第127話 帰省

「クーリス!」

「あぁ、わぁぁああ……」

「可愛いわね!見て!この手。

 ちっちゃい!!ぷにぷにしてる!

 ほらほら、お兄様!!」

「アンナ、落ち着け!」



 クリストファーを抱っこして、私は、ふにふにと触っているところだ。

 なんて、かわいい生き物なんだろう……



「クリスは、アンナがお気に入りのようね。

 一回も泣かなかったものね!!」

「そうなの?」

「そう……僕、毎日泣かれるんだよ……」



 疲れた顔を見せているのは、兄のサシャだ。

 エリザベスは、すっかりお母さんって感じで優しくクリスを見て微笑んでいる。



「クリスー!アンナおば……お姉さんだよー」

「いや、アンナはおばさんだろ……?」



 ちょうど私の横に座っていたので、うっかり兄の足をかかとで踏んでしまった。



「いったぁー!!」

「ふぇ……ふぇ……」

「あ……あぁ、もぅクリスが……お兄様のバカ!

 よーしよし、いい子ね……泣いちゃダメよ?

 ほぉーらほら!

 クリスは、いいこでちゅねぇー」



 エリザベスは、あやしている私をみてクスクス笑っている。

 私のあやしかたがよかったのか、ギリギリ泣かれずにすんだ……



「サシャとあやしかたが、そっくりね?」

「僕は、アンナほど下手じゃない!」

「アンナの方が上手よ?

 クリスが泣かないもの」



 柔らかく笑うエリザベスと、そんなことないよとぶつぶつ言っている兄の仲がとてもいいことにホッとする。

 兄も悩んでいたことがなんとか、乗り越えられたようで朗らかになったようだ。




「じゃあ、そろそろエリザベスのところに行こうか?」




 エリザベスにクリスを渡そうとすると、今度は完全に泣いてしまった。




「よっぽど、気に入ったみたいだな……

 ホント、アンナのことがクリスは、大好きになりそうだ……」

「迷惑そうですけど、いいじゃないですか?

 私、甥っ子は、可愛がりますよ!」

「おばさん!って言われても?」

「そこは、アンナさんって呼ばせますから大丈夫です!」




 兄妹で言いあいをしている間に、クリスも泣き止んだようだ。

 私をみて、やっぱり、あぁあぁーって手を伸ばしてくる。




「ホント、気に入られたな。

 どこにいても誰にでもモテるんだなぁ……」

「お兄様とは、顔のつくりは一緒ですけどね?」




 兄妹は、それぞれの顔を見あって笑いあう。




「あなたたちってホントに仲のいい兄妹ね!」

「エリザベスに言うのもなんだけど、お兄様の大好きですから!」



 テレもなくまじめに言うと兄も、あぁ、僕もだ、と返してくれる。



「あっ!でも、ブラコン、シスコンとは言わないでくださいね!

 普通の兄妹ですからね!」



 はいはいと、温かく微笑むエリザベス。

 こんな私達を温かく見てくれているあたり、あぁ、やっぱり私の目に狂いはなかったなぁと思う。





「じゃあ、そろそろ、仕事の話でもしようか?」




 兄の一言で、空気が変わる。

 そう、私、ただクリスを愛でるためにきたのではない。

 殿下とシルキーに会うことと、今後の資金提供について話をしないといけない。

 あと、『エリーゼの手紙』も預かっているとのことだったので、それらの処理もしないといけない。

 


 私、こう見えても、仕事しにこっちに戻ってきたのよね……



 クリスが、エリザベスによって別室に連れていかれる。

 ものすごく泣き叫んでいるけど、今は、心を鬼にして、働くのだ!

 夜には、殿下に会うことになっているし、結構忙しいの……



 あぁ、クリス……クリス……

 初めてのクリスは、可愛くて仕方がなかったのである。




「じゃあ、まず、資金提供の話からしようか?」



 隣に座っていた兄が、先ほどまでエリザベスの座っていた反対側に座りなおす。



「そうね。これは、まだ、動けていないのだけど、予定では、領地改革にうちの資産の

 4分の1くらいは必要になると思うわ。

 今の公爵家には、それをまかなえるだけの資金はないと思う。

 どこか、おもしろい投資先は、ある?」

「父上と話してたところだと、短期間で稼げるとしたら、やはりエルドアじゃないかって

 話だよ。クロック伯爵が、何かやるようでだから、乗っかろうとしている」

「クロックというとエリーゼの嫁ぎ先ですね?」

「そう。ただ、アンナが予想している通り、内乱も戦争もあると考えると……

 本当に短期的に考えるべきだろう。

 被害が大きいのは、エルドアだという話だったからね」

「そうですね……

 あとは、何かありますか?」

「約束してた資金提供だけど、僕の資産で……これくらいならいけるよ!」



 指で示されたのは7だった。



「7億?」

「そう。ローズディアで儲けさせてもらった分。

 これは、もう、現金でとってある」

「さっすが、お兄様!」

「実はな、ヘンリー様もへそくり出してくれるって……」



 指で示されたのは3だった。



「ハリーが?3億?」

「そう。殿下もとは言ってたけど、さすがに断った」

「それが正解ですね……」



 私が出せる資金は10億、お兄様とハリーで10億。

 今後も投資で増やす予定ではあるので……

 とりあえず、目下の20億でなんとかなるだろうか?

 いや、なんとかしよう……

 あと3年ある。

 知恵を絞ろう。

 できる限り……みんなが、喜ぶ方法を考えて……



「お兄様、ありがとう。

 なんとか、やりくりしてみるわ!」

「あぁ、できる限りは支援するよ。

 人材も育っているしね、そこは心配いらない」

「ふふふ……お兄様、なんだか、頼もしくなりましたね!

 エリザベスともうまくいっているようだし、安心しました!!」

「アンナのおかげだよ……

 偉大だよね……僕の妹って!」



 褒めて褒めてというと、調子に乗りすぎだと兄に叱られた。

 そんなやり取りもやっぱり嬉しくて、やっぱり、私のお兄様って偉大よねって心の中で返すのであった。

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