第34話

「そんな怖い顔しなくても大丈夫ですわ。殺人なんてそんな物騒なこと毎日あるわけじゃないですし」




「それがあるんですよ」




「えっ?」




「アンジュ……アンジュ騎士検事がダヤンの廃墟で殺されていました」




「そんな! なんであの子が……」




 フローレさんはそう言って頬から涙を流していた。


 ふむ。


 涙流すから怪しい感じじゃなさそうね。


 あたしの思い違いか。


 神殿の入り口の辺りから竜らしきモンスターの鳴き声が聞こえた。


 鳴き声には聞き覚えがあった。 


 これはワイバーンタクシーに違いない。




「失礼するっす!」




「あれ? ペンタゴン刑事じゃない!」




 てっきりオーク警察のモンスターさんだと思ったら違っていた。




「また会ったっすね」




「こんにちは、ペンタゴン刑事。何かこちらに用事でもあるんでしょうか?」




「フローレ殿に今日殺されたアンジュ騎士検事の魂の浄化と葬式をしてほしいっす」




「……わかりました。すぐに準備します」




「解剖があるのでその次の日にお願いするっす」




「はい。デニス最高局長にも連絡しておきますね」




「そっちは我々がやるので準備だけお願いするっす。ではこれで……」




 ペンタゴン刑事はそう言って去って行った。


 あたしもここにもう用はないわね。


 甲冑男が犯人で間違いないだろう。


 こっちには決定的な証拠もある。




「フローレさん、あたしも帰ります」




「はい、まだ殺人犯がいるかもしれません。気を付けて……」




 そういってフローレさんは神殿の奥にある部屋に戻った。







 パンプキン弁護法律事務所に戻り、ドアを開けるとパンプキン所長が聖石で何やら話している。




「あいや! サンマリの町で殺人事件であるな! 疑われているのは甲冑男のゴンであるか?」




 サンマリの町?


 この前の甲冑男が殺したんだろうか?


 その可能性は高い。


 調査してみるか。




「あいや! では、事件が起きて疑われている甲冑男のゴンさんを弁護しましょう。それと今から現場に向かいましょう」




 パンプキン所長はそう言って聖石の通話終了ボタンを押した。




「パンプキン所長!」




「あいや! 奈々子殿どうしたのであるか?」




「ダヤンの廃墟で殺人事件が起きました」




「な、なんと! 今日は恐ろしい日であるな! で、殺されたのは誰であるか?」




「騎士検事の……アンジュです」




「なんと!」




 パンプキン所長が驚いているとパンプキン所長の聖石が振動していた。


 おそらくマナーモードの着信なのだろう。




「あたしもサンマリの事件現場に行ってもいいでしょうか?」




 この二つの事件には間違いなく関連性がある。


 行かなければいけないだろう。




「奈々子殿。その話は後で……もしもしパンプキン・ブレッドである」




 パンプキン所長は聖石で話し始めている。




「奈々子さん。お茶持ってきましたゾン。怖い体験をしましたが、とりあえず今はお茶でも飲んでリラックスしましょうゾン」




 あっ!


 ゾン太郎さんいること忘れていた。


 あたしも結構薄情ね。


 反省反省。




「どうしましたゾン?」




「いえ、何でもないです。パンプキン所長の聖石の話が終わるまでは短い時間ですがお茶でも飲みますね」




「あいや! ではペンタゴン刑事と一緒にワイバーンタクシーで現場に行くのである」




 お茶を飲んでいるとどうやらパンプキン所長の話が終わったようだ。


 ペンタゴン刑事はあの狐の刑事だろう。




「パンプキン所長」




「あいや! 奈々子殿、なんであるか?」




「サンマリの町の事件現場にあたしも行っていいでしょうか?」




「申し訳ないが我輩の担当する事件なのでダメである」




「そこをなんとか……出来ないですか?」




「ペンタゴン刑事に奈々子殿がゼニスキーさんの弁護依頼をしていたことを聞いていたので同時弁護は駄目である」




 くっ!


 関連性のある事件なのに!




「……わかりました、その代わり裁判をする日時は同じでしょうか?」




 少しの間があった後にパンプキン所長はその質問に答えた。




「あいや! あの時のスライム立体ビデオカメラの映像で、この事件に関係があるのは我輩も奈々子殿と同じで関連性があると思っているのである」




「それなら何故あたしを連れていかないんですか?」




「サンマリの町の殺人事件関係の書類や証拠品は『裁判が始まって本来の犯人を二人とも別々から同時に裁くために今は切り札としてとっておく』のである」




 本来の犯人?


 裁判が始まるまでは余計な情報ということかな?




「それぞれの事件の裁判日時は同じにするので奈々子殿と我輩で協力して弁護するのである」




 協力して弁護?


 パンプキン所長は自分の弁護中に同じく弁護しているあたしがパンプキン所長の弁護する甲冑男のゴンさんを連れ出して両方の事件を同時に解決させると言っているのだろうか?


 なるほど。


 強引だけど、それしかないわね。




「分かりました。裁判が始まるまでここで留守番しています。裁判の日時はいつになるんですか?」




「両方とも今日キマイラ宅配便に弁護書類を渡せば明後日である」




「分かりました。ここでペンタゴン刑事からもらった弁護の書類を書いてキマイラ宅配便に送ります」




「書き方は僕が教えますゾン!」




「ありがとうゾン太郎さん」




「では我輩は事件現場にワイバーンタクシーで行ってくるのである」




「はい」







 キマイラ宅配便に書類を送ってから一日が過ぎた。


 あたしは犯人だと疑われてペンタゴン刑事に逮捕され留置所に入っているトロルのゼニスキーにワイバーンタクシーを使って会いに来た。


 お金はパンプキン所長と一緒に乗ってパンプキン所長が二人分の料金を払ったのですぐに裁判所に着いた。


 ゾン太郎さんは馬車で裁判所に向かっている。


 着く頃には裁判が開始されるだろう。


 しかし、ワイバーンタクシーは凄い早さだった。


 低空飛行でビュンビュン飛んでいた。


 これは馬車より早いけど……けれど。




「……心臓に悪いわね。ジェットコースターみたいだわ」


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