第124話 久々に会う友人たち

「あらあら、大胆だこと……」





 大広間の扉の前、センスで顔を隠していたこのご婦人は、見覚えあるアメジストの指輪をしていた。

 ざぁーっとセンスをたたんだ、婦人はナタリーであった。




「ナタリー!!」




 私は思わず、ジョージアの手を解き、抱きついてしまう。

 ナタリーもしっかり私を抱きしめてくれる。




「アンナリーゼ様!

 お久しぶりです!お元気でしたか?」

「もちろん、元気よ! 会いたかったわ!」




 すっかり、奥様になっているナタリーは、落ち着きはらっている。

 もう結婚したと聞いていたため、なかなか、会う機会がなかった。





「ナタリー、そちらは誰だい?」

「旦那様……隣国トワイスのフレイゼン侯爵令嬢のアンナリーゼ様ですわ!

 アンバーの若様の婚約者ですので、くれっぐれも変な気を起こさないでくださいね!」



 その一言で、ナタリーが苦労してるようだと思ってしまう。

 旦那様と呼ばれた人は、卒業式のときに一緒にいた男性であった。

 ナタリーによって協調された口調に私は、ナタリーの生活の一端を見たような気がした。

 


 どこのご婦人も大変なのね……チラッとジョージアを見る。



「初めまして、ナタリーの友人で、アンナリーゼ・トロン・フレイゼンと申します」

「これはご丁寧に……ナタリーの夫で、チャギル・エスティラと申します」

「チャギル殿、ナタリーを少しお貸しいただいてもよろしいですか?

 久しぶりに会ったので、お話したいわ!」

「あ……あぁ、はい」



 私は、ナタリーを連れて、そそくさとバルコニーに出た。

 チャギルに頭から爪先まで、撫で回すかのごとくネットリした視線がたまらなく嫌だったからだ。

 顔にはおくびも出さず、絶えず微笑んでいたが……

 ジョージアは、そのまま置いてきた。

 振り返ると、ジョージアもなんだか微妙な顔をしている。



 頑張れ!ジョージア様!



 心の中で応援はしたが、目の前にいる久しぶりに会ったナタリーのほうが優先だ。





「アンナリーゼ様、申し訳ありません。

 あんの、下衆。

 アンナリーゼ様に失礼のないようにあれほど教育したのに!!」

「あの、ナタリー?」

「なんですか?」

「いえ、なんでもありません!!」



 むしろ、私、タジタジなんですけど……ナタリーの豹変に。



「あの下衆は、私が初婚ですけど、子供は数えられるだけで20人くらいいるのですよ。

 若い女の子を拐ってきては……って話です。

 なので、相当、教育しなおしたのですよ……

 なのに、ホント、治らないのですね……」

「教育って……

 そんな話、私にしてもいいの?」

「いいですよ。あと半年すれば離婚できます。

 私は、親の政治の道具にされたんです。

 でも、それも、もう義理を果たしましたわ!」




 ナタリーは、少し寂しく泣きそうな顔で笑っていた。

 ぎゅっと抱きしめる。



「ナタリー!

 私、何かしてあげられることない?」

「ありがとうございます。

 私は、大丈夫ですから……

 ここだけの話、初夜で思いっきり蹴飛ばして差し上げました」



 ふふっと笑うナタリー

 それ以降は、チャギルはナタリーの部屋にも近づかないらしい。

 ただ、こういう夜会では、ナタリーを連れて歩かないと外聞が悪いため、仕方なく付き合っているということだ。



「そういえば、セバスには会いましたか?」

「セバスにも会えなくて……

 ウィルとはしょっちゅう訓練場で遊んでるんだけどね?」

「相変わらずですね……

 私もセバスと会えていなくて……」



 物憂げにため息をつくナタリーは、寂しげだった。

 その姿は、先ほど旦那を下衆と呼んでいたものとは全く違う恋をしているかのようだ。

 ナタリーって……セバスのこと?


 なんて思っても、私は恋愛初心者。

 なので、口には出さないでおこうと思う。




「いたいた!」




 バルコニーで手すりによっかかって二人で話し込んでいたところだったので、その声に振り替える。



「ウィル!

 ……と、セバス?」



 神経質そうな顔つきに変わっているセバス。

 仕事、大変なのかしら……?



「お久しぶりです。

 アンナリーゼ様、ナタリー」

「久しぶりね!元気にしてた?」



 ナタリーも話したいだろうが、私が先にセバスに声をかける。



「はい。おかげさまで……」

「ちょっと、疲れているんじゃない?」

「いえ……」




 それきり話が止まってしまう。

 セバスに声をかけようとしているのか、ナタリーがまごまごしている。




「セバス、お願いがあるのだけど……」




 私が再度声をかけると、何でしょうか?と億劫そうな目で見られる。




「忙しいなら、いいの。

 私、何年後かにアンバー領の街道整備をしたいと思っているの」




 目が、先ほどとは少し違うように光った気がする。




「それでね、今、考えているのは石畳の街道をと思っているのだけど、

 どれくらいの材料と人とお金があれば、いいのか見積もれるかしら?」

「それは、いつまでにできればいいですか?」

「急がないけど……年内にはもらえると嬉しいかな?」




 そこに、ウィルが話に興味を持ったようだ。




「ジョージア様とそんな話してんだ?姫さん」

「いいえ。していないわ!」

「じゃあ、何故そんな話をセバスに?」




 それぞれ疑問に思っているだろう。




「まだ、私が考えているだけだから、実行できるかはわからないの。

 でも、実行はできる限りしたいと思っていて……

 フレイゼン領みたいにしたいなって。

 セバスにも手助けしてもらえたらなって……

 ニコライにも声をかけるつもりよ!」




 ニコライの名前を聞いた瞬間、セバスの黒い靄のようなものが払えたように思った。




「ニコライにもですか?

 それなら、僕も是非に!」

「あなたたち、いいコンビになりそうね!」



 ここにはいないニコライを指して、セバスに微笑むと、嬉しそうに微笑み返してくれる。



「アンナリーゼ様、私も何か手伝えることがあったら、いってください!

 私だって、アンナリーゼ様の役に立ちたいわ!」



 ナタリーまで、関わりたいと言ってくれる。

 これは、嬉しいな……と思っていると、俺も!とウィルまで混ざってくれる。



「じゃあ、そのときが来たらお願いね!」



 3人に笑いかけると、任せてというかのように微笑んでくれる。







「あっ!でも、話を進めるのは、私がちゃんと離婚が成立してからにしてくださいね!!

 私だけ、のけ者とか嫌ですからね!

 早速、帰って、離婚の準備しなくっちゃ!!」





 ナタリーの逞しさには、私を含め3人で苦笑いをしたのであった。

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