第166話 何をされているのですか?
冬期休暇になった当日には、我が家にパルマが来ていた。
学園からここまで2日から3日はかかるはずなのに……
すでに荷物も整え終えたらしく、ディルの後ろをついて歩いている姿を目にした。
呼び止めようかとも思ったが、ディルの話に耳を傾け、メモを取りながら忙しそうにしている姿に私は、午後まで待つことにした。
「パルマ、いらっしゃい!」
「アンナリーゼ様、ご無沙汰しております。
また、少しの間ですけど、よろしくお願いします」
ディルの教育のたまものか、最初に会った頃に比べ、仕草が洗礼されている。
「こちらこそ、よろしくね!
私、今、お腹がだいぶ出てきたから……
あまり、仕事ができないというか、止められているから手伝ってくれると嬉しいわ!」
早速、夏場に教えた侍従たちの給金計算から手伝ってくれるようだ。
少し、指示を出せば、あとは夏季休暇のとき同様に、応用し仕事を進めていく。
なんとまぁ、可愛げがないわけだが……仕事仲間としては、かなり頼もしい。
そして、これが、スペックの違いというやつかと、私は洗礼を受ける。
そもそも学園で中間前後でいた私と、学園1番に君臨するパルマとを比べるのもおこがましかった。
主がバカでごめんねと、心の中で謝っておく。
「アンナリーゼ様、疑問に思っていたのですけど……」
「何かしら?」
「これって、別にアンナリーゼ様がしなくてもいいんじゃないですか?」
うん。そうね……
ぐぅのねもでないんだけど、私自身が始めた評価方法だったため、他の人にしてくれと言えなくなってしまったのだ。
でも、だんだん、私のやり方に侍従たちが慣れてきたので、手間に感じない程にはなってきていた。
ジョージアからもらったお金をちょろまかして投資につぎ込み給金を上げるということをしているので、他の人が触るとややこしかったりするため自分でやっているという面もある。
「そうね……誰かに任せようとは思っているんだけど……
よくよく考えると、私、ディルやデリアに後進をって言ってるけど、
私ももっと任せられる人を作らないといけないのね……
ディルとデリアの負担、多いもの」
反省している私にパルマは驚いている。
「アンナリーゼ様でも、反省とかするんですね。
僕、アンナリーゼ様は、何でもできる優秀な人だと思ってました」
「買い被りすぎだよ!
私は、お勉強とかとても苦手だし、今、こうして簡単な事務仕事しかできないもの!
今日からは、パルマもいるから、頼らせてもらうわね!」
微笑むと、パルマは頬を染めた。
「どうかしたの?」
「いえ、なんでもないです……」
俯き加減にパルマは作業を始める。
今日は、私の部屋で仕事をしているので、パルマに仕事を任せ私は、内職にいそしむことにした。
カゴバック……を、作るのだ。
ナタリーに手伝ってもらうようお願いしてから、変わったデザインのものが何個も上がってくるようになった。
私も負けじといろいろなデザインを作れるよう試行錯誤しながら、今のところ11個ほど作った。
他にも、領地の女性たちの内職としてもしているので、おもしろい型のものが出来上がっている。
同じデザインのものもあれば、5個くらいずつデザインの違うものがあがってきている。
使い勝手のよさそうなスタンダードのものは、たぶん安く売れるだろう。
庶民に定着するような気がする。
あとは、少し手の込んだようなものは、商家の奥様や令嬢など、少しお金に余裕がある人がもちそうだ。
そして、ナタリーのところからのものは、完全に貴族向けとして扱っても問題ないほど、細部まで細かく、そして、女性の心をくすぐるような作りになっていた。
来年の夏に向けて、販売を見込んでいるが、春先の明るい色の服を着るようになってから発売するのもいいのではないかと思う。
広告塔は、もちろん、ナタリーだ。
私が、社交界にいれば……私がするのだが、今は、出られないので仕方がない。
考えている販路は、ローズディアだけではない。
トワイスやエルドアにも考えている。
こちらも女性貴族は、確保できているので是非、広告塔としてアンバー領のために使ってもらいたい。
ちなみに私が今作っているのは、シルキー様用だ。
ふっふっふ……と悪い笑みを浮かべながら、カゴバックを作っていると声がかかる。
「アンナリーゼ様、何をされているのですか?」
「ん?藤つるが、たくさんあるので、カゴバックを作っているのですよ!
これ、アンバー領の特産品にするの!
トワイスに帰るときには、パルマに何個か渡すから、配ってほしいのだけど……」
パルマは、少し遠い目をしている。
聞かなければよかった……と、いうようなだ。
「パルマは、こんなことをしている貴族は、おかしいと思う?」
「はい……」
「……でしょうね?
でも、領地運営には、お金が必要なの。
これを作ることで、作った人には小銭が入るし、それを売った商人もお金が入る。
もちろん、私達もピンハネするからお金が入るの。
捨ててしまうものだから、それなら、活かせる方法で領地に活かした方がいいでしょ?」
パルマは、感心している。
それほど、感心してもらうことではないことなのだけど……私のモットーは、小さなことからコツコツとなのだ!
兄に言わせれば、勉強もコツコツらしい……嫌いなものは、仕方ないだろう。
「それに、私ね……
外で体が動かせないから、こういうのをしている方が気がまぎれるのよ」
ニッコリ笑う。
「アンナリーゼ様らしいですね……」
ちょっと、呆れたように笑うパルマ。
「決めました!」
「何を?」
「アンナリーゼ様が出産して落ち着くまで、休学しようと思います!」
「えぇー!!ダメよ!!」
私は、首を横に振る。
「うぅん、じゃあ、僕、飛び級してきます。
待っていてください!」
「飛び級ですか……?
私には到底できない話だわ……
でも、学生の間しかできないこともあるの。
だから、学生は学生らしく、学校に通いなさい。
私は、逃げたりしないから!!」
諭したつもりでも、パルマの意志は固いようだ。
「サシャ様にも言われたのです。
なので、一足早く、アンナリーゼ様の側にいさせてください!!」
「側にいさせてってなんだか、聞き捨てならないセリフだね?」
ジョージアが、急に部屋に入ってきた。
「ジョージア様、パルマが……
飛び級するって……説得してください!」
「ジョージア様、アンナリーゼ様のお側で働かせてください!
お願いします!」
2人は、一緒にジョージアに懇願する。
ジョージアは、困った顔を私達二人に向けるだけであった。
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