第136話 結婚式 ~ フラワーシャワー ~
大聖堂から、廊下へと退出した私とジョージアは、ホクホク顔だ。
たくさんの拍手と参列した皆におめでとうっと祝福され、幸せな時間を過ごした。
「緊張もしましたけど、皆にお祝いされて幸せですね!」
「あぁ、そうだな……」
「ジョージア様?」
「いや、幸せすぎて……俺、怖い……」
へなへなっとしゃがみ込んでしまったジョージア。
思わず、私は、笑ってしまった。
「それって、女性が言う場合が多いと思うんですけど……」
下から私を覗き込むように見つめてくる。
「アンナさん、女性男性関係なく、幸せすぎて、未来が怖くなることも
あるんだよ?」
「そんなものですか?
私は、今も幸せですけど、明日はもっとジョージア様と一緒に幸せになれる
はずなので、怖くはありませんよ!」
ジョージアに手を差し伸べると、私の手を取り立ち上がる。
「そう思いませんか?」
「……そんな気がしてきた。
今日より明日、アンナと幸せになれることを考えよう!」
私だって、今の幸せは、怖いくらいだ。
『予知夢』で未来は知っているから、予防策やらなんやらと転ばぬ先のなんちゃらーと必死に手を打ってきているのだ。
今は、その『予知夢』さえも変わってきているし、私の気持ちも変わってしまっている。
だから、いつ、どこで、何が起こるか、分からなくなってきているのも現状だった。
「ジョージア様は、明日、何したいですか?」
「明日か……
アンナと1日だらだらとしていたいな……
遅めの朝食をとって、おやつを食べてって……
ずっと、ベッドの上でもかまわないな……」
明日のことを考えてジョージアは、上の空にブツブツとつぶやいている。
「じゃあ、そうしましょう。
明日は、1日公爵も公爵夫人もおやすみです!」
「アンナらしい、何とも雑だな……」
「雑って、失礼ですね!」
「はいはい、とっても素敵な提案をありがとう。
奥様にそういってもらえると、俺も助かるよ。
一日中、奥様を愛でれそうだ!」
「!!」
墓穴を掘ったのだろうか……
不敵に笑うジョージア、逃げ場を失う私。
いつかは、というか、今晩だ。
「意味はわかるよね?」
耳元で囁かれると、それが答えだというかのように、私はボンっと赤くなってしまった。
それも、全身だ。
「なによりだ!」
意地悪そうに笑うジョージアは、いつもより少し強引そうだ。
私どうなるんだろう……
自分が心配になってくるのであった。
そんな私をよそに、フラワーシャワーの用意ができた呼ばれる。
「フラワーシャワーにも意味があるんだって」
「そうなんですか? 物知りですね?」
「まぁ、調べたからね……
せっかくアンナとの結婚式だからね、
アンナには、特別な想い出にしてほしかったから……」
「ジョージア様って、ロマンチストですよね。
そういう気遣いも嬉しいですけど。
それで、どんな意味があるんですか??」
本当にいろいろ私のために準備をしてくれる。
そのことが嬉しくて、尋ねてみることにした。
「フラワーシャワーには、花の香りで周りを清めて、新郎新婦を悪魔や邪気から
守るって意味があるそうなんだ。
元々は、食べ物でしていたらしいよ?
食べ物に困りませんようにって」
「そうなんですか?
じゃあ、ジョージア様は、私が食べ物に困らないようにちゃんとお仕事
してくださいね!
私は、ジョージア様を守って差し上げますから!」
くっくっく……と、ジョージアはお腹を抱えている。
「……実にアンナらしいな……
俺は、守られる側なのかい?」
「ご不満ですか?
きっと、私は、ジョージア様より強いですよ!」
「まったく、うちの奥さんは、お転婆だことだ……
何かあれば、大人しく守られるよ!」
なんて、笑っている。
大聖堂の扉が、開かれる。
少し階段があるので、足元が見えにくいこのドレスで降りるのは少し怖いなって思っていたら、体が急に傾いて驚いた。
「ジョージア様!?」
「大人しく抱っこされてて!」
そう、お姫様抱っこされているのだ。
私は、ジョージアにしがみつくだけだ。
正直、これも怖くて心臓がバクバクと大音量でなっているのだけど……ジョージアの足取りはしっかりしていたのでだんだん落ち着いていった。
階下についたら下ろしてくれた。
その様子を招待客に見られていたのかと思うと、今更ながらすごく恥ずかしい……
ちょっと俯き加減になりかけたとき、ナタリーの声が聞こえた。
「アンナリーゼ様、おめでとう!!」
それを皮切りに、招待客から次々におめでとうっと声がかけられる。
「アンナ、祝ってもらいにいこうか?」
ジョージアに手を差し出され、そこに私の手を重ねる。
「はい、ジョージア様」
二人は、歩き始める。
フラワーシャワーの下、祝福されるために。
「幸せですね……」
皆に笑顔を振りまき、手を振りながら、私はボソッと呟いた。
聞こえていたのだろう。
「あぁ、幸せだな……」
私とジョージアは、二人して、この時間をかみしめるのであった。
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