第33話 商人ニコライの勘

 1時間くらい話をしていただろうか。

 ふと、視線を感じてそちらに視線を送るとそこにはティアがいた。

 ティアも友人を紹介したいのか、一人の男の子が一緒に待ってくれている。



「お話し中、すみません。少し席をはずしますね?」



 そう言って、あとは兄に任せて席を立つ。



「ティア、ごきげんよう」



 声をかけるのを待ってくれていたようで、まだかまだかとした顔をしていたのだ。



「アンナリーゼ様、やっとお話できました……

 あの……あちらの席は、もうよかったのですか?」



 ティアは、私の後ろのテーブルで歓談している人達をちらっとみている。



「えぇ、もう大丈夫。

 私がいなくても会話がはずんでいるし、聞きたい話もきけたから……」



 申訳なさそうにしているので、肩に手を置いて、少し場所を変えるようにティアを促す。



「それで? そちらの男性は、ティアのボーイフレンドかしら?」



 意地悪くティアに質問すると、顔を真っ赤にして違います!と、はっきり言われてしまった。



「こちらの方は、ローズディア公国の大店の方です。

 アンナリーゼ様を紹介してほしいと言われたので、紹介させてください!」

「えぇ、ティアの紹介なら、喜んで!」



 そう言って、一緒についてきていた男性に目くばせをする。



「お初にお目にかかります、アンナリーゼ様。

 私は、ニコライ・マーラと申します。

 ローズディア公国アンバー領でマーラという商会名で商いを父が生業にしております」

「アンバー領でですか? では、ジョージア様の領地の方ってことですか?」

「作用でございます。このたびは、ジョージア様と……」



 言いかけたことが何なのか大体察しがついたので、私は両手でニコライの口を塞ぐ。



「それ以上は、言わないで。当日まで内緒なの!」



 悪いことをしているようないたずらっ子のような笑みを浮かべて、私は注意する。

 ニコライは、了承したとコクコクと頷いてくれる。



「これは大変失礼しました。内密にされていたのですね。

 私としたことが、その情報を見逃していました……承認としては、まだまだのようです……」



 そんな風に評価しているニコライだが、その情報収集はすごい。

 ジョージアのことは、家族しか知らないのだから……



「別室で話しましょうか……人目もありますしね!」



 私とティア、そしてニコライが連れ立って間借りしている部屋へ移動する。


 部屋の扉を閉じて、やっと一息。

 それぞれの庭から自分用に飲み物やお菓子を持ってきて机に並べ席に着く。



「ニコライ、その情報はどこから仕入れたの?」



 私に聞かれるであろうことは、ニコライはわかっていたようだ。



「そうですね。夏季休暇中にうちにジョージア様より青薔薇の宝飾品が注文されました。

 それは、ソフィア様には似つかわしくなかったので、きっと別の方だろうと考えたのです」

「そこで、なぜ私なのかしら?」



 ティアも不思議そうに話を聞いている。



「見ていれば、わかります。

 ジョージア様の御心がどこにあるのかなんて。

 私は、直接ジョージア様とお話したことなどありませんが、アンナリーゼ様ならわかるのでは

 ないですか?」



 逆に問われてしまった……うん。分かってる。

 でも、それは今は誰にも言わない。そう決めている。



「そうなの? あなたには、そのように見えているのね。

 私は兄の友人として、ジョージア様を慕っておりますよ。

 恋慕ではありませんし、ジョージア様もそうでしょう?」



 少し圧力をかけておく。

 このニコライ、かなり勘がいいように思う。



「そうだわ!

 いつもお世話になっているジョージア様に私から卒業の記念に贈り物をしたいと思っていたの。

 請け負ってくれるかしら?」



 挑戦状ではないが、ニコライがどんな反応をみせるか見てみたくなった。

 この判断で、商人として大成するかどうかわかるだろう。



「承りましたと言いたいところですが、私は、ただの子供。

 店主に相談の後の回答でもよろしいでしょうか?」



 さすが、大店の子供だ。

 貴族からの注文は、無理難題が多いこともある。

 なので、きちんと対応できる店主が交渉を行うのが普通である。

 まずまずの及第点ね。



「それでいいわ。今日はあなたとお友達になれたことが私の収穫かしらね?」

「アンアンリーゼ様、悪い顔してますよ!」

「ティア、いい友人を紹介してくれてありがとう。気に入ったわ!」

「もったいなきお言葉。早速、店主へ連絡を取らせていただきます」



 ニコライは商人らしく、抜け目のない感じがする。

 ティアも商家の娘ではあるが、どちらかと言えば、職人に近いので駆け引きは苦手そうだ。



「では、よい返事を待っているわね!」



 そろそろ夕方になってきたので、お開きにする時間だった。

 私たちは、そのままこの部屋で解散することにした。

 ニコライとティアを見送って、私は少しだけ部屋で今日の出来事を回想する。

 ニコライを紹介してもらったことは、今後私にとって強みになるだろう。

 少しずつ距離を縮めていこうと思う。何せ油断ならない感じがするからだ。



「この出会いを吉とするよう、私の努力もまだまだ必要ね……」



 夕暮れになっているので、窓から入る光量も減り部屋も少しずつ暗くなってくる。

 そこで、一人ごちたのであった。

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