願いをさえずる鳥のうた

@chauchau

毎日会話内容に苦労する


「頭脳明晰はどうかしら? ああ、でも……」


「今度は何が不満だ」


「つまらないかもしれなわね。世界のすべてが瞬時に分かってしまうのは」


 わざとらしくため息をつく貴方の態度は如何なものかしら。

 こちらは真剣に悩んでいるというのに。


「いい加減に願いを決めてくれ……。もう二か月だぞ、分かっているのか?」


「とりあえずで決められるものではないでしょう? 叶えてくれる願いは一つだけ、それもなんでも良いわけじゃないんだから」


 私自身に関わることでしか叶えることが出来ない。つまりは、他人の心は変えられない。とはいっても、私をここから出すことは出来ない。

 私のもとにやってきた魔神はなんとも微妙な力しかもたない人でした。……人、ではないけどね。


「もう一度説明するぞ? 俺はお前の願いを叶えるためにここに居る。それが」


「生贄として神に捧げられた私への褒美なのでしょう? 耳にタコができるほど聞いたわ」


 高い魔力を持つ穢れなき少女を塔に閉じこめて、世界は今日も平和を保つ。


 穢れなきとか言われても、単に相手が居なかっただけの田舎娘には荷が重い。これで家族のために! とか言えれば良かったけれど、実の両親は私を売り飛ばしたお金でほくほくしていると思えば恨みつらみしかない。


「つまりは、中途半端な願いしか叶えることが出来ない貴方が悪い」


「仕方ないだろう。大それた願いを叶えることが出来たら世界の均衡が」


「仕方がない、仕方がない。口を開けば二言目にはそればっか」


 お返しのわざとらしいため息に、貴方は頭を掻きむしる。

 塔の中にはなにもない。食事といった最低限必要な行為すら不要になる理屈なんて田舎娘には分からない。分かるのは、静かに死んでいくまでここに居るしかないということ。

 自ら命を絶つことは出来るらしいけど、それは怖いのでまだ出来ない。数年経ったら分からないけど。


「よぉく考えてみたんだけど」


「今度は何だ」


「人間の一生を賭けた願いをすぐに決めるのは難しいわね」


 魔神のすごい渋い顔を楽しんで、私はしばらく黙ることにする。

 せっかく伝えた願い事の内容が変わってしまってはいけないから。とはいえ、


「まただんまりか……、毎日毎日適当な願い事ばっかり言わずにもっと真剣に考えてだな……」


 私自身に関わることではないから、この願いは叶えてもらえない類なんだろうな。

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