第110話 両親がやってきた!

 結婚式の日取りや今後の準備、顔合わせなどなど目白押しになってきた夏の終わり、公都の屋敷に両親が訪ねてきてくれた。


 父は、一応、国の重鎮としてこの時期は予算関係で忙しいはずなのに、わざわざやってきたのだ。

 母は、父にそこそこ甘いので、今回の顔合わせへの同行を許可したらしい。

 代わりに兄を財務大臣の席に座らせてきたとか、冗談でもやめてほしい話をしている。



「アンナ!変わりはないか?元気にしていたかい?」



 体中をべたべたと触って確認をしてくる父。

 まぁ、私はいつものことなので全く気にしていなかったが、母に叱られていた。



「娘とはいえ、よそ様へ嫁に行く子をむやみやたらと触らない!」



 母に言われれば、しゅんとしながら父は大人しくなっていく。




「どうもすみません。うちの人、娘がとても大事で……」

「いえいえ、こんな素敵なお嬢さんなら仕方ありませんよ!うちでも、似たような

 ものですから……なぁ?ジョージア」

「ち……父上!何を言い出すんですか!!」

「何って、本当のことよね……アンナリーゼ。嫌なら、はっきり言った方がいい

 わよ!」



 義父にも義母にもうちの父と似たようなことをジョージアがしていると言われれば、少し可哀想だ。

 そこまで……ん?結構きわどいところまで、うちの父と同じようなことをしてくるな……と、思いなおす。



「嫌ではありませんけど、ちょっと……」

「ア……アンナさん?」

「なんですか?ジョージア様」

「……いや、なんでもないです」



 このやり取り聞くだけでも、仲良くなったもんだと私の両親たちは大きく頷いている。

 私たち、一応政略結婚という形になっている。

 ここまで、仲良くなるのは珍しいとか……なんとか。

 でも、両親も一応政略結婚となっているが、母が父を見初めたから始まっているので、恋愛結婚と言ってもいいだろう。



「本日は、ディナーを共にして、話し合いは明日にしましょう。アンナリーゼ、

 ご両親を客室にお願いできるかしら?あなたもそちらで家族水入らず、ゆっくり

 過ごすといいわ!」



 義母のすすめで、私は両親と一緒に過ごすことにした。



「ありがとうございます!両親とゆっくり過ごさせていただきますね!」



 ニッコリ笑うと、ジョージアも混ざろうとしていたのか、義母に今日はやめておきなさいと袖を引っ張られていた。

 どこの家庭でも、妻や母は、影の権力者だ。私はいまだに母にも義母にも頭が上がらない。

 そのうち私もジョージアに、アンナには頭が上がらないよ……なんて言われる日が……

 ……来ないわね。私たち、あと1年もすれば別居生活ですもんね!なんて、ことを考えていた。




 ◇◆◇◆◇




「お母様!!」



 客室に入ると久しぶりに母が恋しくなり抱きついた。今まで、こんなことってなかったのにだ。

 これもそれも義母に甘やかされているせいなのかもしれない。



「なんです?アンナ」

「恋しくなりまして……」

「まったくもう……」



 呆れながらも私を抱きしめてくれる母。珍しい私の様子に気づいてくれたのだろう。

 あぁ、お母様の匂いだ。



「あ……アンナ?」



 呼ばれたのでチラッと父の方を見る。

 寂しそうにソワソワしていたので、私は片方の手を父に向けて差し出すと、母も父に向けて差し出した。

 ニコニコと父も混ざり、三人で抱き合った。


 はぁ……落ち着く。



「それで、アンナ。こっちの生活はどう?」

「ありがたいことに、とても大切に、甘やかされているわ!」

「なら、よかったわ。辛くて、泣いていたら……と思うと、いたたまれなかった

 のよ」



 両親は、私のことをとても気にしてくれていたようで、それだけで胸がいっぱいになる。



「サシャが、ちょっと情緒不安定なのよね……あなた、何か知っていて?」

「お兄様ですか?責任感に押しつぶされそうなんじゃないですか?エリザベスの

 方が肝が据わってますから……」

「なるほどね……あの子、意外と心がメレンゲみたいだものね……」

「メレンゲってかわいそうじゃないか!せめて、ケーキくらいに……」

「どっちも変わらないですよ。柔らかすぎます……」



 ここにいない兄のことで三人は笑いあうと、今頃、兄はきっとくしゃみをしているんじゃないだろうか?とさらにクスクスと笑った。



「そういえば、エリザベスは大丈夫なのですか?そろそろ生まれるのではないですか?」

「えぇ、大丈夫よ。エリーゼが来てくれているから、私たち別にいてもいなくても……」

「そんなことないと思いますけど?」

「サシャがなんとかするでしょう。あの子も父親になるんですから私たちがいない

 からといって右往左往しているようじゃねぇ……?」



 三人は思い浮かべる。あぁ、右往左往してる……と、想像した兄が同じだったのか、ため息を同時にはく。



「や……やっぱり、早く帰った方がよさそうね……?」

「そうですね。そのほうがいいと思いますよ。それに、お兄様、私がいないとダメだ

 って、泣いてましたから……」



 両親は、そんな兄の心内までは知らなかったようだ。

 話してしまった手前、もう仕方がないけど、両親は驚いていた。



「お兄様の結婚式の夜に偶然厨房で会って、話をしたの。ちょっと、弱気になって

 たんだけど……まだ、不安なのかな……?」

「そうだったのね……普段、あの子は、私たちには弱いところを見せないのよ。

 エリザベスに対してもらしいわ。

 どこで弱音を吐いていたのかしらと思っていたら……」



 母は、私の話を聞きどうしたものかとこめかみを押さえている。



「違いますよ。私の前でも、お兄様は弱音なんて吐いたことないもの。だから、

 びっくりしたくらい。エリザベスなら、どんなお兄様も支えてくれると思うから、

 エリザベスが、お兄様に向き合えるまで、少しの間、お父様とお母様で支えて

 あげてください」



 わかったと請け負ってくれる両親に頷く。



「アンナ様、もうすぐディナーの時間ですのでご案内します」



 デリアが客間に入ってきて夕食の準備が整ったことを伝えにきた。私たちは、ジョージアたちの待つ食堂へ向かったのである。

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