第18話 兄妹の計画案Ⅱ

 私は、至急の兄の嫁候補のことで報告書を母に送り、太鼓判をもらったので、2日後の兄とのお茶会に向けて、ある令嬢のところへ足を運ぶことにする。


 普通は、一人私付の侍女がいるのだが、私には理由があっていないのだ。

 私自身で動き回ることになるのだが、この寮では、私の突然の訪問も暗黙の了解となっている。

 私と同じ階にある一番奥の部屋に向かっているところだ。

 部屋の前までいき、ふぅっと一つ深呼吸をする。

 


 コンコンとこぎみよくノックする。




「はい、少々お待ちください」




 侍女の声が聞こえたので、私は一歩後ろに移動する。

 扉が開いて、侍女の顔が見えた。




「アンナリーゼ様、ようこそお越しくださいました!」




 いつも思うが、なぜか、この侍女にはとても歓迎される。

 そのまま、主人に取次なしで部屋に通されてしまった。




「ごきげんよう! エリザベス!」




 侍女に案内され入ったところで、この部屋の主人に声をかける。




「アンナ!ごきげんよう!今日はどうなさったの?」




 侍女と同じように主人であるエリザベスもにこやかに私を受け入れてくれる。




「先程まで、兄とお茶を一緒にしていたの。

 その時に珍しいお菓子を用意してくれたので、一緒にいただかないかと思って」




 お菓子の入った包みを持ち上げると、まぁ!とエリザベスは嬉しそうにしてくれる。

 そして、お茶の用意をするよう侍女に頼んでいた。




「こちらにいらして! サシャ様とはどんなお話していたのか、聞かせてくれる?」




 エリザベスは、席を進めてくれたのでそこに座らせてもらい、先ほどまでの兄との話をすることにした。



 このエリザベス、私の『予知夢』では、「義理の姉」になる予定の人なのだ。

 一目会った時から、私はとっても気に入っていたので、兄にも是非薦めたいと思っていたら、きっちり夢にまで出てきてくれた。

 それにありがたいことに、エリザベスって、兄のことが好きなのだ。

 こうして、私を受け入れてくれるのも、兄のおかげでもあるかもしれない。

 ただ、兄とは接点がなかなかなくて話すことができないでいるらしい。


 そこで、優秀なサシャの妹である私の出番ということだ。

 きっちり仲を取りもとうと思う。

 そして、是非とも私の義姉になってもらいたい。

 もし、このチャンスを兄がものにできないようなら、私は兄を見限るつもりでいるくらい私もとってもエリザベスが好きなのだから。




「兄とは、卒業式のエスコートの話をしていたの!」




 一言「卒業式のエスコート」と言った瞬間、エリザベスの目の色が変わったように思う。




「あの……サシャ様は、もう……」




 もじもじとしながら、エリザベスは聞いてくる。

 よし、脈あり。元々あった脈も確実となった。




「いいえ。まだ、決まっていないの。

 それで、パートナーがいなくてとても悩んでいるって言っていてね?

 声をかけるにもなかなかいい人もいないようで……」




 そう……と嬉しそうに、でも、せつなそうにしているエリザベス。

 さすがにちょっと言い難いんだけど……兄をお婿にどうだなんて……

 でも、兄のため、家のため、そして、何より私のため!!




「あのね……とっても、言い難いんだけど……エリザベスさえよかったらなんだけど……」




 いつもの私と違ってものすごく歯切れの悪い話方にエリザベスは、小首をかしげてこちらを見ている。

 とっても不思議そうに。




「あの……エリザベスを兄に紹介させてもらえないかな?

 私、兄も好きだし、エリザベスもとっても好きなの。

 だから、もし、うちの兄でよければ、エスコートの件考えてほしいと思って……」




 ちらっとエリザベスを覗き見してみると、目がウルウルして、滴がこぼれた。

 ちょうど、その時に侍女がお茶を持ってきたので、大変である……誤解だ!




「エリザベス様!! どうなされましたか!? アンナリーゼ様!!」




 取り乱す侍女に睨まれ、叫ばれ……私は散々だ。




「ニナ! 違うの!! アンナは何も悪くないわ!

 私が勝手に涙を流してしまっただけ……アンナもニナも突然、ごめんなさいね

 ビックリしたわよね……」

「私は、大丈夫。ちょっと、こういう展開も想像はしてきてますから……」




 そこまでいうと、私はきちんと座り直してエリザベスに向き直る。




「エリザベス……いえ、エリザベス様、ぜひ、私の兄に紹介させてください!!

 あなたは、とっても可憐で聡明なお嬢様だわ。

 見た目だけでなく、しっかり芯も通っている素敵な方で、私にとっては憧れのお姉さまですわ。

 うちの兄をお願いします!!」




 私は、兄のため自分のため、エリザベスに頭を下げる。



 ニナにより涙も拭かれすっかりかわいいお嬢様になったエリザベスは、笑ってくれる。




「私が憧れのお姉さまですか?

 アンナにそんなこと言われるととても恥ずかしいけど、とっても嬉しいわ」




 そこで、いったん切られる。

 そして、意を決したかのように優しく語りかけてきた。




「アンナは、私をサシャ様に紹介してくれるという。

 それって、私の気持ちに気づいているからかしら?」




 語り口調で試すように言われると、私は、はいと答えるしかない。




「そうですね。知ってます。

 エリザベスが、兄に好意を寄せていることも。

 それと縁談もかなりの数が来ていることも知っていますよ。

 でも、どの縁談より、兄と一緒になったほうが、エリザベスは幸せになります。

 多少、うちの兄は頭でっかちのあんぽんたんですが、少なからず、打算的ではないかと。

 一度好意を持てば、半永久的に持ちますからね……よっぽどのことがない限り。

 そして、エリザベスの好感度は、今現在もばっちり。

 私もそのように話もしてますしね。兄は、エリザベスに興味も持っていると思いますよ」




 エリザベスは、口をパクパクさせながら赤面している。

 まさか、兄妹のお茶会で自分の話題が出ているだなんて思ってもみなかったようだ。




「我が家への招待、受けていただけますか? まずは、私の友人としてですが……」




 ちょっと切なそうに上目使いで言ってみると案外了承してくれそうな雰囲気だ。




「……わかりました。ご招待受けます」




 はぁ……と、ため息一つついてエリザベスは了承してくれた。




「それで……招待は私からしますし、紹介はしますが……

 当日は、兄とエリザベス、二人のお茶会にしてもいいでしょうか?」

「えっ? どういうこと……?」

「実は、当日もう一人お客様が来ます。

 エリザベスはよく知っているはずの方ですが、交換お茶会ですね……

 私も兄から紹介される側なのです……」




 そこまでいうと、兄妹の悪だくみも受け入れてくれたようだ。




「そう、アンナも紹介される側なのね……ちなみにどなたか伺ってもいいかしら?」




 少しためらった。

 でも、将来の義姉に隠し事しても仕方ないので正直に答えることにする。




「あの……内緒ですよ?」




 ちょっと気恥ずかしい。

 家族以外には、自分で言ったことがなかったから。




「わかりました。ここだけの秘密にしましょう」




 エリザベス、とっても悪い顔してるよ?と思う。

 人の恋バナってとても楽しいものだから仕方がない。

 私は、深呼吸を一つして、姿勢を正す。




「銀髪の君を招待します!」





 …………沈黙…………





 どれくらい沈黙しただろう……か?




「アンナ?銀髪の君は、確かダドリー男爵のご令嬢と婚約されたと噂されていますが?

 そんな方を紹介されるなんて、サシャ様に幻滅いたしました!!」




 そういって憤慨し始めるエリザベス。




「お……落ち着いて!! エリザベス!!!

 ねっ? 一旦、落ち着こう!」




 そっと置かれているカップをエリザベスに手渡すと、ぬるくなった紅茶を一口飲んでいる。

 それで落ち着いてくれたと油断していた。




「落ち着いてなんていられません!!!

 私の大事なアンナになんてことでしょう!!」




 ……そうではなかったらしい。

 そして、エリザベスは、兄と同い年なのでソフィアがいた頃をよく知っている。

 それこそ、ジョージア様にいついかなるときもぴったりくっついていて、他の女性が近づこうものなら、お呼び出しや嫌がらせなど日常茶飯事ですごかったらしい。

 ソフィアも余裕を持って接するほうが、私はいいと思うのだけど……むしろ、ジョージア様に幻滅されないのかしら?と思ったけど、誰もソフィアには言っていないらしい。

 まさに、私がイリアから同じような嫌がらせは受けているから……なんとなくわかる。

 イリアからすれば、折れない私がさらに憎いらしいけど、私の方は、イリアに対して特別なんとも思っていないのだ。

 これは、イリアには、内緒だ。




「おやめなさい。あんな気性の女性がそばにいるような男性は、アンナが幸せになれません!!」




 エリザベスが、真剣に私のことを考えてくれていることがとっても嬉しい。

 なので、私は笑顔で返す。




「大丈夫。これは、運命で決まってるから……私、抗うつもりはないわ。

 でも、そんなふうにエリザベスが心配してくれて言ってるのが、とても嬉しい!!

 やっぱりエリザベスは素敵ね!!」




 断固反対といいつつ、私に呆れているエリザベス。




「私のお願い聞いてくれる? やっぱり、嫌かな? 」

「嫌な理由はないわ。

 サシャ様を紹介してもらえて、一緒にお茶会まで用意してもらえるなんて、

 私にとっては願ったり叶ったりだもの。でも、アンナのことが……」

「私のことなんて、気にしなくていいの。

 エリザベスにチャンスが巡るように私にもジョージア様を知るチャンスが巡ってきただけよ。

 そんなに深く考えないで!」



 

 その後、招待をしてもいい日を確認していく。

 そうすると、どの日も大丈夫だとニナが答えてくれる。




「では、兄と相談して、招待状送るね。

 実は、兄には誰を紹介するって言ってないの。

 だから、当日まで内緒ね!

 どんな顔するかしらね。

 もう、腰ぬかしちゃうかもしれないわね!」




 ふふふと笑うと、エリザベスもにこやかに笑っている。




「楽しみにしているわ!」




 それから、しばらく最近の近況をして、私はエリザベスの部屋を退出する。




 ここに、兄妹の計画がなったことになる。

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