第165話 相談

「お久しぶりです、アンナリーゼ様」

「いらっしゃい!ナタリー」




 迎え入れるナタリーの笑顔は、かなり輝かしいものであった。

 風の噂では、離婚して実家に戻ったと聞いているが、真相はまだ知らない。




「だいぶ、大きくなりましたね!」




 大体、私に会って一言目はお腹のことだ。

 出産まで4ヶ月となり、急激に大きくなってきたように感じている。




「そうなの……

 重くなってきたよ……」



 そんな私をみて、ふふっと笑うナタリー。

 ナタリーと会うのは、あの夜会以来であった。





「アンナリーゼ様、私この度、離婚が成立いたしまして!

 実家に身を寄せていますよ!

 なので、いつでも呼んでください!」




 意気揚々と離婚宣言から入るナタリー。

 離婚したのは、本当だったのね……

 あの夜会の日に離婚するとは言ってたけど、時期的に思ったより早かった。




「あの……ナタリー?」

「なんでしょう?」

「離婚だなんて……

 本当によかったの?」




 生き生きしているナタリーに聞くのも変だが……一応、聞いてみる。



「えぇ、全く。

 これで、やっと、アンナリーゼ様の側にいつでも侍ることができますわ!」



 そんな堂々と侍るなんて言われると、どうしていいのかわからなくなる。

 しかし、ナタリーは、女性。

 社交界に出られない私にとって、彼女は情報の源なのだ。

 今、社交界で起こっていることなら大抵は知っているだろう……




「そういえば、公世子様ももうすぐお子様が生まれるって聞いているけど、

 知っていて?」

「もちろんですよ!

 社交界は、正妃の生んだ男の子と第二妃が生む子供のことでもちきりです。

 ほぼ、同時期に生まれるのですからね。

 どちらが未来の公になってもおかしくはないでしょう?」

「性別がわかっているの?」

「第二妃の方は、東洋の占いっていうのでわかっているらしいですね。

 男の子だそうです。

 その男の子は、将来、とっても美人な女王様の家臣となるのですって!

 公世子様は、微妙な顔をしていたらしいですけど、お家騒動から離れられると

 第二妃は喜んでいたっていう話ですね!」



 うん……

 多分、そのとっても美人の女王様は、現在進行形で私の中にいるこの子だろう。

 お家騒動か……完全に巻き込まれるし、ケガとかもしちゃうんだよね……

 第二妃には、是非とも強い男の子……いや、強そうな男の子だったな……

 強く逞しく、そして賢い子を生んでもらいたいものだ!




「それで、ナタリーの実家は、どちらの派閥につくことになっているの?」

「うーん、確か今は、中立派です。

 生まれてもないし、自我のない子の派閥になんて入れないからって!」

「そう、それがいいわ!」

「アンナリーゼ様は、何かお考えですか?」




 ナタリーは、私に問うてくるが、私自身はこのお腹にる子が女王様になると信じているので曖昧に笑い、人差し指を口の前に持ってくる。




「秘密!」

「あっ!ずるいんだ!」




 2人で笑いあう。



「ナタリー、また、こうして社交界の話、聞かせてくれる?」

「もちろんです!

 定期的にここに通ってもいいですか?」

「ホント!?

 それは、とても助かるわ!

 ジョージア様……あまり、情報通ではないの。

 だから……」

「皆まで言わずとも、わかっています!

 アンナリーゼ様は、ご自身とお子のことを考えてください!」

「ありがとう!

 そうだ!黒の貴族って知ってる?」

「あぁー隣国のバニッシュ子爵ですか?

 何かあるのですか?」




 私から名前が出たのに興味をひかれたのか、目がランランとしているナタリー。



「特に何かってわけではないのだけど……

 何か情報があったら教えてくれるかしら?」

「わかりました!

 気に留めておきますね!」




 ナタリーは、任せてくれと言わんばかりに胸を張る。





「ところで、アンナリーゼ様……

 大変言いにくいのですが、数名の女性に日銭を稼げる仕事ってないでしょうか?

 我が家でも探しているのですけど……なかなか……」

「それは、どういうこと?」

「あの、元旦那が誘拐してきた子たちなのですが……

 子供がいたり、実家の食扶持を考えて帰れなかったりする子たちで、

 なんとか、面倒を見てあげたいのですが……」




 私は、うーんと考える。

 この屋敷で雇うことは、可能だ。

 ただ、それをすると、デリアの負担が増える可能性がある。

 ただでさえ、忙しそうにしているのだ……




「その子たちは、何ができる?」

「一通りはできますよ!

 読み書きそろばんに、家事全般、メイドもできます。

 裁縫の得意な子もいますし……」

「ずいぶん、その子たちのこと知っているのね?」




 私は不思議そうにナタリーに聞くと、ナタリーにニッコリ笑われる。




「私の部屋で、一緒に立てこもってましたから!

 一通りできるよう仕込みました!」




 さすがは、ナタリーと言うべきなのだろう。

 一通りとなると……長くても1年半くらいしか結婚生活がない。

 朝から晩までとなると、みっちりついて教えたのだろう。



 ナタリーも結構スパルタなのね……

 思わず、ため息が出てしまった。




「どうかされましたか……?」

「うぅん……

 ちょっと、考える時間はもらえるかしら?」

「もちろんです!」

「あっ!そうだわ。

 もし、今、時間があるなら……手伝ってほしいことがあるのだけど……」

「なんでもいってください!」




 おもむろに重い体を起こして立ち上がると、大丈夫ですか?と、ナタリーはそっと私に付き添ってくれる。



 部屋の隅に置いてあった藤つるとカゴバックを持って戻ってくる。




「今ね、アンバー領で、藤つるっていうのがたくさんとれるから、カゴバックって

 いうものを作っているの。

 これ、私が作ったのだけど……

 上手にできたら、こちらで買い取るわ!

 請け負ってくれるかしら?」

「面白そうなことをされているのですね?

 いいですよ!

 伝えてみます!」

「ホント?嬉しい!

 あの、形はこれでなくてもいいの!

 みんなのセンスに任せるわ!」




 私が作ったものは、ナタリーが持って帰って、見本はそのまま見本として使うようだ。

 材料もたくさん持って帰るようで……

 これは、期待できると思う。

 女性の感性は、こういうの作るときには抜群に冴える。

 それに1人でなくて何人もいれば、知恵も出ておもしろいものも出来上がるのではないかと期待が籠ってしまう。




「アンナリーゼ様に相談してよかった……」

「そう?まだ、答えは出てないけど……」

「いいのです。

 何もしないことがダメなので、少しでも手慰みがあれば気分も晴れるでしょうし、

 自分なりに何か見つけられるきっかけになるかもしれませんから……」

「まだ、女性は、社会ではなかなか目立った活躍はできないからね。

 いつか、女性が、活躍するような時代が来るといいわね!」




 私達は、未来を想い笑った。

 その未来は、きっと、ナタリーのような女性が増えて、くるだろう!

 道のりは、厳しいのかもしれないけど、私も支援できることはしていきたい。



 女性の未来は、明るいのかもしれない。

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