺らは、班が別れたぞ?」

「ホント?楽しみ!」

「勝ち進んでいけば、僕とアンナリーゼ様は、準決勝で当たりますね!」

「俺は、姫さんとは決勝まで会えないな……」




 それぞれの対戦票を見ながら、どんな人物がいるのか確認しているところだ。

 決勝トーナメントに出れるのは、7人と近衛団長の計8名となっている。



 ちなみに私の班には、第3中隊の隊長と戦闘特化の第8小隊の隊長と……かなり強い面々がいるらしい。

 私は、それを聞くだけで、ワクワクしてきた。

 この訓練所に通って2年くらいたつけど、トーナメントにはまだ、戦ったことがない隊員の名前が並んでいるのだ。




「俺んとこ、将軍いるんだよなぁ……

 勝てっかなぁ?」

「ウィル様のところもですか?

 僕もなんですよ……」




 ウィルとエリックの2人は、ため息混じりだ。




「大丈夫?」




 曖昧に笑うウィルとエリック。

 仕草がそっくりで、驚いた。




「まぁ、姫さんに会わない限り負けないさ!

 例え近衛団長と当たったとしても、勝ってみせる!」




 ウィルのアイスブルーの瞳は爛々としていた。

 が、後ろから、知らないおじさんに抱きつかれ変な声を出している。





「おぉー、ひよっこが、生意気ぬかすな!

 ワシに勝とうなんて100万年早いわ!」

「団長、どこ触ってるんすか!」





 ウィルの後ろから抱きついているガタイのいいおじさん。

 これが、ローズディア公国の近衛団長らしい。




「おっ!

 これはこれは、ご挨拶がおくれましたな!」

「いえ、こちらこそ……

 いつもお世話になっています。

 アンナリーゼ・トロン・アンバーです。

 この度は、このような催し物までしていただいて……」

「いやージョージアの坊ちゃんには勿体ない子だな?

 近衛団長を拝命しておるヤリス・クーランだ。

 こっちこそ、無理言って悪かったね……

 冠杯だなんて、びっくりしただろう?」





 私は、ヤリスの話を聞いて、クスっと笑う。




「はい、昨日聞かされましたが、ビックリしました。

 さらに、この参加者の多さに……」

「あぁ、普段、鍛錬をしている子らばかりだからね。

 自分の力量を誇示したいんだ。

 そういう機会ってなかなかないもんだからさ!」




 自分も含めてと笑っているヤリス。

 きっと、1番乗りきだったのだろう。




「今回、そういう意味では、こんな絶好のチャンスを与えられれば、

 みんな張り切るだろう。

 普段、手合わせしないような将軍職のものまで出るから!」

「私も、楽しみにで、今、とてもワクワクしてます。

 もし、当たったら、お手柔らかにお願いしますね!」





 私は、ヤリスにニッコリ笑って握手を求めると、ヤリスもニヤッと笑って握り返してくる。

 ただし……それはどうかな?と呟いている。

 私の力量をはかりたいのだろうか?

 どのみち、ヤリスと当たるのは、順当に行って決勝だ。




 それまで、楽しみにしておこうと思う。





「姫さん、俺、次試合だから、いってくら!」

「応援行くよ!」

「あぁ……いい。

 すぐ戻るから!

 エリック、姫さんたちよろしく!」

「了解です!」




 近衛らしく、上官に対する敬礼をしているエリック。

 今日は、やはり腕章をつけているためか、いつもと違うのである。




「エリックは、まだ出番はないの?」

「僕は、班内でも最終ですから……」

「そうなんだ?

 私は、中間くらいだから、ウィルが戻ってきたら行くね!」




 なんて、二人で話をしていると何食わぬ顔で、ウィルが戻ってきた。




「もぅ終わり?」

「あぁ、不戦勝で勝った」

「えっ?」

「ずるじゃ、ねーぞ?

 俺の顔見て、負けましたって向こうが、言ったんだから!」

「そんな勝ち方もあるのね……」

「姫さんは、間違いなく全試合戦う羽目になると思うよ!

 みんな、姫さんと戦ってみたいんだから!」




 私は、ため息をつく。

 別に、私に恐れをなして不戦勝にしてくれてもいいのだけどなぁ……

 そんなことを思ってしまう。




「そろそろなんじゃね?

 デリア、ジョー貸して」

「えっ?

 ジョー様、人見知りですから……」

「ジョーは、ウィルにはしないのよ……」




 ウィルに抱かれるジョーは、さっきより喜んできゃっきゃっと嬉しそうだ。




「かーさまの活躍、見るんだぞ!」




 そんなことを言いながら、またジョーの頬っぺたをムニムニしている。




「前情報いるか?」

「いらない!

 戦場に出たとき、そんなものないでしょ?」

「まぁな。

 じゃあ、存分に暴れてこい!

 じゃじゃ馬姫さん!」

「じゃじゃ馬だけ、余分ね!」




 ちょうど、前の試合が終わって、私の名前が呼ばれる。

 今日は、騎士服っぽい服装で男装しているため、いつもより体が動かしやすい。

 髪もポニーテールにデリアに結んでもらった。



 私は、ポニーテールを揺らしながら、意気揚々と試合会場へと入る。

 模擬剣の検査を審判にしてもらい、位置について待つ。




 私の前に現れたのは、気障っぽい貴族の子息だろう。




「第8小隊の隊長、キース・ブランだ。

 あなたが、近衛の訓練場で好き勝手やっているという公爵夫人か?」




 なんだか、言い方がむかつくわね……

 私の方が爵位上ですけど!

 別に好き勝手は、していない。

 公のお墨付きで出入りしているだけ!





「アンナリ……」

「結構です」




 向こうも自己紹介したので、私もした方がいいのかと思って、名前を名乗ろうとしたらかぶせるように言われる止められてしまう。





「あなたの名前なんて、覚えても仕方がない。

 これからすぐに負けるのだから!」





 えらく自信家ね!

 もう、その言い方、完全に腹立ったわよ!

 私だって強いんだから!

 ぶちのめしてやる!




 私の心中は、すさんでいて、さらに怒りにメラメラと燃えている。

 ただし、頭は冷静だ。

 母から伝授されたのは、どんなときでも頭だけは冷静に判断できるよう訓練されている。




「では、開始します。

 位置についてください!」




 審判は、私とキースを見て位置確認をする。

 頷いているので、もう始まるのだろう。




「始めっ!」




 審判の1音目が出るか出ないかで、キースは私めがけて突っ込んできた。

 私は、それを軽くいなす。




 女だからって、なめないでくれる!




 ついでに、ちょこっと足を出してひっかけてやる。

 ふらついたキース。

 私が隙を見逃すはずもなく、めいっぱいの力で押し倒し背中に、馬乗りになった。




 馬乗りされているキースは、私を見上げて憎々し気にしている。

 もちろん、片方の足を引っ張り上げているから、身動きが取れないのだ。





「さぁ、ねんねの時間ですよ!」





 私は、最大限、ニッコリ笑ってキースの意識を刈り取ってやるのであった。





「勝者、アンナリーゼ様!」




 その場で、たくさんのギャラリーが見ていたのだが、怒号のような喝采を受ける。





 私、そっちの方が……怖いかも。




 ジョーも驚いて泣いているようで、ウィルが一生懸命あやしてくれているのが目に入ったのあった。

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