第20話 招待状Ⅱ

 アンナリーゼの部屋を出てから、しばらく歩くとまた、一人で出歩いているジョージアと出会った。

 僕は、結構な頻度でジョージアと出くわすような気がする。




「ジョージア様、先日はご招待していただきありがとうございまた」




 まずは、挨拶がてら先日のお礼から話し始めることにした。




「あぁ、サシャ殿か。こちらこそ、話ができてよかった!」

「ところで、どこかに出かけられますか?

 これから、伺おうとしていたのですが、お邪魔でしたら、また改めて……」




 そう言ったところで、ジョージアに遮られる。




「いや、ちょっと息抜きに出てきただけだから、よかったら一緒に散歩にいかないか?」




 特にこれからの用事もなかったので、僕は一緒に行くと返事をする。

 なぜか、ジョージアが嬉しそうにしている。

 ん? と思ったが、気にせず、一緒に中庭に向かうことにした。




「そういえば、チューリップの見ごろはもう終わりだと聞いていますが、また、

 新しい花でも咲くのですか?」




 聞いてみるものだ。

 こんな質問でも、きちんと答えてくれる。




「今度は、東の端にある国にある「ハス」という花が咲くそうだ。

 ちょうどこれくらいのピンクの花が咲くとか。

 まだ、見ていないけど、水の中で咲くと聞いて見に行こうとしているんだ。

 珍しいと思わないかい?」




 ジョージアに言われ、ちょっと想像をしてみるが、イメージが全くわかない。

 あれから、花の図鑑など見漁ってみたけれど、東の端の国のものまではなかった。




「水の中に咲く花ですか? 不思議なものですね……想像がつきませんよ」




 そうこう話しているうちに中庭についた。

 でも、どこに咲いているのか見当がつかなかったため、ぶらぶらしていると池にポコッと浮いているピンク色のものが見える。




「あれ、ですかね……? 」




 恐る恐るジョージアを見てみると、うんうんと頷いている。

 先ほど、話していたくらいの大きさのピンクの花が何個か浮いている。




「上からみてみようか? 」




 池を見渡せるように東屋が設置してあるので、二人でそこへ足を運ぶ。

 かわいい女の子とならいざしらず……妹の未来の旦那だと思うと、せつない。

 そして、かなり美人なのだ。

 下手に女の子と一緒にいるより、なぜかぐっと緊張した。

 対面に優雅に座るジョージアは、先ほどの花を指さし、なかなかのものだと満足そうにしている。

 僕もそちらに視線をうつすと、ジョージアのいうとおり見事な花であった。




「美しいですね。今度、妹にも教えてあげます」

「そうしてあげてくれ。去年はなかった花だ。気に入ってもらえるといいがな」




 一通り目で楽しんだわけだが、そろそろ本題を伝えてもいいころじゃないだろうか?




「ジョージア様、我が家への招待状をお渡ししたく……今でもいいでしょうか? 」




 そういって先ほど書いたばかりの招待状をポケットより出す。

 なんだか、雰囲気のある東屋のおかげで、ラブレターでも渡しているようである。

 僕は、そんな気は、全くないのだけど……




「そういえば、日にちは決まったの?」

「はい。そうですね。翌週の休日にさせていただきました。

 一応妹の外聞もかんがみさせていただいて、ジョージア様へは僕からの招待状ということに

 なっています。

 ですが、我が家にいらしたら妹と話ができるように用意させていただいてます。

 隠れ蓑というわけではないのですが、実は当日もう一方呼ぶことになっています。

 アンナの友人なのですが、誰かまでは聞かされていません。

 こちらの方は、私のほうで対応させていただくことになっています」




 ほぅという言葉と面白いという顔でこちらをじっくり見られ、僕は少し恥ずかしくなった。




「それは、どちらが言い出したのだ? 」

「どちらと言いますと?

 あえて言うなら二人でってところでしょうか?

 妹は、何せものすごい縁談の数を受けていますからね。

 特定の方と会っているとなると外聞がよくないですし、私はこのとおりモテませんから……

 妹にあやかることになりました」




 なるほどと頷いている。

 納得しているらしい。

 それはそれでちょっと! と思うが、事実、妹の縁談話はすさまじい。

 それに比べ、全く何もないのは僕だ。

 それを妹がなんとかしてくれると言ってくれるのだ。



 すがれるものにはすがる。



 ジョージアみたいにわらわら言い寄られるのも大変だが、全くないのも大変なのだ!

 そして、卒業式のエスコートも控えている今現在、大変困っているのも事実。

 今から打てる手は打っておかないと当日、泣くのは僕自身なのだ……

 


 あぁ……妹よ……僕の天使!

 


 いつもは、あれだけど……と、一人の世界に入っていった僕はジョージアに不思議そうに見つめられていた。




「サシャ殿? 戻ってきてくれ……」

「あ……はい、ただいま戻りました、ジョージア様。

 と、いうことでですね、当日、妹のこと、よろしくお願いします」




 そこまで言うと、僕は楽しみすぎて、また向こうの世界に戻りそうである。




「そうだ、家に招待してもらう仲になるのだ。

 そろそろ、ジョージアと呼んでほしいのだが……

 あと、もう少し砕けた話方で……」



 目を明後日の方に泳がせたいが、この蜂蜜の瞳には何か特別な魔法でもかかっているのか……逸らせない。




「滅相もないですよ。と言いたいとこだけど、いいんで? そんなこと言っても」

「あぁ、構わない。正直、誰も彼もがかしこまって寄ってくるのはちょっと窮屈なんだ。

 その方がありがたい。できれば、教室でもそうしてほしい」




 そこで、ジョージアは、ほんのり微笑。

 落ちない令嬢はいないだろう……何その笑顔……僕、恋に落ちそうですけど……ちょっと赤面。




「わかった。これからは、そのように。では、僕からも。サシャと呼んで」




 こちらは、妹と同じ土台のはずなのだが、なぜか平凡な顔立ちになっている自分の最高の笑顔でお願いしておく。




「ん。サシャ、今度の招待、楽しみにしている! 」


 


 そこで話は終わり、寮までまた一緒に歩く。

 ちらほら、カップルが中庭の散策をしているのが見えていた。

 男二人で中庭を散歩していることが、恥ずかしくなり二人とも赤面だ。

 お互いの顔をみて指摘し合って、大きな声で笑ってしまう。



 なんだ、ジョージアってかなりいいやつじゃん! 僕、かなり気に入ったかもしれない。

 今日のひと時を両親への報告として書くことに決めたところだった。

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