第32話 秘密のお茶会

 夏季休暇も終わり、久しぶりに会った友人たちと挨拶を交わす。

 ゆくゆくはローズディアへの移動が確定しているので、そちらの友人はたくさん作っておいて損はないので積極的に声をかけていたが、その思惑をよしとしないというか、友人を作ることをよしとしない殿下に結構邪魔をされ続けている。


 そ・こ・で・だ!


  庭師の庭が役に立つ。


 中庭の奥へと続く道を歩いていくと、薔薇の小道がある。

 そこを抜けると、庭師たちの寮があるのだ。

 私は。庭師長にお願いして、一室間借りしているのだ。

 ちなみにこの庭師長は、私の茶飲み友達でもある。

 ゆくゆくは、私の手の打ちへと引き抜くつもりだ。


 そして、今日は、ありがたいことに殿下が補習へ向かったので、こっそり集まるにはちょうどいい。

 兄に声をかけ、いつも一緒にいるトワイス国の女の子の友人たちの一部となかなか交流を持てないトワイス国の男の子とローズディア公国の友人たち、一般学生の友人を誘って秘密のお茶会としゃれこむことにした。


 ここでは、主に両国の噂話の収集、剣での模擬戦、ボードゲームなどをしてゆっくり遊ぶのが目的だった。

 自然と身分の低いものが集まる傾向がある。


 1年生の頃に比べれば、友人が信用のおける友人を招くことも許可しているので、だいぶ規模も大きくなってきた。

 間借りした一室では賄いきれないので、最近では、天気のいい日に外での開催となる。

 このお茶会では、学園も融通を利かしていろいろと備品を増やしてくれている。



「姫さん、手合わせ願いますか?」



 模擬剣を持って私の前に歩いてきたのは、ローズディア公国子爵子息のウィル・サーラー。

 この青年、実はとっても強い。

 そして、頭も相当切れる。

 さらに言えば、子爵家三男なので実家を継ぐこともないので、ゆくゆくは、引き抜きしたいと思っている人物だ。



「いいですよ。では、いつものように3本勝負でいかが?」

「望むところ!! 手加減は無用だから!」



 そう、とっても強いウィルなのだが、今のところ、私のほうが強い。

 1年生の授業で勢い余って、ウィルを相当コテンパンにしているくらいなのだ。

 ウィルには、最初のころ、じゃじゃ馬だの女じゃないとか、相当罵られたものだ……

 今では、私も手加減も覚えたので、授業ではいつも負けることにしている。

 ウィルの実力を買ってこのお茶会に誘うことに決めたのだが、手加減していることがあだになり誘ったのにしばらくは素直に来てくれなかった。



 なので、お茶会が始まると、まず3戦するというのが二人の中で取り決められた。

 男の子なので、だんだん体つきもよくなり、力も強くなってきているので、今では勝つのもやっとになってきた。


 そろそろ、負けそうだ……私も、負けてもいいのになそう思う。

 負けず嫌いの私は、負けたくないとウィルに模擬剣を今日も振るう。



「はぁ……今日も負けた……こんなんで騎士団入れるのか……?」

「大丈夫よ。騎士団に入らなくても私が引き抜いてあげますから!」



 いつものように、私は腰に手を当て大仰にウィルを見下して決まったセリフを言う。

 ここまでがいつものやり取りなのだ。

 そして、ウィルが私のいうことを真剣に取ってくれていないのもいつものことだ。



「私たちもあちらに混ざりましょうか?」



 ウィルの手を引っ張って立たせて、外に設えてくれているお茶会用のテーブルへと向かう。



「また、アンナリーゼ様に負けたのか?」



 模擬戦を見ていたのだろう、セバスチャン・トライドがカップをウィルに渡している。



「うるさいな!セバスだって姫様には勝てないだろ?」



 ウィルの言葉を聞いて平然と答えるセバス。



「当たり前じゃないか。

 学年で一番の腕前に勝てる方がおかしい。

 それに、僕は、体を動かしてっていうのは性分じゃないんだ」

「確かにそうね。

 セバスは、頭脳派だものね。

 でも、ある程度は護身用としてできる方がいいと思うわ!」

「ナタリー……君は、なんでもそつなくこなすからね。

 僕みたいに偏った人間が好きじゃないだけなんじゃないの?」



 三人で話をして意見をぶつけているのは、ウィルとセバスチャン、それとナタリーだ。

 セバスチャン・トライドは、ローズディア公国の男爵家五男。

 学年で3番という成績を収めているだけでなく、勉学以外にもかなりの博識である。

 うちの兄と一緒に置いておくと日が昇る前から日が昇るまででも語ることができるほど知識も豊富で、さらに頭の回転もかなりいい、兄のお気に入りの後輩である。

 しかし、こちらも五男であるため、爵位は与えられず公国で公民として働くことになる予定なのだが、私はひっそりと引き抜きを狙っている。

 私だけでなく、兄も狙っているようだが、今のところ、私に分があるように思っている。


 紅一点のナタリー・カラマスは、こちもらもローズディア公国の子爵家次女である。

 よく気の利く、そして、器用にこなしていく力がありなかなか重宝している人材だった。

 政略結婚が決まっていると聞いているので引き抜きは難しいと思っているが、あわよくばと思ってもいる。


 この三人は、学園に入る前から顔見知りであったそうだが、秘密のお茶会への参加を機に一気に仲良くなったらしい。

 三人そろえば、怖いものなしだ。


 私は、この三人の話を聞くのがとても好きだ。

 子気味よく話をしているので聞いているだけでおもしろい。

 悪口という軽口をたたきながら砕けて話せるのもいい。



「はいはい。そこまでにしましょう?

 今日は、おいしいお菓子もあるってお兄様が言ってたわよ?

 甘いもの、三人とも好きでしょ?」



 そうですねぇーと五人で囲めるテーブルに四人で座る。



「あっ!そうだ!アンナリーゼ様、紹介したい子がいるのだけど、いいですか?」



 このお茶会、もともとは私が気に入った人を誘って開催していたのだが、今では、誘われた人がまた新しい人を私に紹介してくれるとなっている。

 なので、会を開けばだんだん人も多くなってくる。



「いいわよ。どなた?」

「少し待っててください。呼んできます」



 そう言って、ナタリーは席を立つ。

 その間は、ウィルとセバスの三人で話をすることになったのだが、この二人もいつも思うが面白い噂話を見つけてくる。



 例えば……



「銀髪の君は、卒業式のパートナーが決まったらしいね。

 この夏季休暇、ダドリー男爵家のソフィア嬢の荒れ方がすごかったって社交界での噂。

 夜会っていう夜会で豪快に飲みまくっては、いろんな男に声をかけてたとかなんとか聞いたよ。

 俺は、たまたま出くわさなかったから、真偽はわからないけど……」

「あぁ、それね。本当だよ。

 僕、何度か一緒になったんだよね。

 ジョージア様が、全く構ってくれないと嘆きまくってた。

 なんか、執着しすぎて、怖いよ。女ってみんなあんなの?」



 セバスは、何回かの夜会でソフィアに出くわしたらしい。

 あんな女性に好かれるなんてとんでもないと不快感をあらわにしている。



「あら、そんな人ばかりではなくてよ!!

 あの方は異常なのよ。確かに銀髪の君は素敵だけど、ソフィアには、身の丈に合っていないわ。

 そう思いません?メアリー」



 急に話に割り込んできたナタリーとその後ろで問われた人物がいた。



「えぇ……話を聞く限りでは、妄執に近いように思います……」



 大人しそうだがはっきりと物申せる彼女こそが、今回、ナタリーが紹介したい人物であった。



 メアリー・サラサ。トワイス国の公爵家次女で1つ学年は下の人物だ。

 そして、トワイス国の第3妃・寵姫になるその人だ。

 ナタリーとは、親戚にあたるらしい。



「アンナリーゼ様、紹介させてください」



 ナタリーが私に向き直り紹介をと言ってくるので、今度は私が少し待ってもらう。


 たまたま視線があった兄をこちらにと視線で呼びつける。

 そうするとすぐに兄は私のところへ飛んできてくれた。



「アンナ、どうかしたのかい?」

「一緒に紹介を受けたほうがいい気がしたので……」



 視線を交わすが、わかってなさそうなので後で説明をすることにした。



「ごめんなさいね。しかも、立たせたままで……」



 いえと柔らかい笑顔をメアリーは向けてくる。



「では、改めまして、こちら、トワイス国サラサ公爵家次女でメアリー嬢です。

 アンナリーゼ様とお話してみたいと申されたのでお連れしました」



 ナタリーが私に向かって紹介をしてくれる。兄もうんうんと頷いて聞いている。



「メアリー・サラサです。サシャ様、アンナリーゼ様、以後お見知りおきを!」



 そう挨拶してくれるが、むしろうちの方が身分は下なので先に挨拶するべきだったと悔やむ。



「アンナリーゼ・トロン・フレイゼンと兄のサシャです。

 こちらこそ、本日お会いでき嬉しいです。

 これからは仲良くさせてくださいね?」



 花が咲くかのようにぱっと笑うと、メアリーもニコニコとしている。



「私のことはアンナと呼んでください。メアリー様」

「わかりました、アンナ。では、私のことはメアリーとお呼びください」



 挨拶もそこそこに今まで立たせていたので、ナタリーに言って席に座ってもらう。

 兄もどこからか椅子を持ってきていつの間にか六人でテーブルを囲んでいた。

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