第32話
「初めまして、あたしは……」
「奈々子弁護士っすよね。分かっているので自己紹介はいいっす!」
なんだあたしのこと知っているんだ。
っていうか弁護士というか弁護士候補生だけど……まっ、いっか。
「連絡感謝するっす。後は我々に任せてこの場から離れてほしいっす!」
「えっ……でも……」
「奈々子さん、証拠品はある程度集まったし、後はオーク警察に任せましょうゾン」
「……分かりました。パンプキン弁護法律事務所に戻ります。ですが……」
「何かあるっすか?」
「この事件の弁護士はあたしが担当します。それでいいですか?」
アンジュには短い期間とはいえ裁判で話し合った仲だ。
身近な人物だと個人的にそう思う。
何よりあたしは殺人が許せない!
絶対にあたしの手でアンジュを殺したそいつを有罪にしてやる!
「了解したっす! 怪しまれているのはトロルのゼニスキーっす。ではこの書類に今回の法廷で今さっき聖石を使って逮捕したゼニスキーを弁護をするということを書いてほしいっす! 今日中に書いて送れば明後日には裁判が出来るっす!」
ペンタゴン刑事はそう言って『弁護士裁判登録書』という紙をくれた。
ゼニスキーって神殿で甲冑男と話していたトロルね。
怪しい奴だけど、弁護しないといけないのね。
「期限は一週間っすからその時までに書類送って欲しいっす! 書類送付が早ければ早いほど送った二日後に裁判が出来るっす!」
「ペンタゴン刑事、この書類どうやって送るんですか?」
「奈々子さん。それならキマイラ宅配便で送れるから大丈夫ですゾン」
ゾン太郎さんがペンタゴン刑事より先にそう言った。
「そう言うことっすから、もうここに来ないでほしいっす!」
「はい……それでは失礼しました」
あたしとゾン太郎さんはパンプキン弁護法律事務所に戻った。
※
パンプキン弁護法律事務所に戻る途中で思い出したことがあった。
あたしはそれで足を止めた。
「奈々子さん。どうしたんですかゾン?」
「ごめん、ゾン太郎さん。先に帰ってて!」
オルデラーンド神殿でのトロルと甲冑男の会話を思い出した。
『それじゃあ。こっちは聖石でそっちの連絡待つゼニ。終わったらすぐに現場を離れて、この神殿あたりで聖石で連絡してくれゼニ』
あの時の言葉を思い出す。
あたしはゾン太郎さんの声を無視してオルデラーンド神殿に向かった。
※
「はぁ、はぁ……はぁ、はぁ……つ、着いたわ」
やれやれ、今日は走ってばっかりね。
スポーツドリンクが飲みたくなるわね。
とりあえず呼吸を整えるか。
ふぅ……さてと……。
あたしは息を整えてオルデラーンド神殿の柱に隠れた。
柱の先にはやはり予感が的中したのか聖石で通話している甲冑男の姿があった。
あたしはスライム立体ビデオカメラで撮影を始めた。
「ああ、あのアンジュとか言う女騎士はしっかりやっておいた。そっちはどうだ?」
やはりこの甲冑男がアンジュを殺したのだろうか?
あたしはバレないように隠れながらスライム立体ビデオカメラで撮影を続ける。
「秘宝は? 何っ! 無いだと? 家主のブラギはどうした?」
甲冑男は動揺しているのか、挙動不審だった。
「そうか、すでに秘宝は先祖によって取られていたのか。家主のブラギは始末したんだな?」
秘宝?
というか始末って言葉聞く限りだと、あたしが弁護するトロルのゼニスキーが家主を殺したんでは?
「よし、わかった。秘宝が無い以上はお互い秘密を守ろう。では、これで失礼する」
そう言って甲冑男はオルデラーンド神殿から去っていった。
その間に柱に隠れて、甲冑男に気づかれずにやり過ごした。
あたしはスライム立体ビデオカメラの撮影を止めた。
「奈々子さん、こんなところで何をしているのですか?」
「うわっ! だ、誰かと思えばフローレさんじゃないですか!」
いつからいたのかフローレさんが後ろにいた。
「スライム立体ビデオカメラで撮影をしていたんですか?」
「え、ええ。そうです」
「盗撮は良くないですよ」
「す、すいません」
「たとえそれが殺人事件であってもです」
「えっ?」
なんで殺人事件って知っているんだろう?
この事件に関わっているのかしら?
「まぁ、冗談ですけどね……フフフッ……」
「……」
もしかしてこの殺人事件にフローレさんが関わっている?
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