第137話 披露宴

 本日の主役である私たちも、貴族である限りは、順位を重んじる。

 披露宴会場に入場して最初に挨拶に行くべきは、両国の王太子と公世子のところへ行かなければならない。



「公世子様、本日は、私どもの結婚式及び披露宴にご参列いただき、

 誠にありがとうございます」



 まずは、自国であるローズディアの公世子から挨拶をする。



「あぁ、挨拶など構わぬ。

 アンナリーゼ、そなたは、やはり美しいな……」

「公世子様、ありがとう存じます。

 ジョージア様あっての私ですから、今後ともよろしくお願いいたします」



 嫁に来ないかとまた誘われそうだったので、やんわり先回りでお断りすると、公世子は苦笑いしジョージアは満面の笑みである。




「アンナリーゼ!」




 聞き覚えのある可愛らしい声が、私を呼んでいる。




「シルキー様!

 今日は、一段と可愛らしいですね!」

「褒めてないぞえ?

 わらわも、このたび秋に結婚することになったのじゃ!

 もう、大人なのだよ!」




 胸をそらせてえっへんと声が聞こえてきそうないで立ちで私に「大人」を強調する。

 本当に可愛らしい公女様だ。





「本当ですか?

 おめでとうございます!」

「ありがとうなのじゃ!」




 シルキーは私がプレゼントした、アメジストの髪飾りをしてくれていた。

 そこに殿下もシルキーを連れ戻しにやってくる。




「シルキー!

 アンナが挨拶に来るまで座っている約束だったはずだよ?」

「すまぬのじゃ……」




 しょぼくれているシルキーと私は、手を繋ぐ。




「殿下、いいではないですか?」

「いいわけなかろう……」




 殿下は、そなたらは……と呆れもようだ。




「ハハハ……ジルベスターもシルキーには、手を焼いているようだな!」

「兄上は、失礼なのじゃ!」




「まぁまぁ……その辺にしてくださいね。

 来賓の方々が驚いてらっしゃいますから……」




 ジョージアが間に入ったことで落ち着いた。

 そこに、ハリーも加わって、殿下とシルキーを自席へと連れ戻してくれた。




「悪いことをしたな……

 ジョージアにアンナリーゼ」

「かまいませんよ。

 シルキー様は、とてもアンナのことが気に入っているようですね。

 素敵な髪飾りでした」




 公世子は、髪飾りに重きをおいたジョージアの真意がわかりかねていたが、ジョージアは、気づいたようだ。

 私がプレゼントしたものだと……

 今日、来ている中で、アメジストの宝飾品を持っている人は、7人いる。

 きっと全員気づいているのではないだろうか……



 ジョージア様って、目ざといなと思ってしまった。



 公世子のあとは、トワイス国の王太子に婚約者である公女シルキー様に挨拶だ。



「アンナ、おめでとう!」



 挨拶しようとして、先に言われてしまう。



「殿下、ありがとう!

 シルキー様もハリーも今日は、来てくれてありがとう!」



 隣でジョージアが、挨拶しなおす?と聞いてくるが、いいと思うと返事をすると、3人に向かって、参列してもらったお礼だけ述べていた。




 そのあとは、しつらえられた席に座り、挨拶を受ける側になる。

 たくさんの貴族が、私達への祝福の言葉を述べてくれるので、笑顔でずっとありがとうを言っていた気がする。



 爵位の低い私の友人たちが最後の方で挨拶に来てくれた。

 そのころには、私達はぐったりしていたが、5人の顔を見れば、私はパッと元気になった。




「あぁ、アメジスト……」




 隣でジョージアが呟いている。

 そう、最初にアメジストを渡したウィル、セバス、ナタリーの3人だ。

 あと、ティアとニコライが一緒に来てくれた。



「姫さん、結婚おめでとう。

 招待してくれてありがとう!」

「アンナリーゼ様、おめでとうございます!」

「アンナリーゼ様、素敵なお式でしたわ!」




 いつもの3人は気安いのでポンポンと自分たちの言いたいことを言っていく。

 それでも、話がかぶらないのは、さすがだと思う。




「3人ともありがとう!」




 その隣で、そわそわしているティアが、私のドレスに関心を持ったようだ。




「アンナリーゼ様、ご結婚おめでとうございます!

 そのドレス、とってもお似合いですね!

 じっくり、拝見してもいいですか?」

「ありがとう、ティア。

 相変わらずね……好きなだけ見てくれて構わないわ!」




 ティアは、許可を出すとこれでもかってくらいに目を見開いて、ウエディングドレスを見ている。

 きっと、宝飾デザイナーとしての血が騒ぐのだろう。

 好きに見て、次のデザインに生かされれればいいなと思って自由にさせた。




 そして、ニコライだ。




「ジョージア様、アンナリーゼ様、ご結婚おめでとうございます」

「ニコライ、ありがとう!」




 お礼を言ったあと、私は小声でニコライに話しかける。




「ニコライ、指輪の手配をしてくれてありがとう……

 すっかり、忘れていたの。

 おかげで助かったわ……」

「とんでもないです。

 ジョージア様と結婚式のお話をしていたときに聞いたら、まだ用意されてないと

 お聞きしたので、僭越ながら、ティアと相談してご用意しました」

「やっぱり、ティアの作品なのね。

 指輪の装飾をみて、そうじゃないかなぁ?って思ったの。

 ティア?」

「はい、なんでしょうか?」




 私のウエディングドレスに夢中なティアは、生返事だ。

 そんなティアにクスっと笑ってしまう。




「指輪、ありがとう!

 とても素敵なデザインで、気に入ったわ!」

「本当ですか?

 私、アンナリーゼ様に似合うものを……と、考えて作ったのです。

 よかった……

 お二人を象徴する青薔薇のイメージがあるので、リングの外側は薔薇を

 中には、青のイメージと結婚指輪にはよく使われるのでサファイアを

 あとは、アンバー公爵の紋章とアンナリーゼさまには、永遠の愛を

 意味するダイヤのハーフエタニティにしました。

 本当は、エタニティにしたかったのですけど、アンナリーゼ様は、

 剣も握られるので……」




 ティアは、私のことをよく考えて作ってくれていてとても嬉しかった。



「そんなに考えてくれていたのね!ありがとう!

 大切に使わせてもらうわ!」



 ティアは、はにかんだように笑う。

 隣で、ニコライがよかったなって声をかけていた。

 おやおや?と思ったが、茶化すものではないので、あたたかく見守っておくことにした。




「アンナリーゼ様、指輪見せてください!」




 ナタリーは、興味があったらしく、ジョージアと私はそれぞれナタリーの前に左手を出す。

 外側だけでも素晴らしい意匠となっているのだ。

 宝石を見慣れているであろうナタリーも感嘆していた。





 私の友人で、挨拶は終了した。




 それぞれ用意したテーブルにて、コース料理を食べて歓談してもらう。

 私達の披露宴は、そのようなスタイルですることにした。



 私達のところへ来てもいいのだ。

 たくさんの人に囲まれながら、楽しいひと時をおくる。 






「では、これよりウエディングケーキのケーキカットを行います!」






 来賓館の取り仕切りをしている執事が、声をかけた。




 とっても大きなウエディングケーキにもあっけにとられたが、追い生クリームができるようになっている私仕様だった。




「ジョージア様とアンナリーゼ様の初めての共同作業です。

 皆様、どうぞ、前の方まで来ていただき、ご観覧ください!」




 おっと、見世物になったよ……と、思いながら、笑顔を振りまく。

 この後のファーストバイト……生クリームをたっぷりのせてもらうことを考えながら……ジョージアと一緒に大きなナイフを手に取りケーキに切り込みを入れる。

 そのあとは、しばらく笑顔をふりまいた。




 うまく切り込みが入ったようで、とても綺麗な切り込みとなった。




「続きまして、ファーストバイトです。

 新郎から新婦へのファーストバイトは、「一生食べるものには困らせません」と

 いう意味がこめられ、

 新婦から新郎へのファーストバイトは、「一生おいしいものを作ります」という

 意味が込められています。

 では、新郎ジョージア様から、新婦アンナリーゼ様へ食べさせてあげてください!」




 その掛け声で、ジョージアは私のためにスプーンで生クリームとフルーツを取ってくれた。

 追いクリーム!と思っていたら、ジョージアが指でちょいちょいっとメイドを呼んで、クリームを追加してくれた。

 おかげで、結構な量になったが、私の目は、きっと光り輝いているだろう!




「奥様、あーん」

「あーん!」




 パクっと口の中にほぼ生クリームを入れてくれる。

 あぁ、幸せだ……とろけるような笑顔をジョージアに向ける私。




「本当に好きだね……生クリーム……」




 私は、口の中で、生クリームを堪能している。

 口元についていたのか、ジョージが拭ってくれた。




「では、新婦アンナリーゼ様より新郎ジョージア様へのファーストバイトです!

 これ、使ってくださいね!」



 渡されたスプーンは、私のときの3倍はあろうかというものだった。

 ジョージアは、ひいていた。




「少しにしますからね?」




 私の言葉もむなしく煽られる。




「新婦から新郎へのファーストバイトは、その量により愛情を表現するとのこと!」




 えっ?っと私もジョージアも困ってしまう。




 甘いものがあまり得意ではないのだ……




「ジョージア様、ごめんね!」




 そういってガッツリ、ケーキをすくってしまった。




「私の愛を受け取って!」




 殺生な話ではあるが、結構な量をジョージアの口にねじ込んだ。

 今も懸命にモゴモゴとしているジョージア。





「アンナリーゼ様のジョージア様への愛はとっても大きいようです!」





 煽った執事を軽くにらみ、大丈夫?とジョージアに尋ねる。

 うんうんと頷いてくれているが……




「飲み物、くださーい!」




 飲み物を手に私は、ジョージアの背中をさするだけとなった。




「ごめんね……」




 小声で謝るけど、ジョージアはまだ口いっぱいにケーキが入っているので、口角だけあげてこたえてくれるのであった。

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