第159話 寂しい日

 今日は、ジョージアとソフィアの結婚式だ。

 なので、私は、1人、屋敷にてお留守番中である。




 ジョージアは、今晩は、別宅に泊まる予定でだとディルから聞いているので、夜も1人だと聞いている。

 明日の朝には、何食わぬ顔で、ジョージアは私の元へ帰ってくるのだろうか。

 こればっかりは、責めることもできない。

 わかっていて、結婚したのだから……



 それでも、寂しいことには変わりはないのだけど……



 1日が長くて仕方がない。

 何をして過ごせばいいのだろう……?

 窓辺に椅子を移動させ、日向ぼっこを始めたものの、すぐに飽きてしまった。




 確か、殿下とシルキーも今日が結婚式だったように思った。

 少しずつお腹が出てきた状態で、何日も馬車に揺られるのは、キツいと判断したというか、ジョージアにダメって言われたので、殿下には、参加できない旨の通知をしてある。




 シルキーには、よくよく説明すると殿下の手紙は書いてあった。




 そういえ、殿下も来年、政略結婚を強いられるのよね……

 大丈夫かしら?

 それもかなり気性の激しいタイプだったと『予知夢』でみて記憶している。

 まさに、ソフィアタイプだ。



 私は会ったことないけど、兄の手紙には、そのようなことが内々に進んでいるとか言う話が書いてあった。




 他人事では、いられない私としては、シルキーに是非頑張ってもらいたい!

 まぁ、シルキーの心は、殿下に向いているし、殿下もシルキーへの愛情はたっぷりと注いでいると聞いている。



 あの二人は、揺るぎはしないだろう。

 でも、子供は生まれるのよね……第2王子。

 その子が内乱をっと思うと、今の時点で阻止したい気もする。

 阻止できないのは、王妃の後ろ盾となったフレイゼン侯爵でも勝てない政治的要素が大きいということなのだ。





 それにしても、ジョージアとソフィアの結婚式が気になる。

 1人でいれば、余計に……



 ソフィアは、私達の結婚式のとき、何をして過ごしていたのだろう……?

 こんな気持ちで、ずっといたのだろうか?

 黒薔薇を届けたということは、騒動が起こるとほくそ笑んでいたのだろうか?



 あぁ、黒い気持ちがどんどん浮かんできては、首を振っているを繰り返している。

 精神衛生上よろしくないし、私がこんなに不安定だと、胎教にも絶対よくない。




「デリア、何かおもしろいお話ないかしら?」



 そうは言っても、デリアは私とほぼ一緒にいるのだ……

 同じ内容の話しかないだろうと思っていた。




 すると、報告があると言ってきたのだ。




 夏の終わりにした男性陣とのお茶会で、話題になっていたソフィアの妊娠。

 最近、乳母を雇ったという話であった。




 私は、ジョージアがマーラ商会での注文を聞いていたので、妊娠は知っていた。

 報告を聞くうえで、知らないふりをしておく。





「あらあら、今日、結婚式なのに……」




 なんて、他人事のように話していると、デリアは、辛そうにする。




「旦那様は、あんまりです!

 アンナ様と同じ時期に出産予定にするとか!」





 さすがに予定までは知らなかったので、私と同じ時期だと聞いて驚いた。





「デリア、怒らないで……

 いいのよ、それで」

「何故、アンナ様は、ジョージア様を責めないのですか?」

「未来が、わかってるからかしら?」




 お腹をさすりながら、ぽつぽつとデリアに私の『予知夢』の話をしはじめる。

 そろそろ、デリアも私のカラクリを知るときだと思った。





「アンナ様……

 それは、本当ですか?

 そのお腹の子が、生まれたら、ジョージア様に見向きもされなくなるって……

 そんな、そんな酷いことを旦那様が?」

「あくまで『予知夢』よ?

 本当に起こるかどうかは、未定。

 今までも何度も修正がかかっていて、私の見た『予知夢』とは変わって

 きていることもたくさんあるから……」




 そんなぁ……と、落ち込むデリア。

 自分のことのように考えてくれるデリアをそばに呼ぶ。

 そして、その手を取り、私のお腹に触れさせる。




「この子が生まれたら、さらに協力が必要なの。

 デリア、お願いできるかしら?」





 ちょうど、そのときお腹がほっこりあったまったような気がした。





「あなたもお願いしてくれているのかしら?」





 思わずふふっと笑うと、デリアも少し笑っている。




「もちろんです!

 私は、いつまでもアンナ様とお子様の側にいます!」

「よかったわね!

 あなたには、生まれる前から、たくさんの協力者がいるのよ!

 元気に生まれて、皆に愛されないとね!」





 私とデリアは、微笑みながら午前は、ゆっくりした時間を過ごした。





 午後に入ると、ヨハン教授が訪ねてくる。

 診察に来てくれたらしい。




 屋敷には住んでいるが、ここでも、基本的にいろいろな研究をしているそうだ。

 なので、忙しくほとんど屋敷にいない。




「アンナリーゼ様、どうですか?」

「どうって言われても……

 特に変わりなくかしら?

 最近は、悪阻も良くなったみたいで程ほどに食べて歩いているところ」




 私の話を聞きつつ、体のあちこちを見てくれる。




「特に問題なさそうだ。

 子供も順調そうだし、無理はしない、ストレスは溜めない、

 これから、さらにお腹が大きくなってくるから、動きにくくなる。

 十分気を付けることだ!」

「ありがとう!」





 あぁ、とヨハンは返事をしている。




 腰に手を当て、ざっと私の部屋を見て回る。

 ヨハンが何をしているのか……不思議に思ったが、その様子を見ていた。




「メイド!」

「私ですか?」

「そうだ!そこの花瓶に刺さっている花、

 ホオヅキではないか?

 この時期には、珍しいと思うのだが……」




 ヨハンが言ったホオズキを私も見ている。

 東の国の方によくある花で、身がなると有名な植物らしい。

 花屋にお勧めされて買ったとかで、私の部屋にも飾ったのだが、問題があるらしい。





「あまり、その植物は、妊婦にはよくない。

 即刻、屋敷から排除した方がいい。

 できる限り、花や植物は、毒性のないものを選んで飾るように!

 今が、1番危ない時期なんだ。

 みんなが気を付けないと、アンナリーゼ様事態が危ないことになる。

 肝に銘じよ!」




 ヨハンのこんな険しい顔を見るのは、初めてた。




「ありがとうございます!

 また、イロイロ教えてくださいね!」

「それは、構わないが……

 食べるものにだけ気を付けていればいいってわけではない。

 着るもの、身に着けるもの、化粧品に部屋に飾られるもの。

 すべてに気をつけなさい。

 アンナリーゼ様は、ただでさえ、狙われているのだから……」

「わかりました。

 気を付けます!」




 それじゃあと、忙しそうに出ていくヨハンの後姿を見送るのであった。




「化粧品にも毒?」

「何に含まれているか、わかりませんね……

 私も、もっと気を付けるようにします!」

「そうね……私も、勉強が必要みたい……」




 2人で、猛省するのであった。




 その日は、ヨハンの教えで、イロイロな毒などを洗い出した。

 なかなかの量だった。



「ねぇ、デリア。

 なぜ、私が狙われるのかしら?

 あちらも、ジョージア様との子を宿しているなら……」

「考えにくい話ではあるのですが、ジョージア様の子供とは、

 違う可能性が高いのでは、ないですか?」

「ジョージア様が、一晩いなかったのは1日だけよ」

「結婚式以降、スケジュール管理も見せていただいたことはありますが、

 ほぼ屋敷で、アンナ様と過ごしてらっしゃいます」




 2人で、うーん、うーんと唸って考えている。





 そうは言っても、生まれてしまえば、アンバーの子となるだろう。

 他に証拠らしい証拠があれば、違うのかもしれないが、ジョージア自身、子供のためにいろいろと準備をしているということは、身に覚えがあるからだろう。



 しかし、今、ソフィアのお腹にいる子が、『予知夢』でみたあの男の子だとすると……ジョージアの要素が一つもない。



 私には、領地へ移動した後、黒の貴族と茶飲み友達にならないといけない理由ができたようだ。

 それを心に留めておく。




 そろそろ、寝よう。

 このまま起きていてもあまり、いいように思えない……



「デリア、もう寝るわ!」

「そうですね!そのほうがいいです。

 ごゆっくりお休みください!!」

「おやすみ……」




 私の部屋の明かりをすべて消して、私に布団をかけて部屋を出ていくデリア。




「おやすみなさいませ、アンナリーゼ様」




 その言葉を聞いて、私は眠りについた。

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